Z-KEN's Waste Dump

喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

きかんしゃトーマス 第1シリーズ(1984)レビュー

※この記事にはネタバレが含まれています。

また、記事の感想は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。

 

 今年で原作絵本出版から75周年と同時に、私がトーマスに再熱&レビューを書き始めてちょうど10年経つと云う事で、今回から全く感想を述べた事の無い第1~12シリーズから、完走した第13~18シリーズまで今一度レビューをする企画を始めようと思います。特に模型期の感想は、CGシリーズをこよなく愛する私にしては珍しい事でしょう。

過去作の批評をする行為は、賢明とは正反対に、とても褒められるものではありません。でも、特に私が過去に行ったS13-18のレビューでは、いかに小ネタが多いか、いかに原作や初期に近いかなどしょうもない基準で評価づけていて、個人的にやり直したいと思ったのです。

 どのシリーズでも、それぞれの魅力を語り、TVシリーズの歴史を振り返りながら改めて自分が思った事、感じた事と一緒に、絵本でもテレビでも触れられないような豆知識も添えてなるべく簡潔に述べていきたいと思っていますのでよかったら楽しんでいってください。基本的にUK版準拠で、ときどき日本語吹替え版とUS版の事も触れます。

 

【目次】

 

 

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©Gullane ©Mattel

E01『Thomas & Gordon』『トーマスとゴードン』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 休憩中にからかわれたゴードンは急行列車の大変さをトーマスに身を持って示すべく仕返しする。

【高評価点】

・トーマスが何者であるかの説明を簡潔にかつ詳細に描いている。

・後ろ向きで客車の後方を引っ張る場面。(今では珍しい)

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 機関車≠人間の子供ですが、時に行動や心理が人間の子供と共通点があるとして、オードリー牧師は世界中の子供たちが気に入ってくれた理由とそれを愉しんでほしい旨の前書きを日本版第1巻の著者メッセージで執筆されています。子供たちのための物語に加え現実的でマニアックな鉄道ネタや、細かな地理、歴史の設定など数多くの魅力的な要素がつめ込めれている中で、大人になった現在の私が最も重要視と云いますか、気に入っている点はその子供との共通点です。話の中に登場する機関車たちはみんな子どもと同じように面白い事が大好きで、悪戯もすればふざける事も得意、時に身勝手な行動を取ったり好奇心で動くなどの一面を持ち、いつも愛おしいと感じています。

まさにその部分が特に強調されているのがこの『トーマスとゴードン』です。

 はい、トーマスは原作では2巻からの出演で、最初はエドワードですが、TVシリーズの幕開けにはぴったりの方法であると思います。機関車が子供のように振る舞い罰を受けて成長する代表的なシナリオです。ゴードンの仕事内容を実際に知らないトーマスは、休憩中の彼に向かって怠け者だとからかって汽笛を鳴らして悪戯をします。私が愛おしいと感じる部分が全て詰まっています。

 冒頭ではトーマスが何者か、どんな役割を果たしているかを簡潔に、それでも十分に描かれています。後ろ向きで引っ張って客車の準備をする場面が特に好きです。映像効果は美しく、テンポも良く、蒸気機関車の音を思わせるキャッチーな音楽も素敵で、時々何度も観返す度に、素晴らしいなと感じます。私にとって最高の1話です。

 

【豆知識】

 ちなみにゴードンの最高速度は時速約160キロで、トーマスは(モデルになった機関車がLBSC E2の場合)50~80キロです。最高速度でなくても実に倍近い速度で走らされている事になるので相当疲れた事でしょう。

 

総合評価: 10/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E02『Edward and Gordon』『エドワードのおてがら』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: エドワードの乗組員は彼を気の毒に思い、彼を出掛けさせる。その翌日、丘で立ち往生したゴードンを助けに行く。

【高評価点】

・1巻『三だいの機関車』から1話『エドワードのたのしい一日』と2話『エドワードとゴードン』を組み合わせた構成。

 

【低評価点】

・原本通りエドワードが機関庫で一番チビだと言われているが、機関庫に同じサイズのジェームスと、もっとチビのトーマスが居る。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ウィルバート・オードリー牧師の最初のキャラクターであるエドワードが主役です。1942年、クリストファーが2歳半の頃、麻疹で寝込む息子の為にオードリー牧師が書いた単純で短いエピソードと、同じくその次のお話を組み合わせた構成です。4分半という制約上、駅で車掌を待つ部分はカットされていますが、組み合わせることでより深みがあり、より確かにエドワードがどんな機関車かをすぐにわからせてくれます

エドワードはこの中で誰よりも古いけど、客車にも、困っている機関車にも親切で、テンダー機関車であるにも拘わらず*1貨車の入換えが大好きです。そしてフットワークが軽い印象もあります。

ゴードンも、この2話でどんな機関車かイメージが固まるかと思います。威張りん坊で、急行列車が大好きで汚い貨車が嫌い。この話では、力持ちなのに丘の中腹で立ち止まって貨車の所為にします。まるで愚図る子供の様です

また、この状況はキングズノートンにあったオードリー家近郊のリッキー・インクラインで列車が立ち往生する普段の光景に基づいています。

 

 助けられたゴードンはエドワードの事なんか忘れて丘を駆け下りていきます。くたびれたエドワードに機関士が優しく声をかけるところで幕を閉じます。

 US版及び日本版では、終盤に息を切らしながらも役に立てたことを幸せに感じたという描写を追加しています日本版ではエドワードの台詞が更に加えられています

あーあ、行っちゃった。でもいいさ。役に立つ事が出来たんだからという名言が。聖人か。

このように模型期は口が動かないので、日本吹替え版では感情を表すナレーションを基に台詞に置き換えるなどの工夫をして華を添えています。口が動くようになったCGシリーズでも、表情が写らない場面で時々脚色やアドリブが入ったりします*2

 

 一つだけ短所があるとすれば、原本通りの語りなのに機関庫の場面で語りに釣り合わないトーマスとジェームスが居る事です。トーマスはエドワードよりも小さいですし、ジェームスはエドワードとほぼ変わらない大きさです。しかし、それは大きなポイントではなく、物語は堅実で、ほっこりします。

 

 記憶が正しければ私が1歳の時、人生で一番最初に観たエピソードがこれでした。1996年に発売されたUS版のVHS「Thomas & His Friends Helps Out」に収録されていたものです。当時は英語はもちろん日本語も理解していませんでしたが何度も観返してキャッキャと騒ぐくらいには楽しんでいたようです。大人になった今も、子供の頃とは違う視点で、飽きることなく楽しんで観ています。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E03『The Sad Story for Henry』『でてこいヘンリー』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

【高評価点】

・旧型のヘンリー。

・赤い機関車がトーマスに置き換えられている。

・感情的なBGM(ヘンリーのテーマ)。

 

【低評価点】

・原作同様ヘンリーが閉じ込められた後2つ目の穴が掘られたとあるが、トンネルは既に2つある。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 某英紙のジャーナリストからは「児童虐待」「適切な教訓が無い」、某アメリカ人ユーザーからは「生き埋め」「トレイン拷問ポルノ」などと攻撃的に表現され現代で度々物議を呼ぶエピソードですが、私からの観点では何も問題ないと思います。

 まずヘンリーの態度をよく見てみましょう。雨に濡れて自分のボディを台無しにしたくない為に、客車に乗るお客そっちのけでトンネルに籠って、うだうだ駄々をこねたり見栄を張ります。お客さんの事もハット卿の事も気にも留めません。補足すると、機関車にとって雨は何でもないただの水です。そもそも水を弾く下地が塗られてある*3のでペンキが落ちる事はそうありません。(仲間に唆されたのだろうか?)

機関車達に指示を出すハット卿は、仕事をするように話したが、ヘンリーが応じることが無かったので、じゃあ好きにしろと、諦めるように宣告をする感じで罰を与えました。乗車中の電車の運転士が勝手な駄々をこねて「ふふーんだ」なんて態度取ったら、あなたはどう思いますか?

 実際に閉じ込められたら大問題ですが、この話で得られる教訓は「ワガママで自分勝手な事ばかりやってると罰が当たるよ」という古典的な事例を示しています。『ピノッキオ』など昔の童話を例にしていただければ伝わりやすいでしょうか。嫌いな物への勇気が出せなければ刑務所行きなどという教訓ではありません。社会問題に敏感になるのも無理ないですが、短絡的な視覚情報でキレてないで、お子さんにちゃんと教えてあげてくださいな。

 

また、ヘンリー自身も最後に得た教訓を糧にして次の成長に繋がります。まあ、彼が原作者の不満で左右される結構可哀想なキャラクターであることは否定しません。。。

ちなみにUK版は原作と同様にヘンリーに科された罰は無期限の物とされていますが、US版と日本語版では視聴者がその後の展開を予想しやすいように処罰が一時的である事がナレーションによって示唆されています。

 

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©Gullane ©Mattel

 原作のジェームスによく似た赤い機関車の役割がTV版ではトーマスに置き換えられている件は理に適った方法だと思います。1巻にトーマスは出ませんが、ヘンリーとゴードンより先に来島しており、当初の勤務先であったヴィカーズタウンにも近いからです*4

ちなみに原作1巻に登場する赤い機関車はファンの間でしばしば「イーグル」と呼ばれていますが、そのイーグルと云う名は英国人ファンが二次創作で付けたものであり、正式な名前ではありません。(本人談)。「ドライウェット波止場」*5「バルカラ鉄道」*6と並んで、英語を理解しない一部の日本人ファンがよく間違える要素の一つですね。

(私のTwitterのフォロアーさんは何が間違いか理解していると私は信じています)。

 

 トンネルを塞いでいく場面のテンポの良さとユーモアが好きです。また、後述の19話に至るまでヘンリーが始めから旧型の仕様*7である事も素晴らしいです。

 ヘンリーの表情とヘンリーのテーマも相俟って悲しいエピソードですが、『トーマスとゴードン』と同じく機関車キャラクターが子供のように振る舞い、悪態ついて失敗し、学ぶ、可愛いエピソードでもあります。続いても続かないにしても道徳のある童話は多少のインパクトが記憶に残った方が後々良い傾向をもたらすだろうと思います。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E04『Edward, Gordon and Henry』『ヘンリーだいかつやく』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トンネルの前でゴードンの安全弁が破裂し、急行列車をエドワードとヘンリーが担当することになる。

【高評価点】

・ヘンリーにとってのハッピーエンド。

 

【低評価点】

・終着点がウェルズワースなのは何故。

 

 【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ヘンリーの人生はトンネルに閉じ込められて終わりではありません。トンネルから出るまでの続きがあります。

一旦、ここで原作絵本の裏話を挟みます。元々オードリー牧師は『Edward's Day Out』『Edward and Gordon』『The Sad Story of Henry』の3話しか創らず、それも各々同じ鉄道を意図していませんでしたが、絵本の出版社は本の長さと、3話を1つにしてハッピーエンドに仕立て上げるよう圧力をかけました。その結果4話目として出来上がったのがこのエピソードでした。

 ヘンリーをからかおうとしたゴードンが故障し、急行列車はエドワードじゃ力不足。(恐らく操車場にいるであろうトーマスも)。そこで抜擢されたのが閉じ込められて反省したヘンリーでした。はい、ヘンリーの為の完璧なハッピーエンドです。終盤の途中で入るユーモアもいいですね。

 

 模型期の話をします。この話で特に好きなのが、ぼろぼろに汚れた状態のヘンリーと、ゆっくりと待避線に移るゴードンの姿です。この遅さがまたリアリティを強調させます。短所は終点の駅が中途半端なウェルズワースであることです。まだ最初のシリーズと云う事もあって終点駅のジオラマを造る余裕が無かったのでしょう。結局ヴィカーズタウン駅が模型期で造られることは一度も無かったわけですが。でも、駅で止まっている時のヘンリーの最高の表情にはウルッと来て、すべてを許してしまいました。

