Z-KEN's Waste Dump

喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

長編作品『Go!Go! 地球まるごとアドベンチャー』レビュー

この記事には2019年に公開した映画に関する重大なネタバレが含まれています

また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。

 

【目次】

 

 

【はじめに】

 さて、ぜるさんが長編作品のレビューをまともに行う日が来ました! なぜ今までやらなかったのかって? 長編作品の内容とそれに基づく感想を一つの記事に纏めるのがめんどくさいし、荷が重かったので、単にやらなかっただけです。ほら、ぜるさんって自分語りにしろ、小ネタにしろ長文を書く癖あるじゃん? この映画は名作だ! もしくは、この映画は駄作! 観る価値なし!! と、表現するだけなら誰にでも出来ます。

 私はネタバレ大歓迎の身ですが、他の人はそうではありません。長編の感想を述べるのは基本的に*1翌年に日本で公開されるまでは黙っています。特に吹替え版が初見という方々には新鮮な気持ちで見てもらいたいと、心から願っていますので…! そして、割と知名度も出てきましたし、仮にもし私がネガティブな記事を書いた場合、他のファンに影響が出たら良くないなと思いました。

(その点S23とS24の中編は微妙なところなんですよね…)。見所紹介とかやってみたかったのですが、毎年そんな余裕もありませんでした。

 さて、前置きの自分語りはこのくらいにして、本題に入ります。長編作品のレビューなら『魔法の線路』から行うのがスジだとは思いますが、あの手の話は非常に複雑ですし、この映画のレビューは「S22まとめ」の前に行うべきだったと感じたので、ここから始めます。『はじめて物語』を含めた場合、14作目の長編の、私の感想です!

 

 

『Big World! Big Adventures!』

映画『きかんしゃトーマス Go!Go! 地球まるごとアドベンチャー

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脚本: アンドリュー・ブレナー

監督: デヴィッド・ストーテン

プロデューサー: ミカエラ・ウィンター (マテル・クリエイションズ)

         トレイシー・ブラドン (ジャム・フィルド・トロント)

音楽: クリス・レンショウ

配給: マテル・クリエイションズ ほか

実行時: 80分

劇場公開: 2018年7月20日 (UK)

      2019年4月5日 (JPN)

DVD発売日: 2018年11月12日 (UK)

       2019年10月16日 (JPN)

 

 

【全体の流れ】(!ネタバレあり!)

I Want to "See the World"

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©Mattel

 ソドー島の日常、トーマスが唸り声を上げながら貨車を入換えているのをゴードンがからかうところから唐突に始まります。何の前触れもなく始まるのは『ブルーマウンテンの謎』や『世界のなかまたち』に近いですが、そもそもナレーションすら無くパッと始まるので新鮮です。良いのか悪いのかはさておき。

 「助けなんかいらない」と、トーマスが意地を張る中、原作2巻及び第1シリーズ、近年では『トーマスのはじめて物語』からお馴染みとなった「I want to see the world/世界を見たい」という台詞が、既に冒頭から広大な意味で使われます。本来、その台詞は「操車場から外に出て列車を引っ張りたい」というニュアンスであり、『トーマスのはじめて物語』では綺麗なエンディングでその夢がかないました。現シニアプロデューサーのイアン・マキューや、マテル副社長のケイト・シュロマンが言うように、そのままの意味で「世界中を見たい」と広く解釈することも可能ですが、それ以前に操車場から出て働くようになったトーマスが、操車場の中で今一度それを叫ぶのは少し違和感があります。ゴードンの煽りの対抗だったとしてもです。

まあ、操車場の外を出て、メインランドや離れた小島を幾度か冒険した身ですから、高望みで"大きなことをしたい"と、考えるには妥当かもしれませんが、状況によりけり。

 

 

オープニング、エース導入

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©Mattel

 場面は変わって、メインランドの穏やかな牧草地の道路。自転車で丘を越えようとするオードリー牧師とスレスレのところを、猛スピードでかっ飛ばす、謎の黄色いレーシングカーが登場。ロックンロールな激しいBGMと共に、その新キャラの姿を映す斬新なオープニング・シークエンスへ。ドライバーの姿も確認できます。

そして第4の壁を破り視聴者に「G'day!」と一声。この時点で彼がオーストラリアから来た設定を仄めかしています。物語に何の影響もありませんが、キャラとして確立させるには十分です。

 

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©Mattel

 壊れた柵を飛び越えて線路を走る、橋の鉄骨とシドニーの列車の間を縫うように走り抜ける、そして狭い道でバスのバーティーを追い越すといった破天荒で自由なドライビングテクニックで危険な走行を繰り広げるレーシングカー。鉄道にとっても道路でも迷惑千万ですが、この時点では混乱と遅れを生じさせてないところがミソ。

そう言えば未だにソドー島とメインランドを繋ぐ道路橋って出てませんね。地図、原作設定では存在するのですが。今回は彼が走る道路を誤った事と自己誇示の為と考えれば道路橋が出なくても問題はありません。

 

 

やんちゃなトーマスのいたずら

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©Mattel

 場面は操車場に戻ります。操車場に放置された魚の貨車。それを運ぶのはジェームスの筈でしたが、恐らく後の場面を見るに旅客列車を牽くために適当な言い訳をして逃げたのでしょうかね*2*3

それともトーマスが単に言い逃れをしただけでしょうか。彼も魚嫌いなので理に適っていると思いますが、これから支線を走る想定なのにヴィカーズタウン行きの貨物列車をトーマスに任せるトップハム・ハット卿もどうなんだ。ファークァーの支線とヴィカーズタウンでは行先も違うし距離もあるし一度に行うには無理がありませんか。

 まあ結局、トーマスのイタズラでゴードンに急行列車と一緒に魚の貨車を繋がせました。なんて賢いのだろう。悪臭に見舞われる乗客は気の毒だけど。

 

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©Mattel

 正直な話、私は冒頭場面のスニークピークを視聴した時、フライング・スコッツマンが何か役割を持つのではないかと期待を抱いていました。何しろ、実物のフライング・スコッツマン(4472号機)は、保存期間中にアメリカのテキサス州(1968-1973年)とオーストラリア(1988-1989年)で遊覧列車を引っ張った事があるからです。世界一周ではないですが、大冒険を繰り広げているので、トーマスに何らかのアドバイスを与える可能性があると思っていました。

しかし、残念ながら、彼の役割はいつも通り「リトルブラザー」をからかうだけでした。冒頭を含み、当たり障りのない出番ですスペンサーでも同じことが行えます。

前作でマーリンとレキシーが実験の失敗作として登場したのでもしかしたらと思っていたのですが、原則、現実世界とリンクしたイベントは行わない方