 絵本ではエンディングでヘンリーが、エドワードとゴードンと同じ青色に塗り替えられますが、TVシリーズではそのイベントが起きませんでした。6巻までの事を考えると、そうならなくて良かったと個人的に思います。

 

【豆知識】

 余談になりますが、このエピソードを含む原作第1巻を飾る3話は『The Sad Story for Henry』から1年後の物語である事が後に出版された設定資料集*8で明らかになっています。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E05『Thomas' Train』『トーマスのしっぱい』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: ヘンリーの代わりに客車を牽くことになったトーマスは、張り切り過ぎて連結を待たずに出発してしまう。

【高評価点】

・客車の準備と線路を切り替える時の丁寧な描写。 

 

【低評価点】

無し

 

 【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

  スペック上基礎的な仕事しかさせてもらえない、そんなトーマスの旅客列車初体験の巻。ゴードンになったつもりで客車を牽いていると勘違いしたまま一台で走って行っちゃう可愛いエピソードです。要約すると、何か特別な物を与えられて興奮した人が、いとも簡単に間違いを犯す事を示しています。落ち着いて耐える。

後のシリーズのエピソードでは、この教訓が多用されます。

 

 全体を通して言える事ですが、画面上では微動だにしない人間のポーズと表情に躍動感がありますね。

冒頭でトーマスを笑う役割としてヘンリーと一緒にエドワードも混ざっている点は特に問題ありません。私は、ぶつぶつ文句を言うトーマスを笑ったからと言って、彼の性格が無視されているとは思いませんでした。彼らがどのような感情で笑ったかは描写されていないからです。たとえばエドワードは親切な心の持ち主ですから、保護者のような視点からの笑いかもと想像する余地があります。

 最初はあんなに元気よく大はりきりだったのに、失敗していたと判ると途端に静かになって、今にも泣きだしそうな顔のトーマスを見て駅にいた人たちが黙り込むところが好きです。

 

【豆知識】

 客車を忘れる失敗はグレート・イースタン鉄道のジャズ・サービス(郊外列車)を含む様々な事故に基づいています。

 

 TVシリーズでは、このお話でトーマスは急行用の大型客車を引っ張ることになりますが、厳密には各駅停車の普通旅客列車を引っ張ろうとしています。それは原作絵本の挿絵で描かれているトーマスのランプの位置でわかります

英国の鉄道には駅員や信号手が、各列車が何の種別で走ってくるのかを早急に識別する為の"通過標識灯"という物があります。ボイラー上部と台枠にある3つの鉄の棒に白色円板とランプを種類で別けられている定められた位置に1つか2つ設置します。

ボイラー上部にランプまたは白色円板が設置された車両は、普通旅客列車、支線旅客列車、貨客混成列車、本線から免れられない故障車、気動車を指します。TVシリーズのトビーやデイジーがその例です。

なお、TVシリーズでの標識灯は一部のエピソードとキャラを除いて省略されています。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E06『Thomas and the Trucks』『トーマスのさいなん』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: エドワードの提案を受けて貨物列車を牽くことになったトーマスだが、興奮で不注意になっていて、貨車の悪戯をまともに受けてしまう。

【高評価点】

・映像にぴったり合う音楽。

・暴走時の速度。必死の抵抗感が伝わる。

 

【低評価点】

・一瞬だが謎の指が映る。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

  ソドー島の貨車たちは、20世紀中盤までの英国の鉄道のように、列車全体にかかる貫通ブレーキが備わっていない為、機関車とブレーキ車(緩急車)の力だけで制御しなくてはいけなかった事を、お馬鹿で悪戯好きという設定で擬人化しています。Troublesome Truck(いたずら貨車)と呼ばれる所以。丘で機関車が暴走してしまうのは、ブレーキの備わっていない貨車の重みで前へ押されてしまうからです。劇中で何度かトーマスを押すという演出で貨車が自動で走っているように見えるかもしれませんが、つまりはこういう事です。重力です。

この為、もし仮に貨車を叱ったところで無意味なわけです。

 

 てなわけで未だ操車場勤務のトーマスがまた新しい事に挑戦し、興奮のあまり不注意になって失敗して学ぶ別の物語です。旅客列車と貨物列車は鉄道で最も重要かつポピュラー仕事であり、それぞれに注意すべき点があります。それを今回トーマスは身をもって体験することになります。慌てるなと前回言われたばかり。だけどそう根は変わらないもんですよね。若いと。物語は素敵です。トーマスは依然として子供のようで、トップハム・ハット卿は厳しいけど、子を見守る保護者の様でした

映像はかなり良かったです。入換え作業も、暴走も一見の価値があります。臨場感と疾走感に加えて、次にどうなるのだろうというハラハラを感じられます。暴走とはいうものの、常にブレーキがかかっているので、彼の速度からSEと共に制御が掛かっている事が伝わってきます。SEも良い仕事をしています。時々貨車の編成が変わったり不自然に謎の指が映っていたりしますが注視しないと判らない程度でした。

 

 音楽も素晴らしいです。それは映像に合った構成になっています。トーマスが本線を走っている場面ではトーマスのテーマの延長版が流れます。元々トーマスのテーマは蒸気機関車がシュッシュッと蒸気を噴き上げるような音楽ではありますが、間奏ではカタタン、カタタンという列車が走るようなリズムが入っていてより素敵です。暴走時はこの話と『トーマスとバーティーのきょうそう』でしか聴けないコミカルで焦りを感じさせる楽曲が流れます。私は後者がとても好きです。オドネルとキャンベルの音楽は物語の雰囲気を強調させ感情移入しやすて非常に良いです。

 

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©Gullane ©Mattel

 トーマスが「I want to see the world.(世界を見たい)」*9と初めて言うエピソードです。この時は操車場で客車を押すだけの役割でしたので、"列車を引っ張って島を旅したい"というニュアンスでした。現在では支線を任されたり、TV版は島のあちこちを走り回るようになったのでその意味が段々と大規模になります。2018年には本当に世界を見て回りましたもんね。大出世。(?)

 前回のお話同様エドワードがトーマスに対して怒っている件ですが、これも私には大した問題ではありません。毎晩愚痴を吐くのですから、いくらエドワードだって普段はイライラしても不思議ではありません。物腰柔らかに聞き流すのが彼のやり方かもしれませんが、何でも受け入れられるほど彼が超越した人格でない事は原作にしろTVにしろ他のエピソードで大方察することが出来ます。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E07『Thomas and the Breakdown Train』『ジェームスのだっせん』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 操車場で働いていたトーマスは、貨車の悪戯で暴走するジェームスを目撃。脱線したという報告を聞くと急いで救出に向かうのだった。

【高評価点】

・ブレーキ・シューから出る炎。

・救援作業の丁寧な描写と作業を思わせるBGM。

 

【低評価点】

・ジェームスの塗装がもとから赤い事。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ここで遂にトーマスがヒーローになります。

努力と経験を重ね、ゴードンの真似もせず救出に専念したトーマスに、ご褒美として今ではお馴染みの支線と客車のアニーとクララベルが与えられます。自分らしく。そして良い事を続ければその成果が実る。トーマスの話を続けて観ると、そんな道徳があるように感じます。トップハム・ハット卿が毎日顔を出してトーマスを励ますという語りが好きです。この頃のトップハム・ハットは機関車に指示を出すだけでなく、まさしく保護者の様な温かみがあって良いですね。

 

 模型初期は特に撮影に大変な労力を費やしていただろうと思います。例えば、少なくとも第1シリーズでの煙は特撮でよく用いられる刺激性の強い四塩化チタンを使って表現しています。このエピソードで注目すべき点の一つはジェームスのブレーキから火花を散らして、木のブレーキが燃えていることを再現した事でしょう*10。模型中期になると炎や雨などの大半の特殊効果は手間とコストを抑える為にCGで表現されました。それに関しては何も不思議ではありませんが、監督のデヴィッド・ミットンや、ティム・スタッフェル、クリス・ノールトンらを始めとしたモデルメーカーの方々が本当に素晴らしい仕事をやり遂げた事実は賞賛に値します。

 もう一つは、脱線現場の復旧作業とジェームスを救出するシーンです。元々単純なエピソードである事と、クレーン車の導入回でもある為、描写がとても丁寧です。特にジェームスを線路に戻すときの慎重な様子は幼少時代の私をくぎ付けにさせました。

私は貨車を片付ける時のチープなBGMが好きですが、俗にいう"救援列車のテーマ"はクレーンの巻き上げ機がカタカタ鳴っているかのようなリズムと慎重な曲調が場面に見事に適合していて素晴らしいです。

 

 唯一残念な点はジェームスが最初から赤い事です。彼はこの事故で黒から赤になって自惚れてしまいます。予算の関係、あるいは子供の混乱を避ける為でしょうか。

(だけど、この事例があった為に『トーマスのはじめて物語』で黒いジェームスが再現されたのが非常に嬉しかったです)。

 

【豆知識】

 トーマスが働いた操車場は、TV版ではティッドマス機関庫でしたが、原作では丘の麓にあるウェルズワースの操車場でした。そこで丘から暴走するジェームスを目撃します。『トーマスのさいなん』と後述の『きたないきかんしゃ』も同様で、TV版でマロン駅で起こる暴走事故の大半は、本来の場合大抵ウェルズワース駅近郊で発生します。

 

 また、物語はオードリー牧師がロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道の車掌から聞いた話が元ネタになっています。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E08『James and the Coaches』『ジェームスのあやまち』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: ジェームスはハット卿の帽子を濡らして怒らせた後、客車を激しくぶつけてブレーキパイプが破損する。

【高評価点】

・3巻『赤い機関車ジェームズ』から、1話『ジェームズとぼうし』2話『ジェームズとブーツのかわひも』を組み合わせた構成。

・行儀の悪さを強調する道徳。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 私は『エドワードのおてがら』と同様に、3巻のジェームスに纏わるエピソード同士を2話繋ぎ合わせた事を嬉しく思います。その理由は、元のエピソードが短くてかなりフラットな為です。ゴードンの丘を重連で登る場面はカットされますが、この構成で、より地が固まって見えます。

この話では、前回初めて貨車を牽いて脱線したジェームスがどのようなキャラクターかを知ることが出来ます。貨物も客車も牽けるMixed traffic engine(貨客両用機関車)赤い塗装が誇りで注目を浴びるとつい調子付き、そして怒りっぽくて自己中心的です。今ではお馴染みになりました。でも分別があり、ハット卿の帽子を台無しにしたことに罪悪感はあって、いつ怒られるかビクビクしてるところが実に可愛らしいですね。

 物語はブレーキパイプが扱われるところが興味深いです。残念ながらTV版でパイプ同士が繋がっている様子を見る事は適いませんでした。場面によってはアニーとクララベルがジェームスの客車として連結されている事もありますが、編成など撮影時のミスは特に目くじら立てる必要は無いだろうと思います。

そして乗客の靴ひもで修復するという恥ずかしい失敗をした後、二度と客車を乱暴に扱わなくなります。たぶん。何事もお行儀よく

 

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©Gullane ©Mattel

【豆知識】

 ジェームスに靴ひもを渡した紳士にはジェレマイア・ジョブリング(Jeremiah Jobling)という韻を踏んだ名前があります。名前は原作3巻(原語版)で呼ばれます。

TV版では同一人物かどうかは不明ですが第3シリーズにも登場し、鉄道監督官と呼ばれ、奇しくもジェームスと再会します。

 

 ジェームスがハット卿の帽子に蒸気を吹きかけて台無しにする出来事は、オードリー牧師がベルギーのヘントの駅で目撃した出来事が元ネタとなっています。靴ひも事件は、英国の鉄道雑誌『レイルウェイ・ガゼット』の記事からオードリー牧師が抜粋したものです。

 

 原語版と日本語版では一部の台詞が異なります。たとえば「青いボディは、ゴードンだけで充分だ。僕は嫌だ!」という台詞。原語版では、「Gordon never has to fetch his own coaches, and he's only painted blue.」(ゴードンなんて、ただ青いくせに自分で客車を集めた事もないのに)と話しています。原作ではもっと詳細で「ゴードンは自分が牽く客車を集めてもらってるのに、真っ赤で素敵な僕は自分で揃えるなんて不公平だ…」というニュアンスです。

とはいえ、吹替え版の台詞は直前のナレーションの"James didn't like that at all."に基づいている為、完全にオリジナルではなく、理に適った意訳です。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E09『Troublesome Trucks』『やっかいなかしゃたち』

脚本: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 暫く機関庫に閉じ込められていたジェームスだが、反省して貨車の牽引を行う。何度か悪戯されるが、彼は決してへこたれなかった。

【高評価点】

・涙を流すジェームス。

・貨車の連結が外れる場面がとても自然だった。

 

【低評価点】

無し

 

 【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 記憶が正しければ、私が一番最初に観た日本語版のエピソードです。『Edward Helps Out』とほぼ同時期に"ひらけ! ポンキッキ"のVHS「きかんしゃトーマス③~トーマスとさかなつり」(1991年発売)を貰って観ました。当時の事かは定かではありませんが、今でも子供の頃に観た光景と、その時に抱いた感情をよく覚えています。思いやりがあふれていると。

 冒頭ではジェームスが涙を流していて、この回から観た人でもわかるように、原語版ではジェームスが前回の出来事についての後悔を、日本語版ではナレーターが語っています。語りが無くても、自分のボディが魅せられない寂しさと、すっかり反省している様子が窺えます。模型初期及び『DOTD』では涙を流す、または浮かべる描写をしており、感情移入しやすくて私は気に入っています。

また、冒頭のトップハム・ハット卿は、UK版では原作通り了承と指示を出すだけですが、US版及び日本語版では、ジェームスの意気を認め「その決意こそ大事なんじゃ」という台詞を添えています。このほか、「After that performance, you deserve to keep your red coat.」を吹替え版では「これからもその赤いボディに恥じぬよう、頑張ってくれ」という意訳が入ります。私はこれらがとても好きです。

 

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©Gullane ©Mattel

 物語では貨物列車を牽く苦労が描かれます。いつもはオシャレに聞こえるジャズィーな"ジェームスのテーマ"も、音の細い僅かなアレンジが、諦めず努力し続けるジェームスを表現しているように聴こえます。もう一つ評価したいのが、貨車の連結が自然に外れる事です。ここでは手や紐、或いは線路の仕掛けも見えません。

 

【豆知識】

 駅でジェームスを冷やかす役割は、原作では似た名前の無い小さなタンク機関車が行っています。トーマスとエドワードを足して二で割ったような外観の謎の青い機関車です。TV版ではトーマスに置き換えられています。

ちなみに、1984年11月19日に発行されたポップアップブック『James the Red Engine and the Troublesome Trucks』では名無しの深緑色のサドルタンク機関車に、2016年1月から発行された『Engine Adventures』シリーズの単行本『James』ではチャーリーに置き換えられており、一切統一されていません。

 

 私は丘を登りきったあの開放感のある場面と空が大きく広がるカメラアングル*11が大好きです。しかし、本来、丘の頂上にはマロン駅があります1958年1971年に出版されたオードリー牧師著作の『Railway Map of the Island of Sodor』に掲載された地図を参照の事。マウラ(Maura)と呼ばれる河川より西側に位置します

頂上にあるマロン駅で、貫通ブレーキ未装備の貨物列車は一旦停車することが要求され、逆にエドワードのような後押し機関車は駅構内のポイントで線路を切り替えてウェルズワース駅に戻ります。

ところが、1987年に出版された『The Island of Sodor: It's People, History and Railways』の地図以降はTVシリーズのように丘の麓、即ちマウラ川より東側に設定されています。でも依然として頂上と紹介されたまま

結局どっちなのよ。

 

総合評価: 8/10

 

 

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©Gullane ©Mattel

E10『James and the Express』『ジェームスのうれしいひ』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

【高評価点】

・冒頭の機関庫のカメラワーク。

・信号手についての言及。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

  3巻を飾るジェームスにとってのハッピーエンド、そして成長の記録。この話で出てくる信号手の役割についての言及、これは鉄道にしろこの作品にしろ非常に重要です。機関車は信号所と信号手無しでは行きたいところに行けません。信号手の手違いでゴードンは恥ずかしい思いをしてしまいます。子供の頃はゴードンってやなやつだと思っていた私ですが、大人になると彼が大変可愛く見えます。彼には子供との共通点がトーマスと同じくらい多いからです。

見所は皮肉の利いたテンポの良い会話です。この話からゴードンが休む時にはジェームスが時々急行を担当します。ゴードンは未だに貨車の牽引を嫌がる様子を見せますが、エンディングで貨車の世話をするように、時々文句も言わず貨車を運ぶ場面もあります*12

 映像に関しては特に文句はありません。目を回して喜びを表現したり、冒頭の機関庫のカメラワークが子供のころから本当に好きです。

 

 ところで、原作絵本でも触れられた、ゴードンが入って行ったループとはどんなものなのでしょうね。後に出版された先述のオードリー牧師のソドー島地図には特にそれが描かれておらず、結局どの線にあるのかは不明のまま。TV版ではナップフォード駅の北側からゴードンが入ってくるので、第17シリーズから鉄道顧問を手掛けるサム・ウィルキンソンが2014年に追記したTVシリーズ準拠の地図では後述のエルスブリッジ問題を経由した大きなループ線が追加され、とんでもない事になっています。(マップ)

 

総合評価: 7/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E11『Thomas and the Guard』『とりのこされたしゃしょう』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トーマスが慌てて出発して車掌が駅に置き去りにされる。

【高評価点】

・トーマスの支線のセット。

 

【低評価点】

・この回に限った事ではないが、TVシリーズでトーマスの支線の接続駅がエルスブリッジに設定されている事。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 お馴染みとなったトーマス自慢のファークァーの支線と、シリーズで一番最初の女性キャラクターである客車のアニーとクララベルが出てきます。冒頭では彼女たちの有用性の説明が流れます。

原作絵本のアニーとクララベルはボギー台車を2つずつ持つ比較的大型の客車でしたが、TV版では大幅に小さくなり、2軸の客車になりました。トーマスのモデルになった車両と同じロンドン・ブライトン・アンド・サウス・コースト鉄道の古い車両です。

 物語で車掌が置き去りにされる一件はサウス・イースト・イングランドイーストボーンという場所で実際に起きた出来事が元ネタになっています。2015年10月14日にも、日本の京急電鉄北品川駅ほぼ同じ出来事が起こりましたよね。よく起こりやすいのかな。

やっぱりせっかちなトーマスでしたが、待たされて不機嫌だったのと、トップハム・ハット卿からの信頼にこたえたいが為でした。車掌がおばさんの傘に躓いたのも事件の起こった理由の一つですが、TV版では何故か省略されました。

 

 トーマスの支線のセットは非常に美しいです。ドライオー、エルスブリッジ(橋)、ハッケンベック・トンネル、そしてファークァー。このシリーズで土台となるわけです。しかし、エルブリッジ駅が接続駅となっているのは何故でしょう。

この駅は本来ナップフォード(・ジャンクション)として機能します。エルスブリッジは支線の中間地点にあり、本線は通っていません。そもそもTV版のナップフォードが主要駅或いはヴィカーズタウン駅として機能したり、マロン駅がクロンクかウェルズワースのような扱いをされていたり何処かがズレているのですが、当時はどういう意図だったのでしょうね。

 

【豆知識】

 ヘンリーに対する文句は原作/UK版と、US版で少しだけ単語が異なります。UK版では「Rubbish!  You're too fat, you need exercise.」(くだらない! 太り過ぎなんだよ、運動でもしたらどうだ)。US版では放送コードに引っかかる為、太文字の箇所がslowに変わっています。

日本語吹替え版は第1シリーズではサブタイトルと翻訳がUS版準拠になっているため、「モタモタしすぎるんだよ」という翻訳になりました。今となってはシリーズ共通ですが、The Fat Controller(太っちょの局長)も、US版に従って本名であるトップハム・ハット卿と呼ばれます。

なお、音声はUK版のようです。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E12『Thomas Goes Fishing』『トーマスとさかなつり』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トーマスは川で釣りをしたいと思っているが、機関車が川の水を飲むのが適さない事を学ぶ。

【高評価点】

・バケツの穴。

・トーマスが側線に移される時の音楽。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 私が子供の時から好きなエピソードの一つで、このシリーズでは2番目にお気に入りで、1995年頃に制作された『Gone Fishing / さかなつり』という渋い歌も含めて愛しています。不思議にも、この話を観た後、自分が嫌いな魚を食べたくなったのをよく覚えています。

トーマスの事は気の毒でしたが、機関車が釣りに適さない事を身を持って色んな意味で良い経験をし、タンクから出した魚を調理してピクニックを過ごす鉄道員たちの呑気さと滑稽さも含め可愛くて面白くて何度も観てしまいます。特に好きなのがバケツを上げ下げする場面。クローズアップで映るバケツの穴とヘコミは驚くほどリアルです。これでは中を確認せずタンクに入れるのもわけないですね。

もう一つ長所に入れた音楽は、トーマスが「痛い、痛いよ」と叫ぶ中で流れるBGMの事です。物悲しげにアレンジされたトーマスのテーマと救援列車のテーマのマッシュアップで彼がしんどそうだなってのがとても伝わってきます。そして吹替え版の戸田恵子演じる迫真の叫びがこれをまた強調させます。 

何か特別な仕事を任されたのではなく、穏やかで日常的な話だったのが更に面白いところでした。元ネタはグラスゴー・アンド・サウス・ウェスタン鉄道で実際にウナギが詰まって起きた事故です。

 

【豆知識】

 ここでエルスブリッジに纏わる設定を2つ紹介します。

 

 ファークァー線は1924年までエルスブリッジが終点でした。エルス川に掛かる橋(上の画像参照)は支線がファークァーまで延長した1925年、ジェームスが赤に塗装されトーマスが支線に移る前に建設されました。

1924年にファークァーで採石業を始めたジェイブズ・クローリー(Jabez Croarie)が、当時NWRのゼネラルマネージャーのトップハム・ハットとの長い交渉の末、橋の建設に必要な高品質の石を無料で提供し、ハッケンベック・トンネルのコストを半分負担する事を引き受ける条件を提示し、NWRはファークァーまで線路を延長する計画に同意しました。橋は、イザムバード・キングダム・ブルネル技師テムズ川に掛けたGWRのメイデンヘッド鉄道橋を参考に、大聖堂のマイケル・カークによって設計され1925年に完成。メンテナンスが最小限で済むほどで、石の優れた性質を証明したのです。

 

 エルス川上流の畔は釣り人に愛されており、年々多くの人が規律を重んじながら訪れます。彼らはトラウト(Trout)とチャー(Char)という2つのホテルに宿泊する傾向があります。その理由は2つのホテルが釣りの権利の大部分を所有していて、彼らのニーズに応えてくれるからです。トーマスはそんな彼らの姿を見て釣りがしたくなったようです。

 

総合評価: 10/10

 

 

 

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E13『Thomas, Terence and the Snow』『トラクターのテレンス』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: テレンスと出逢ったトーマスは彼の車輪を馬鹿にするが、雪の吹き溜まりに突っ込んだときに彼の車輪の有用性を知る。

【高評価点】

・冒頭の季節を示す場面。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 はい、初めて鉄道以外の車両のキャラクターが2台出てきます。一方はトラクターのテレンスです。このエピソードでは彼の性格が特に描写されません*13が、私は彼がとても好きです。

見掛けによらないという道徳があり、トーマスにとって変な見た目のキャタピラー(無限軌道)の有用性を示します。後に"テレンスのテーマ"をベースに、このエピソードを題材にした歌詞を付けた『Don't Judge a Book By Its Cover / みかけによらないテレンス』という歌が創られました。歌詞は何度も繰り返されますがキャッチーで教訓的な曲です。

この『汽車のえほん』及び『きかんしゃトーマス』では人や仲間を生意気にからかったり、危ない目に併せたり、悪口を言うと、必ず後になって何かしらの罰がくだります。それは現在のシリーズも同様です*14。もし、貴方のお子さんが悪口の方だけに影響されてしまった場合は、親御さんが、こうなるよっていうことをきちんと教えてあげてください。

 

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©Gullane ©Mattel

 子供にとって気に入らない物だけど、どうしても付けなければいけないもの。その理由。そんな共通点がこの物語にあります。それが雪かきです。トーマス曰く重くて着け心地が悪く、乱暴に扱って壊してしまいます。たぶん石とか当たったんでしょうね。

でも最終的に罰が当たり、テレンスの無限軌道と同じくらい雪かきも有用だという事と、安全性をこの一話で学びました。身から出た錆。

…まあ、ちゃんと雪かきを付けるまで長いこと掛かりましたよね。その後のシリーズでは幾度かこの出来事を忘れているかのように振る舞いました。後で紹介します。

 

冒頭の秋を彩るワンショットと、中盤の雪景色は本当に素晴らしいです。とても自然でリアルな感じに見えます。そして物語も可愛らしくて良いの一言に尽きます。

 

【豆知識】

 第1,2シリーズのジオラマで使われた雪は、基本的に上質なペーパー・スノーで、機関車が掻き分けたり埋もれさせる雪はAerosillと呼ばれる発がん性の高い白い合成材料が用いられています。

 

 トーマスが「Cinders and ashes!」と叫ぶ最初のエピソードです。

今ではお馴染みで何かある度に使われるトーマスシリーズ特有のこの一文。直訳すると「燃え殻と灰」。特に深い意味は無く、"Damn!"(くっそー!)や、スラングで使われるFワードのようなニュアンスを機関車に関連した単語(この場合、機関車からすると汚物に該当するもの)に置き換えた、いわば"機関車スラング"、造語です。

吹替え版では「大変だ、どうしよう」「うわあ、すごいなあ」等で翻訳されています。

同じ意味で「Smoke and Fire!」*15や、「Bust my buffers!」、その他複数存在します。後者は第2シリーズで触れます。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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E14『Thomas and Bertie』『トーマスとバーティーのきょうそう』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

【高評価点】

・ドライオーの飛行場の飛行機も一緒に動く場面。

・エルスブリッジの町。

・楽しい音楽。

 

【低評価点】

・吹替え版では"連絡駅"と訳されたが、本来は”分岐点”である。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

  鉄道VS道路。記念すべきトーマスとバーティーの競争第一回。原作絵本はこれっきりでしたけどね。はい、実際に起きた出来事に基づいていないという原作では異例の物語ですが、絵本とTV両方とも面白いの一言に尽きます。子供を愉しませる娯楽であり、同時に友達を作る・仲良くなる方法について示しているように感じました。バスのバーティーは闘争心があって機関車に対して挑発的な態度を取るのが彼の面白いところです。熱いレースをしたことでトーマスとは良い友達になりました。

 オドネルとキャンベルの音楽は躍動感と面白さをより際立たせます。トーマスが不利になると『Thomas and the Trucks』で流れた焦りを感じさせるあの災難のBGMが流れ、対等になるとスイングの効いた"バーティーのテーマ"が流れます。

このエピソードを題材にした歌『Let's Have a Race / きょうそうしようよ』が後に制作され、バーティーのテーマのアレンジが使われています。私はこの歌詞が好きです。「勝つ事ばかり考えないで、大事なのは楽しむこと」。第23シリーズの『Grudge Match』にも使われた教訓です。この話があってのあの話だなぁと。

思えば第4シリーズの楽曲って4巻の内容が中心的ですね。

 

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©Gullane ©Mattel

 物語の感想に戻ります。ジオラマに関しては今回も力が入っています。まずは駅の奥にある小さなドライオー飛行場で複葉機が一緒に動いていたりバーティーのクローズアップで原作絵本にも出てた黒い車がすれ違うなど周りの景色も活動的で素敵です。

また、エルス川に架かる橋の場面もよく出来ていました。ちゃんと道路用の橋も架かっています。道路用の三色信号も今となってはこの作品では珍しくなりましたね。

途中で何故かトビーの路線の駅が出てきましたが、初期段階ですのでまあ、大目にみましょう。(何様だよ)

 

 語り手の話をすると、ジョージ・カーリンの実況のような熱いナレーションが好きです。日本語吹替え版の森本レオのナレーションもまた違う良さがあります。最後の「君も観たいだろう?」「君はどう思う?」という問いかけをとても気に入っています。是非! と云いたくなります(笑)

結末はわかっていても、時々観かえしたくなります。そしてそれには充分な価値があります。

 

【豆知識】

 クリストファー・オードリー著の『Sodor: Reading Between the Lines』によれば、トーマスとバーティーの物語はもともと、雨の休日にウェールズの子供たちを愉しませるために牧師が発明したボードゲームでした。

 

 オードリー牧師はこのエピソードや、巻を重ねるごとに生じた矛盾について読者からの指摘を受けて、弁解を述べながら地図が必要と感じ、結果的にソドー島の設定を創作し始めました。それも超現実的で、膨大な情報量の物を

 

総合評価: 10/10

 

 

 

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E15『Tenders and Turntables』『おおきなきかんしゃとてんしゃだい』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: テンダー機関車のゴードンとジェームスは転車台の上で振り回されて不機嫌になる。

【高評価点】

・ジェームスの高速回転は面白かった。

 

【低評価点】

・ヘンリーがストライキをする理由が見当たらない事。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 出版時に英国の鉄道で労働における困難があった事を反映した5巻からの出典です。

 はい、5巻1話『ヘンリーとサーカスのぞう』は第1シリーズでは映像化されませんでした。この為、ヘンリーがストライキを実行する理由が無く同調しただけのように描かれています。第4シリーズで映像化した事を考えると、きっとこの当時は予算が厳しかったのだろうと思います。ゾウの人形とか、サーカスの貨車とか。諸々。

 

 子供の頃の私はこのエピソードをつまらないと思っていました。当時は原作絵本の内容を知りませんでしたが上記のヘンリーの件もあるし、転車台の上のゴードンの場面は少しイライラするからです。音楽も無いし。でも、ジェームスの高速回転が好きです。映像を早回ししているように見えないので凄いなと思います。そして回った後の緑掛かった表情と、重々しいBGMが具合の悪さを表現していて気の毒に思えます。

また、トーマスが転車台を利用する場面をよく見るので、転車台の説明をよく理解できませんでした。大人になり、(創作の為に)鉄道の勉強をし始めてから、やっとわかりました。ゴードンのような大型テンダー機関車は決して後進できないわけではなく、炭水車の所為で後方の視界が遮られていて、速度を出すと危険なのです。

 

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©Gullane ©Mattel

 『BWBA』のインタビューでミカエラ・ウィンターが「テンダー機関車に入換え作業をさせないよう気を付けている」と、述べられたように、確かに基本は操車場に入換え機が居る場合、入換え機やタンク機関車に行わせます。しかし、この物語のように入換え機が不足している場合は、テンダー機関車も入換え作業を行います。それは特定の操車場で実際にあった記録があります。エドワードとジェームスのような中型のテンダー機関車は入換えにも適しています。

某英紙による攻撃があるように、人によってはトップハム・ハット卿が鬼のように見えるかもしれません。しかし、彼は機関車たちの声に耳を傾かせ、状況を見てから、次のお話で機関車を増やします。ほとんどの場合、既存の機関車だけではやりきれない時にハット卿は新しい機関車を増やすのでしょう。経営者として。

 私にとっては、わがまま言ったり油断するゴードンとジェームスが可愛くて面白かったです。でも特別お気に入りではありません。

 

 そういえば、放送コードのあるUS版では珍しく「fat」という単語が使われていますね。この為、日本語版でも「デブ」という言葉が使われます。

 

ゴードンはデブ

 

【豆知識】

 転車台で高速回転するジェームスは、1900年12月21日に英国のカンブリア州、ガーズデールヘッドの鉄道駅(ミッドランド鉄道)で起こった出来事に触発された物です。後にキーリー・アンド・ワースバレー鉄道とハイランド鉄道でも同様の事故が起こりました。強風で転車台が止まらなくなることはよくあったようです。

 

総合評価: 7/10

 

 

 

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E16『Trouble in the Shed』『きかんこのもめごと』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 大きな機関車たちがストライキを始めたので、ハット卿はパーシーと云う名の新しい機関車を連れてきたのだった。

【高評価点】

・パーシーのキャラクター性。

・ヘンリーを脅かすときにシリンダーの蒸気を映した事。

 

【低評価点】

・吹替え版では「シューシュー音を立てて帰ってきた」とあるが、ヘンリーは機関庫から出てきたように見える。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ここで(私の周りでは)大人気のパーシーが初登場します。日本語吹替え版では新旧共に可愛らしい声ですが、パーシーは男性です。ていうかPercyという名は男性名です。heです。もっとも、ハット卿に見つかる前までは名前はありませんでしたが。

最近のシリーズを観た後、原作絵本や最初期のTVシリーズを観返すとだいぶ違うなってのが判ります。具体的に何が違うかと云いますと、原作のパーシーはエドワードが尊敬するほど肝が据わっています。大きな機関車が意地悪をしに近づいても驚かせて追い返すことが出来ます。このエピソードではパーシーの導入にぴったりのインパクトを与えました。同時に、生意気なトーマスよりも元気で悪戯っ子で、時に馬鹿な悪戯を考えては失敗することが多いです。それは次のシリーズから飛躍的に増えます。

なお、残念ながらTVシリーズでは原作挿絵を担当した画家のレジナルド・ダルビーの描いた絵を参考にしたため、実在しないでたらめな形状のサドルタンク機関車としてモデリングされました。

 

 本土のワークショップ、即ち誰かに購入されるまで整備や保存された状態で作業場にいる機関車達は、原作絵本では姿を現した状態でしたが、TV版ではモブ機関車を造る予算が無い為か、既存のキャラクターに防水シートを掛けた状態で登場します。左からゴードン、メルクリン機関車、ジェームス、ヘンリー、エドワードで、後者の3台は炭水車無しでの使い回しです。

メルクリン機関車と云うのは、ドイツの鉄道模型メーカーのメルクリン製模型の事です。そこから出ているいくつかの1番ゲージの既製品をベースに改造してトーマス、ヘンリー、ゴードン、ジェームス、トビー等第4シリーズまでの機関車のTV撮影用模型が造られました。時々、第1シリーズの中で、注視しないと見えないところで「ドイツ連邦鉄道80クラス」の1番ゲージ模型がモブとして走っているところを確認することが出来ますが、正式なキャラクターではないようです。

 

 吹替え版ではヘンリーがやってきたときに語り手が「ヘンリーがいつものようにシューシュー音を立てて帰ってきた」と云いますが、原作及び原語版はスト破りのエドワードとパーシーに意地悪をしに来たというニュアンスで描かれています。機関庫から出てきたのに帰ってきたってのもおかしな話です。帰ってきて、転車台で回転してからわざわざ蒸気を吹きかけに行ったのでしょうか。

 脚色の事で良かった点は、ヘンリーに対するパーシーの脅かし方がドレーンを切った時の蒸気を映した事です。原作の挿絵は汽笛のようでした。更に終盤でエドワードも穏やかに「シー」と真似してるのが可愛いです。

エドワードもまた勤勉なのです

 

【豆知識】

 大型機関車がエドワードに対して言ったとされる「Black wheels」は「Blackleg」の捩りです。スト破り、つまりストライキ中に働く人を指す蔑称です。しかしストライキを行うジェームスの車輪は元々黒色なため、US版と日本版では「Grey wheels / 灰色の車輪」に変更し、視聴者を混乱させないように配慮されました。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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E17『Percy Runs Away』『パーシーにげだす』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: パーシーは本線に入るときの注意事項を忘れ、正面からやってきたゴードンに驚いて逃げる。

【高評価点】

・ゴードンが急停車する時の緊迫感。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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 その場から大慌てで立ち去った事が良い結果を生んだエピソードです。

ゴードンとジェームスとヘンリーが、最終的に立派な機関車は仕事の大小を選ぶのが愚かしいという事を学んだあと、再び仕事をすることになったところで、パーシーが生意気に急かすなど悪戯っぽいところが表に出てきました。そして重要な事を忘れてしまいます。パーシー自身も若くて未熟なので、まさに共通点の多いキャラクターです。

公式(2019年)ではスティームチームの中で最も若いとされていますが、まあ、実際の所は何年に製造されたのかという設定は不鮮明なんですよね。一時期はモデル機から考えて1900年製造説も出てたのですが*16

 

 さて、脚色の話をします。まず注目が行くのはゴードンが迫ってくる場面です。近年では珍しくないですが、すぐ手前で急停車する場面は緊迫感のあるBGMもあって少しドキドキします。加えてUS版のジョージ・カーリンの語りも力が入っていてよかったです。日本語吹替え版の内海賢二(故人)による、なんでしょう、絶叫みたいなのも凄まじいです。どっから声出しているんでしょう。イェアアアみたいな台詞が聞こえますがDVDの字幕だと「ヒュ~」だったりします(笑)

TV版ではところどころ省略されているのでわかりにくいかもしれませんが、パーシーが逃げ出した後、機関士たちが居ないのは、ゴードンが迫る前に運転台から飛び降りたためです。これは原語版でも省略されています。空転しながらバックする場面は良い感じでした。

 パーシーが最終的に停まった場所はTV版ではロアー・サドリー駅という場所でした。原作設定にはそのような場所は存在しません。しかもウェルズワースからゴードンの丘を登りきっているので、サドリーのあるエドワードの支線に入るのは少しおかしな話です。まあ、番組は初期段階ですので細かい事はよしましょうか。

 

 ところで、この画像の場面、エドワードが回想で喋ってる時に、画面左上でエドワードの静止画が現れたような記憶があるんですけど、気のせいでしょうか。同じ記憶を持つ人がニコニコ動画Twitter上でも見かけたので集団幻覚か何かでしょうか。それとも絵本かなぁ。

 

【豆知識】

 今回の事故は4つの実際の出来事に基づいています。最初は1892年にサースクで発生。2回目は1910年12月24日にホーズ・ジャンクションで、3回目は1915年5月22日にクインティンシルで、4回目は1939年8月のニュートンアボットで発生しました。

 

 製造年の話をしたので、第1シリーズに登場するキャラクターの正式な製造年(誕生年)と来島年の表を書置きします。

●トップハム・ハット1世 1880年誕生/1901年来島

ヘンリエッタ 1884年製造/1951年来島

エドワード 1896年製造/1915年来島

●ジェームス 1912-1913年の間に製造/1923-1925年の間に来島

●トビー 1914年6月30日製造/1951年来島

●トーマス 1915年製造/1915年来島

●ヘンリー 1919年製造/1922年来島

●ゴードン 1922年製造/1923年来島

●パーシー 製造年不明/1925-1935年の間に来島

●スティーブン・トップハム・ハット 1941年誕生

●ブリジット・アマンダ・ハット 1943年誕生

 

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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E18『Coal』『ヘンリーのせきたん』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 気分の悪いヘンリーの為に、トップハム・ハット卿はウェールズ産の石炭を使用するのが必要と云う結論に達した。

【高評価点】

・ヘンリーを可愛そうだと感じた場合、感情移入しやすい。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 実はヘンリーはいずれシリーズからフェードアウトする予定でしたが、人気があった事から執筆されたのが6巻のヘンリーの物語でした。

 原作挿絵を担当したレジナルド・ダービーが青い塗装のヘンリーとゴードンをよく描き間違える*17為に発行された6巻からの出典です。たとえヘンリーが望んで青になったとしても、第1シリーズの前半でずっと緑のままでいてよかったと思う理由がこれです。顔と車体の些細な個所を見分けられる人でないと、制作側も視聴者側も混同してしまうと思います。特にTVシリーズのレギュラーを飾る華型なので。

それに熱心でない人々からすれば、トーマスとエドワードを見分けるのも一苦労だそうですから。

 

 さて、本題に入ります。この物語は貴方がヘンリーを気の毒に思った場合とても感情的に見えるでしょう。ソドー島で扱われている石炭では十分な熱が出せずヘンリーはひどく苦しんでいます。そんな彼に渡されたのが"ウェールズ産の石炭"でした。着火は比較的困難ですが、発熱量が多くて灰と煙の量が少ないという代物。質が高いので高価です。ハット卿は一度渋りましたがすぐにチャンスを与えねばと前向きな姿勢で手配しました。ハット卿優しい。

そんなウェールズ産の石炭を罐に入れたヘンリーは調子に乗ってトーマスに言い返すほど元気になりました。シンプルな話ですが、現実的で、ヘンリーの気分を見て最終的に幸せを感じられます。

 

 このエピソードのおかげか、ヘンリーは特別な石炭が無いと走れないという設定が一般に定着し『魔法の線路』からS15までの11年間長らくエピソードで観られ、現在でも書籍等でたまに見かけますが、すぐに次のエピソードでその石炭が不要になります

 

【豆知識】

 ヘンリーがゴードンに酷似している理由として以下のような設定が後付されました*18

 

―1919年頃に悪意を持ったある匿名の機関車製造業がドンカスターナイジェル・グレズリー卿から図面を盗んだ。しかし、彼のスパイはへまをやって、誤った図面を受け取っていたのだった。グレズリーがその時に実験用に設計した新しい「パシフィック」*19型機関車の物だった。

泥棒は間違いを悟ったが、その結果として出来上がった、グレズリーのパシフィックに表面だけ似たとにかく欠陥の多い機関車がヘンリーだった。

 泥棒は自暴自棄になり、この"始末に困る欠陥品"を、1920年初頭に機関車不足の為新しい車両を購入する責任があったミスター・トップハム・ハットを騙して売りつけたのだった。トップハム・ハットは、ジョン・ジョージ・ロビンソン製の「アトランティック」*20型を買うつもりだったが、鉄道が機関車に必死だったため、代わりに買わされたヘンリーを保持する以外に選択肢が無かったのだ。ハット卿はさせられたことに大変怒り自分を騙した人物が誰なのかを認めず、悲しみの後悔を胸に余生を過ごしたが、―

 

―トンネル事件の後、ヘンリーはエドワードのように青く塗ってもらうように頼んだ。しかし多くの人がヘンリーとゴードンを間違えるようになり、より大きな機関車への不快感が伴った。ヘンリーがゴードンの予備の緩衝器を与えられたとき、問題はさらに悪化。1935年より以前にヘンリーは再び緑のペンキを選び、ヘンリーとゴードンの混同を終わらせたのだった―

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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E19『The Flying Kipper』『フライング・キッパー』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: ヘンリーは臨時列車を牽くことになるが、氷と雪でポイントと信号が正しく機能せず、貨物列車に突っ込んでしまう。

【高評価点】

・標識灯。

・夜の港と朝焼けの雰囲気。

・クラッシュ。

 

【低評価点】

・原作に言うべきだが、擬人化としての物語はここに無い。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 フライング・キッパーとは、ソドー島のティッドマスで獲れた魚を積んだ高速貨物列車の通称です。キッパーは燻製ニシンの事。朝5時に出発し、英国本土に届けられる予定の臨時列車。それを初めて引っ張るヘンリーのお話です。

 

 先述のオードリー牧師の不満、画家がゴードンとヘンリーを頻繁に描き間違える為、牧師はヘンリーの姿を変更する算段を付けました。元々の原作に言えることなのですが、その結果当たり障りないキャラクターと中身の無い物語になりました。

はい、雪と氷は鉄道でも用心すべきものと示していますし、確かにヘンリーは喋りますが、どの台詞も彼の性格をハッキリさせません。脚色も同じです。裏を返せば現実的な列車の伝記も、この作品の一つの特徴と云えるのかもしれませんが、それらの点では私はこの話にあまり魅力を感じられませんでした。

 

 とはいえです。これはTVシリーズの制作陣を批判する理由にはなりません。音楽もジオラマも、ヘンリーを映すカメラも、活き活きとして見え、彼らは本当に素晴らしい仕事を行いました。

まず、ヘンリーの通過標識灯です。正面から見て台枠左と中央にランプが位置されている、原作の挿絵に基づいた位置になっています。これは実際の英国では急行貨物、鉱物列車、最大時速35マイル(56キロ)で走行を認められた列車、回送列車を表します

が、実はソドー島独自の標識灯ルールという物が存在します*21。そのルールに従った場合、この位置の標識灯は、生鮮食品、急行小包、連続式真空ブレーキが接続された列車のいずれかを表しています。フライング・キッパーは鮮魚貨物なので生鮮食品類ですね。

まあソドー島独自のルールは恐らく挿絵との辻褄合わせの物と思われますが、信号所が関わってくる物語に必要なネタが再現されている事は賞賛に値します。たとえ制作陣がその意図を分かっていなかったとしても。

ちなみにプラレールヘンリーのランプの位置はこのエピソードに基づいています。単に夜行列車を示すものではないのです。

 

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©Gullane ©Mattel

 そして全体を通して情景と雰囲気が美しいです。霜が降りたティッドマス港の風景を見てください。まるで実際の港の様です。この門型ガントリークレーンとか今出したらキャラクター化しそう。

港だけでなく場面の全てが現実のようです。雪景色に映える朝焼けに近い夜の風景とキッパー列車のシルエットが良い味を出しています。ブレーキ車の内部のインテリアと、新しい型になったヘンリーが出てくる春を感じさせる場面にも注目です。それから事故の場面もかなり良かったです*22。シリアスな場面ですが子供の頃は興奮したものです。

映像は何度も観返す価値があります。

 

【豆知識】

 ヘンリーが改造に至るまでの経緯です。

ウェールズ産の石炭を使ってゴードンの能力に匹敵する程に順調だったヘンリー。だが、1935年にヘンリーがフライング・キッパーの牽引中にキルデインで事故を起こした。その後トップハム・ハットは、当時LMSのチーフ・メカニカル・エンジニアだった昔馴染みの ウィリアム・スタニアとのつながりを利用してヘンリーをクルー工場で再建することが出来た。ヘンリーは新しい形を与えられただけでなく大きい火室も受け取り、通常の石炭を再び使用できるようになったのだった。

 

 また、同じ書籍に、改造前のヘンリーと改造後のヘンリーは別個体とも書かれています。完全な後付設定と思われますが、正直考えたくないです…

ちなみに牧師が作成したヘンリーの模型も、キャラクターと同じくらい面倒で、うまく機能せず、最終的に破棄されました。絵本みたく交換はされませんでした。

ウィルバート・オードリー牧師は自分のキャラクターを家族の一員と見なしている為、好きなキャラクターは誰も居ないと答えていました。しかし、少なくとも一番好きではなかったものがヘンリーと云う事は明白かもしれません。

 

総合評価: 4/10

 

 

 

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E20『Whistles and Sneezes』『きてきとクシャミ』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: ゴードンの汽笛が鳴りやまなくなった後、ヘンリーは石を投げる子供たちを懲らしめるためにくしゃみをする。

【高評価点】

・くしゃみをしたときのヘンリーの顔のコマ撮り。

・教訓「他人の物を大切にしよう」(物語後半)

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ヘンリーが新しい形になり、まともに走れるようになってからのお話で、ヘンリーの周囲に纏わる6巻の中の短い話(3話)と5話を併せた内容です。原作の2つのエピソードがくっついたものはこれで3回目になります。2話とも特につながりの無いエピソードですが、日常的な雰囲気が強く感じられ、4分半なのに濃く思えました。あと6巻4話を挟まず第3シリーズに回したのは個人的に英断でした。

 

 前半は教訓と云うよりは単に滑稽話です。ゴードンの放った文句が、自分の失敗で言い返されてしまうというもの。なんだか古典落語みたいです。このシリーズで2番目に好きな台詞が、その「It isn't wrong, but we just don't do it. (やたらに汽笛を鳴らさないのが嗜みってもんだ)」*23です。ゴードンに比べて若干気が弱めなヘンリーが言い返してやったというところが好きですが、ヘンリーは特に何もしていないんですよね。

それからゴードンの台詞の一つ一つが子供っぽくて面白いです。「お前が帰ってきたのは嬉しいが、俺の言った事も忘れるなよ」と。

 

 後半の教訓は単純に「他人の物を大切にしよう」という意味が込められていると思います。さもなければヘンリーのくしゃみのように懲らしめられるよと。確かに警察に任せれば解決する事ですが、それだけではいくら現実主義でも物語の面白みに欠けるし、スカッとはしないでしょう。された側が懲らしめるのが効果的です。第一にこのシリーズが子供たちを愉しませるための娯楽と云う事を忘れないでください

私は後半の物語が特に好きです。一つのエピソードとして見ると、キッパー回同様キャラクターが当たり障りなく感じてしまいますが、きとんとストーリーが成り立っています。"くしゃみ"という表現の擬人化が。

TV版では尺の都合上細かい説明が省かれています。子供たちが石を投げた理由と、仕返しされた後日談のことなど。それから機関車の"くしゃみ"とは、煤を思いっきり噴き出す事です。ふつう、陸橋などをくぐるときは煤を含んだ煙を出さないようにするのが決まり。吐き出すのを強くすると、火室を通して空気と一緒に灰も吸い込んで煙突の下が詰まるので、それを利用したという感じです。

 オチは、"ゴードンと子供たちと次に会う時は"、それぞれ汽笛とクシャミで懲りてたらいいなと、ヘンリーが望む形で幕を閉じます。日本語吹替え版では何故か"子供たち"だけになってます。

 

 さて、今回も映像は素晴らしかったです。ゴードンの汽笛が鳴り響いている時ずっと汽笛から煙が出ていたり、ヘンリーがくしゃみをするときにまるで魔法のように表情が変わったり、80年代前半に撮影されたことを考えると、その撮影技術は驚きに満ちています。彼らがどれだけ能力を発揮していたかを示しています。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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E21『Toby and the Stout Gentleman』『トビーとハットきょう』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 路面機関車のトビーと客車のヘンリエッタは休日にトップハム・ハット卿の一家と出逢う。しかし、路線が閉鎖に陥ってしまい…

【高評価点】

・トビーの紹介と音楽。

・トビーの路線のジオラマ

 

【低評価点】

・トビーの働いていた鉄道はソドー島の一部になっている。

 

【このエピソードについて】

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 1951年8月30日に訪れたグレート・ヤーマスの海岸への旅行で、クリストファー・オードリーとウィルバート・オードリー牧師が初めて見た路面機関車から着想を得て執筆された7巻からの出典です。物語はその出来事に沿って行われています。

はい、私の推しの一台、トビーとヘンリエッタがここで初めて登場します。時代によって路面機関車としての仕事が失いつつあり、路線も間もなく閉鎖の時を迎える。そんな現実的で悲しい物語ですが、最後には次のエピソードに繋がる事を示すハッピーエンドがあります。最後まで正体が開かされない原作に対して太った紳士についてのネタばらししちゃうけど…。日本語版なんかタイトルの時点でバレもクソもないけど…! 恐らく視聴者が混乱しないための配慮でしょう。

 多少脚色が有れど、トビーが何者か紹介するには間違いなく最良であることは確かです。古くて遅くても陽気な雰囲気のトビーのテーマも優れています。ところが、トビーが働く路線がTV版ではソドー島の北部ということになっており、少し混乱を及ぼしました。(ヒント: ロアー・アールズバーグ駅)。後の事を考えると馬鹿げています。駅名を表示せず実行することは適いませんでしたか? 第5シリーズ以降はトビーの路線が島内にある世界線描かれます。

まあ…、これはこれで興味深いんですけどね。ソドー島も元々は3つの私鉄に分かたれていて、それが合併したのがノース・ウェスタン鉄道ですので。

 

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 しかし、崖の谷間を抜ける線路と、湖のほとりを通う線路のジオラマは驚くほど美しいです。空気が澄んでそう…。

結局の所、物語はシンプルながらも感情的で、トビーとヘンリエッタのキャラクターがよくわかる良回です。トビーのテーマは、これと次のエピソードを題材にした『Toby / トビーのうた』でアレンジされて使われています。切なくて、幸せで、いい曲です。

 

【豆知識】

 原作のトビーの路線は本土のイースト・アングリアにあるどこかの路線でした。ウィズベック・アンド・アップウェル路面鉄道がモデルになっています。TVシリーズのはソドー島北部にある事から路線ごとハット卿に買い取られたかのように描かれていますが、原作の路線は1960年に解体されました。

7巻で描写されている物より以前の経歴では、グレート・ヤーマス港で働いており、その様子は32巻で明らかになりました。

 

 トップハム・ハット卿の孫、スティーブン・トップハム・ハットは1984年に3代めのノース・ウェスタン鉄道局長になる人物です。少なくともTVシリーズでは、たとえ第23シリーズになろうと、ずっと1代目のままですが。したがってスティーブンとブリジットもずっと子供のまま。

 トップハムの息子でスティーブンの父にあたるのがチャールズ・トップハム・ハットで、1954年から1984年まで2代目の局長を務めました。同上の理由から彼はTVシリーズには一度も姿を現していません。

 また、スティーブンと彼の妻*24の間には3人の子供が居ます。そのうちの長男リチャード・トップハム・ハットは4代目局長の候補と見なされていますが、2005年に父親が64歳になっても退職を考えていない為、現在ではどうなっているか不明です。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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E22『Thomas in Trouble』『トーマスとけいさつかん』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トーマスは警察官との問題に巻き込まれてしまう。話を聞いたハット卿は、トビーとヘンリエッタを購入することにした。

【高評価点】

・トビーとヘンリエッタにとってのハッピーエンド。

採石場への線路。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

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 子供の頃、この話がとても好きでした。トビーがトーマスにとって英雄になり、ヘンリエッタと共にハッピーエンドを及ぼすからです。

採石場へ続く路面軌道がとても好きです。この線路、CGシリーズでも再登場しないだろうか。トーマスの編成はかなり珍しいですね。恐らくアニーとクララベルに作業員を乗せ、クララベルは緩急車の役割を果たしているのだろうと思います。

仲良くなろうとして挨拶したトーマスは気の毒でしたが、このファークァーの警察官みたいな権力を握った人物に冗談で返したり相手にすると、ろくなことになりませんね。時間を奪われるわ、ケチを付けられるわ。

 

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 感情論で取り締まる話が通じないやべーやつ。あまりにも厳格で大真面目な性格なのかなと思いきや、実はとてもいい加減なことを言っています。真面目すぎるのも大概ですけど。吹替え版では絵本共に「わし」という一人称ですが、実は若いようです。

 UK版の「Oi, you!」が好きです。でも子供の頃に観ていた時は突然の得体のしれない声に驚いて暫くトラウマになっていました。今となっては可愛い話です。

US版*25は「Hey, you!」で、なんというか…、まろやかな感じです。日本語版の「おーい、君!」も同様にそう感じます。

最終的にこの警官がどうなったのかは描写されませんでしたが、彼が執行した規則を守りながらベルを鳴らして驚かすユーモアが面白くて好きです。

 

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 トップハム・ハット卿の豪邸、通称トップハム・ホールの内装がとても好きです。よく造りこまれています。

 執事の背後に飾られている口髭をはやした蒸気機関車肖像画は、第7シリーズまでアートディレクターを務めたロバート・ゴールド・ガリエーズ*26が制作したキャラクターです。ガリエーズはこの肖像画のキャラクターに制作時名前を付けなかった事から、2017年に「アーネスト」(Earnest)という名前を付けました。

  ちなみに電話の内容は、エルスブリッジ駅でのくだりにおけるリンゴ・スターのナレーションを単に高速化しただけです。後の『ゴードンみぞにはまる』の電話シーンでも同じことが行われており、同じ文章が何度も繰り返し再生されています。(動画)

 

【豆知識】

 せっかくなので、この物語に出てきた"ファークァーの警官"の設定を記述しておきましょう。

 ―この若い巡査は、恐らく昇進と熱い評判を求めて、静かに忘れ去られた旧い法律を執行しながらファークァー中を練り歩いていた。彼はファークァーの宿屋の主人に曖昧な酒類販売許可法でイライラさせ、その後トーマスに対して成功をおさめた。

ある日曜の朝、聖フィニアン教会の外をうろついていた時、そこに駐車されていた車について調書を取った。しかし、その中には牧師や、治安判事裁判所の裁判官ジョン・クローリー(John Croarie)のもの、そして警官自身の巡査部長の車までもが含まれていた。その「犯罪者」らに半ペニー(½d)の罰金を科した後、警官は間もなく転勤を命じられた。

そして彼の転勤によって、採石場への道の古い法律も同時に消え去り、パーシーなどの牛避け板を持たない機関車が普通に通過できるようになったのだった。

 

 もう一つ、ファークァー採石場の路面軌道に纏わる面白い豆知識を紹介します。

皆さんもご存知かと思われますが『トーマスのはじめて物語』に出てきたグリンは、牧師が設定した"4台のコーヒー・ポット"に基づいています。まだ鉄道エンジニアだった若きトップハム・ハットによって1905-1908年の間に造られた垂直ボイラーの蒸気機関車で、コーヒーを入れる容器ににている事や、時々茶色い汚水を出すことから、コーヒー・ポットの愛称で親しまれるようになりました。

『はじめて物語』ではトーマスが来たころには支線のわきに追いやられていて廃れていましたが、原作の設定は次の通りです。ファークァー駅長のケヴィン・ボレーの手紙によれば、トーマスと乗組員が警察官から罰金を科せられている間、少なくとも1~2台のコーヒー・ポットが採石場の路面軌道で働いていました。

そう、実はトビーが来島する1951年まではコーヒー・ポット達は動いていたのです。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

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©Gullane ©Mattel

E23『Dirty Objects』『きたないきかんしゃ』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: 昔ながらの格好をジェームスにからかわれたトビー。彼は言い返すと、ジェームスは不機嫌になって事故を起こしてしまう。

【高評価点】

・タール運搬車との衝突シーンの迫力。

 

【低評価点】

無し

 

【このエピソードについて】

 物語は至ってシンプルだけどスリリングな展開が待っています。トビーに言い返されて不機嫌になった挙句、次になんて言い返そうか考えるあまり油断してしまう、ルッキズムについての滑稽話です。見た目とは、テレンス回と異なり色と状態の事を指します。

原作絵本の初期のエピソードから合計25話ということもあって、驚くことにジェームスが貨車と一緒に丘を上り下りする話が1シリーズの中に3本あり、このうち2つは暴走します。子供の頃はこの2つをよく混同してしまいがちでした。いたずら貨車たちの面倒を見ながら丘を登りきったジェームスくんでしたが、何事も油断大敵ですね。

下り坂から常にブレーキをかけて耐え抜いていたトーマスとは違って、今回はガチの暴走が観られます。映像が早回しされてるだけだがものすごいスピードからのタール運搬車に突っ込んでいく様はとても迫力があります

トビーとジェームスの会話は面白いです。時に生意気に言い返すトビーはやはり魅力があります。言い負かされて不機嫌になっちゃうジェームスも可愛い。彼がいかにしてジェームスの靴ひも事件を知ったのかは不明ですが、面白い話を何でも話したくなるトーマスのような別の機関車から耳にしたと考えればあり得なくはない話ですね。

 

 原作のトビーはこの次のエピソードからチョコレート色の車体と青色に塗り替えてもらった脇板の姿で登場しますが、TVシリーズでは何故かこのままでした。黒いジェームスを実行しなかった事と同じように、混乱を避ける為でしょうか?

 

総合評価: 10/10

 

 

 

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E24『Off the Rails』『ゴードンみぞにはまる』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: ゴードンは転車台を止めようとするが、溝に落ちてしまう。

【高評価点】

・脱線と救助のカメラアングル。

 

【低評価点】

・原作通りジェームスとヘンリーが引っ張ったとあるが、ヘンリーの姿は無い。

 

【このエピソードについて】

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 大型機関車ゴードンをフィーチャーした8巻からの出典。しかしその内の2つのエピソードが後のシリーズに後回しにされました。コスト関係か、26話の枠に収まらなかったためであると思われます。

 本題に入ります。ゴードンも、厳つい顔つきででっかい車体を持っていますが、他の機関車と同じように子供との共通点を多く持っています。同シリーズ第2話でも見られたように、気分によって自分がやりたくない事を前にすると不貞腐れてやる気を失くしたり怠けようとしたりします。彼がやりたくなかったのはもちろん貨車。特に初期のゴードンは普段じゃ急行旅客の牽引に扱われることもあって、威厳が損なわれる事を恐れて汚い貨車を嫌っています。でもやらなければいけない時もあるんですよね。

 冒頭では原作にない一言の台詞が用意されています。ゴードンがどのような考えを持っているか、たとえこの話が初見の人でも一発でわかる台詞です。私はこれが好きです。この時はまだゴードンも人格的に未熟なところが読み取れますね。もちろん怠けているわけではないのですが。(休憩を取る理由は28巻4話等で描写されています)。

 

 全体的に、TV版は上手く撮影されていると感じました。ゴードンが動き出す前に転車台が停まるとか、ジェームスとヘンリーが引っ張ったと言われてるのにヘンリーが居なかったりという小さなミスも散見していますが、ずるーっと滑り落ちるように脱線する場面と、救出される場面は見応えがありました

 

 コンセプトアートではこの回に出てきた機関庫はナップフォード機関庫と記されていました。この機関庫をヴィカーズタウンと捉えると、挿絵通りに機関庫の景色を背景にしたオフィスの場面が奇妙に見えてしまいますね。トップハム・ハット卿はいくつオフィス持ってるんだと。前後の場面も併せて考えるとナップフォードの方が妥当に思えますが、本線の端と端、と語られているのでやっぱりヴィカーズタウンなのでしょうね。

 

【豆知識】

 ゴードンが溝にはまる事故は、1952年8月8日にロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道(LMS)イヴァット クラス4 43142号がリンで転車台から泥だらけの溝に落ちる実際に起こった事故に基づいています。

 

 ヘンリーがからかう台詞は、原作及びUK版と、US版及び日本語版で少し異なります。前者では「Hello, fat face!(やあ、おデブちゃん)」、後者はfat規制で「Hello, lazybone!(やあ、怠けてるな?)」になっています。

 

 原語版で子供たちが即興で歌ったゴードンの歌は、マザー・グースの「Here We Go Round the Mulberry Bush (桑の木の周りを周ろう)」という伝承童謡のメロディに合わせています。また、彼らが歌った歌詞からこのエピソードの日程が月曜日であることが判ります。加えて原作は1952年のいつかに行われた設定です。

 

総合評価: 9/10

 

 

 

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E25『Down the Mine』『あなにおちたトーマス』

原作: ウィルバート・オードリー

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トーマスは貨車を取りに鉛鉱山に出向くが、好奇心から看板を無視して穴に落ちる。

【高評価点】

・トーマスの涙。

・原作に言えることだが、標識の重要性、お互いを尊重し合う友達作りなどの道徳。

・鉛鉱山のセットと優れたカメラワーク。

 

【低評価点】

・トーマスの支線のトリレック付近に存在するはずの鉛鉱山はナップフォード駅の裏側とされている。

 

【このエピソードについて】

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 トーマスとゴードンに始まって、トーマスとゴードンで終わります。

 はい、私が原作絵本で最も愛するエピソードであり、このシリーズで最も好きなエピソードでもあります。その理由は大人になってから気が付きました。子供のように悪戯をし、失敗し、成長する、もしくは子供に共通する思想や感じ方と、現実味のある鉄道ネタを両立させているオードリー牧師のお話はやっぱり面白いです。脱線ももちろん素晴らしいですが、特に大事なのは物語です。

 この時のトーマスは特に生意気でとっても失礼です。先ほども言ったように、キャラクターが誰かの悪口を言い、いい気になっていると必ず罰が当たることをシリーズを通して示しています。この回がいい例です。前回のゴードンに大口叩いてからかい、更に好奇心で看板を無視して機関士を振り落とし、ゴードンと同じような事故を起こしてしまいます。畜生さが、中盤の滑稽さを際立たせます

この経験はトーマスにとって忘れられない物になったようで、仲間に看板の注意を促したり、後悔したり、何度も回想を展開しています。12巻及びS2『うみにおちたパーシー』、38巻『Cab Over Wheels』、長編『ブルーマウンテンの謎』、そしてS23『Deep Trouble』など。涙を流す再現も良かったです。かわいい。

 そして冒頭でからかったゴードンに助け出され、2台は面目丸つぶれ同士、同盟を組みます。「お前は俺を助け、俺はお前を助ける」。くー、なんてアツイんだ!! 『パーシーにげだす』然りゴードンのこういうところが大好きです。普段は威張り屋だけど、相手が小さくても行動を起こした者には素直に認めるし、根に持ったりしない。憧れます。そして過ちを認め尊重し合う事は、友達を作る良い方法です!!

 

 それから、アニーとクララベルを構内に置く場面と、鉛鉱山の全ての場面が好きです。鉛鉱山のジオラマは本当にワクワクさせられます。最後に、遠景に映されるトーマスとゴードンのショットも大変美しいですね。

 

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 豆知識のうちに入るかもしれませんが、上の画像のトーマスは、番組が本格的に制作する前の1983年4月3日に低予算で試験的に撮影された『Down the Mine』のパイロット版に使用された模型です。何処かアンバランスなのが観て取れると思います。そのパイロット版はもちろん未放送で、ロバート・ゴールド・ガリエーズによると、フィルムは現在どこにあるかわからないとのことで、視聴は不可能です。

パイロット版ではその時にモデルメーカーを手掛けたマーティン・ギルによってトーマスとゴードンの模型がフルスクラッチで造られました。つまりメルクリン模型から改造せずにです。外観もセットもシンプルで、造りや走りにも信頼性が無かった為、本編の撮影からはメルクリン製のシャシーが使われるようになったそうです。詳しくは上記のリンクを参照の事。

 

【豆知識】

 トーマスが穴に落ちる事故は、1892年にリンダル・イン・ファーネスで実際に起こった事故に基づいています。実際に崩落した炭鉱の穴は何マイルもの深さがあり、回収されたのはファーネス鉄道115号の炭水車のみでした。

 

 せっかくですので鉛鉱山の設定を書置きしましょう。

1880年代、ウルフステッド鉱業会社は鉛などの鉱物に興味を持ち始め、ティッドマスとエルブリッジを隔てる高地の東に位置する沼地を発見した。しかし、しっかりした足場がなければ、採掘したり持ち運ぶことが不可能だった。したがって、彼らは、イースト・アングリアの排水問題に取り組んだ経験のある"A.W. ドライ社"*27に電話を掛けた。

A.W. ドライ社は、エルス川の北と南の平地に堤防を建設し、防潮ゲートを設置。干拓作業の末、採掘作業を開始できるようにした。鉛をナップフォード港に輸送する為の鉄道が敷かれ、後にティッドマスへ延長した。これが島の3台私鉄の一つ、ティッドマス・ナップフォード・アンド・エルスブリッジ軽便鉄道である。

 やや不安定なスタートの後、鉛鉱山はしばらく繁栄した。鉱山労働者は地下にトンネルを掘った。屋根は線路と貨車を支えるに十分な強度を持っていたが、機関車の重量には耐えきれなかった。やがて1925年に鉱山の過疎化が進み、1930年に閉鎖しなければならなくなった。幸いにも、ファークァーで新しい鉱業が始まり、支線が延長された。トーマスは時々空っぽの貨車を側線から受け取る為に鉱山を出入りしていた。1953年にその作業をする筈だったトーマスは看板を無視して地下のトンネルに落ちたのだった。

 1962年までに、ウランの発見によって鉱山は事業を再開した。1993年にはウィルバートがここで働き、現在も採掘は続いているようだ―

 

でも、第23シリーズでは訪問者の公園にする作業が行われましたね。

 

総合評価: 10/10

 

 

 

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E26『Thomas' Christmas Party』『トーマスのクリスマス・パーティー

原作: ウィルバート・オードリー(後発)

脚色: ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ

内容: トーマスはカインドリー夫人の為にクリスマス・パーティーを開こうとする。ところが、夫人の家は雪で埋もれていた。

【高評価点】

・正当な続編。

・雪と雪かきが嫌いでも夫人の為に立ち向かうトーマス。

 

【低評価点】

・カインドリー氏が不在。

 

【このエピソードについて】

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©Gullane ©Mattel

 ブリット・オールクロフトとデヴィッド・ミットンが初めて書いたTVシリーズ用のオリジナルストーリーです。彼らからの依頼を受けてクリスマス用の物語をウィルバート・オードリー牧師が、初放送の1984年12月25日に先駆けて同年10月29日に同名の絵本を出版しました。

でも、十分な打ち合わせが行われなかったのか、TV版と絵本では少しばかり矛盾が生じています。絵本ではパーティーが1日跨いでボクシング・デー(12月26日)に開かれるということになっていましたが、TV版では何を急いだのか一日で物語は幕を閉じます

 とはいえ、物語はかなり良いです。原作7巻4話「キンドリー夫人のクリスマス」の正当な続編として描かれるほか、雪を嫌っていても夫人の為に雪かきを装備して勇敢に立ち向かうなど、トーマスの成長がみられます。前者の描写の仕方は特にオールクロフトが幼い頃に慣れ親しんだゆえの作品愛が伝わってきます。好きなんだろうな~って。救出に向かう仲間がちゃんとファークァー線所属ないし近辺に居る車両というところも良かったです。

 また、私は第1シリーズに登場した主要キャラクターの全員集合に加えて機関庫と機関車たちの装飾が好きです。サンタ帽かわいい。しかし、夫のカインドリー氏が居ない事が唯一残念です。TVシリーズに一度も出てないんですよね、彼。

ラストで流れる「We Wish You a Merry Christmas」は、吹替え版はUK版の音声と重ねているので、キャスト陣の歌声と混ざってリンゴ・スターの歌声を聴くことが出来ます。うっすらと聞こえるバックコーラスは、恐らくマイク・オドネルとジュニア・キャンベルの声と思われます。

 

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©Gullane ©Mattel

 「キンドリー夫人のクリスマス」は残念ながら映像化には至りませんでした。クリスマスとあるのに雪が無いからでしょうか。TV版は劇中の回想でさらっと流れるのみ。でも、模型の再現映像は素晴らしく完璧でした。

 

【豆知識】

 オードリー牧師の書籍によれば、この物語は「キンドリー夫人のクリスマス」から1年後の1952年と設定されており、夫人がボーンマスから島に戻ったところから物語が始まります。また、この絵本で初めてティッドマス機関庫が内部に転車台が配備された扇形庫になりました。本文中では新しく再建されたとありますが、牧師によればこれが最も正確な形とのことです。

 

 ちなみにこのカインドリー夫人、この時点で中年なのですが、2005年になっても存命で、大変な高齢でありながら機関車たちがコテージの前を通り過ぎるたびに手を振っていることが『Sodor: Reading Between the Lines』で明かされています。

 

総合評価: 8/10

 

 

 

~全体の感想~

【物語】

 エピソードについては各回の総合評価を見て頂ければわかる通り言うまでもありません。ほとんどの場面は挿絵に基づいており、たとえいくつかの話が後回しにされても物語は全て原作に忠実でした。シンプルだけど良い物語にです。加えて全体を通してトップハム・ハット卿が優しい保護者目線だったのが好きです。この時はまだ「役に立つ事」ばかりに焦点が行っていませんでしたね。

最後の1話を除くすべてのエピソードがウィルバート・オードリー牧師の原作絵本に基づいているので、話の内容を語るならば『The Railway Series/汽車のえほん』のレビューを行うべきかもしれません。なので、機会があればやりたいです。しかし、私はほぼ全ての原語版を持ち合わせておらず、全く参考になりません…。

結局のところ、個人的に最高のエピソードは『Down the Mine』で、最も弱いのは内容の無い『The Flying Kipper』でした。最悪は特にありません。

また、私がこの26話の中で最も好きなエピソードは以下の通りです。

1. 『Down the Mine』『あなにおちたトーマス』

2. 『Thomas Goes Fishing』『トーマスとさかなつり』

3. 『Dirty Objects』『きたないきかんしゃ』

 

面白さ: ☆☆

道徳: ☆☆☆

 

【美術と情景】

 これが放送されるずっと前の1953年6月14日には、BBCがOO(HO)ゲージの鉄道模型を使って『The Sad Story of Henry』を再現した番組を放送しました。その時はいくつかのポイントが上手く作動せずヘンリーが度々脱線しました。生放送だったので、突如現れる謎の大きな手が列車を拾っては戻すところが映って、原作の編集者エリック・マリオット含む視聴者が驚いたそうです。

それから31年後に始まったこのTVシリーズも同じく(1番ゲージの)鉄道模型を扱う作品になりましたが、もちろん生放送ではないけど(リマスター版を除く)第12シリーズまで一度もそういった事例は起きず、まるで本物の鉄道のようなとてもクオリティの高い映像になったので素晴らしいですし、私を含む子供たちに夢を与えて頂いてとても感謝しています。

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©Gullane ©Mattel

 ここまで情景(ジオラマ)について多くを語ってきたため、もはや言うまでもないかもしれませんが最後にもう一度言わせてください。このシリーズに出てきた情景はどれも目を見張る素晴らしさでした。特に雪の景色が何より好きで、信号所等に付着した雪のリアルな感じにいつも驚かされます。

コストもかかるし、発がん性のある物質を使ったり、様々な手間とリスクがある中で常にスモークや火花を実際に出して走らせながら撮影させていた技術力も凄いです。

 

 一部のエピソードでも拾いましたが、TVシリーズではヴィカーズタウン駅がナップフォード駅に、ナップフォード駅がエルスブリッジ駅に、事故現場が頂上にあるはずのマロン駅と解釈(?)されていたことは少し不思議です。番組に完璧を求めるわけではありませんが、特にエルスブリッジは厄介な事をしてくれたなあと思います。

でも、これは最近のシリーズの評価と公平に考えた場合です。もう36年前の番組であり、チームも解体されているので、今とやかく言っても仕方がありません。それにドーム状のナップフォード駅はシリーズお馴染みの物として扱われているので今更デザインを変更する事は出来ません。

現在のシリーズで、もしエルスブリッジが登場する時は、接続駅として扱われない事を願っています。

 

技術: ☆☆☆

美術: ☆☆

 

【音楽】

  第1-7シリーズの音楽を手掛けたのはマイク・オドネルとジュニア・キャンベルでした。音楽に精通していて耳が良い方はすぐわかるかと思いますが音楽と汽笛の音はシンセサイザーで演奏されています。S1, S2での機材はRoland Jupiter-6。ブリットとの話し合いによって楽曲にはそれぞれのアイデンティティがあり、キャラクターと場面をテーマに音楽を作っています。即ちいろんな毛色の異なる曲が楽しめます。シンセ特有の音色の安っぽさを感じる事もありませんでした。寧ろ私はこの時代の音色が好きです。

彼らの奏でる音はどれも素晴らしいです。いろいろある中で私が特に好きなのが、蒸気機関車が走る音のようなリズムとアップテンポの楽しいメインテーマです。

 

音楽: ☆☆☆

 

ボイスキャスト

 日本語吹替え版は個々の声優が一人一人キャラクターとナレーションを担当するのが当たり前ですが、『TATMR』を除く第12シリーズまでは絵本の読み聞かせをするコンセプトのもと、UK版、US版はナレーターの一人芝居でした。

 UK版を務めたのは、ロックバンド、ビートルズのドラム担当リンゴ・スター。私が好きなドラマーであり、ブリットが望んだベッドタイムにはちょうどいい落ち着いたトーンで好印象です。聴き取りやすくて、コンセプトのもとならば良いナレーターです。

 US版はコメディアンのジョージ・カーリン。初めて観たものがちょうど日本語版とUS版でしたので私の中では彼の声の印象が強く残っています*28。彼の語りも好印象で、演技も優れているように思います。自国の政治や社会を痛烈に批判する笑いが彼の芸風でショーの出演者の殆どを叩くのがデフォとのことですが、PBSの子供向け番組『Shining Time Station』と、その中のコーナーであったこのシリーズの事は好意的に話していたそうです。2008年の訃報は悲しかったです。

 

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©Gullane ©Mattel

  日本語吹替え版の語り手は第8シリーズまで森本レオが担当しました。第9シリーズからは放送局と体制の変更に伴いナレーターを始めとした声優が総入れ替えされましたが、その件については後で触れましょう。森本レオはワケあって好きな俳優ではないですが、優しく語りかけるようなナレーションは抱擁感のある落ち着きがあって癒され、素晴らしいなと思います。

 全体的に、声優それぞれ力の入った演技でどの方も素晴らしくキャラクターにマッチしていると思います。特にトーマスを演じた戸田恵子は今でも私にとってヒーローです。やんちゃ少年を連想させるハリのある声がとても好きです。

ゴードンを演じた内海賢二も素晴らしい声優ですが、ゴードンのいかつい顔のせいか、とても老けて聞こえます。子供の頃は少し怖いイメージがありました。

 

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©Gullane ©Mattel

 個人的にこのシリーズの吹替え版MVPはバーティーでした。演じられたのは緑川光。高めの声が小生意気なキャラによく合っていてバーティーがより一層活き活きとして見えます。

 

声優(UK): ☆☆☆

声優(US): ☆☆

声優(JP): ☆☆☆

 

【最終的な考え】

 第1シリーズの時点で既に完成されています。CGに見慣れてスリルを求めている今の時代の子供たちが観てどう思うかはわかりませんが、私にとってそれは、思い出補正は含めず、初放送から36年経っても色褪せる事はありませんでした。このシリーズが提供した健全な道徳はより多くの親御さんに知れ渡ってほしいと感じます。

ブリット・オールクロフト、デヴィッド・ミットン、ロバート・カードナ、そして制作に携わったスタッフの方々を心から尊敬しています。彼らの全てを愛してはいませんが、この番組が立ち上がらなかったら、いいえ、彼らと技術と素晴らしい映像が無かったら、新世代に向けた新たな原作絵本も出なかっただろうし、私はここまで熱中していなかったかもしれません。

 

 

シリーズ全体評価: 9/10

 

 

簡潔にとか言ってた割にかなり長くなってしまいました。特に中身も無いので読み手の方々は疲れただろうと思います。私も正直書き疲れました。このままではきっと年内にS18まで、及びS24の新しいレビューも書き終わらないでしょうね。

第2シリーズレビューからはもっと簡潔に述べようと思います。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

*1:この時は重要視されていませんが

*2:S19『トップハム・ハットきょうにサヨナラ』のジェームス「さすが元、ヤンチャこぞう!」、S20『うたうシドニー』のシドニー「どうして笑っているんだっけ」など。

*3:後に制作された絵本やTVエピソードで説明があります。

*4:1953年の映像や『トーマスのはじめて物語』ではジェームスとされています。

*5:この件については第10シリーズレビューで触れる予定です。

*6:"Varkala Railway Station"という表記の誤解。この場合、バルカラに所在する鉄道駅というニュアンスになるので、バルカラ鉄道の訳は誤りです。

*7:ゴードン(LNER A1 class)のまがい物

*8:『The Island of Sodor: Its People, History and Railways』『Sodor: Reading Between the Lines

*9:日本吹替え版では収録されていません。

*10:日本語吹替え版では車輪からとされていますが。

*11:今回のサムネイル

*12:主にS9-16。これに関しては成長と捉えることが出来るので私にとっては問題はありません。

*13:小生意気なキャラ付けが行われたのは32巻からでした。

*14:『DOTD』など一部恩恵を受けないものもありますが…。

*15:『Down the Mine』のみ。

*16:この場合、トーマスやトビーより年上と云う事になります。

*17:緑に戻しても時々青になったりする

*18:『The Island of Sodor: Its People, History and Railways』より

*19:車軸配置4-6-2のもの

*20:車軸配置4-4-2のもの

*21:1972年に発行された『The Railway Series: Surprise Packet』より。

*22:リマスター版では残念ながら手が映ってますが。

*23:直訳すると「鳴らしちゃいけないわけじゃないが、やらないものだ」

*24:ソドー島で尊敬されるニコラス・ドレスウィック牧師の遠い親戚の孫娘であるヘレン・マーガレット。

*25:ジョージ・カーリンのナレーションの場合

*26:日本のトーマスランドのキャラクター作成も彼が行いました。

*27:トップハム・ハットが下積み時代に取り組んだ排水会社。

*28:だけど、トーマスのナレーターと聞いて思い浮かぶのは何故かリンゴの方。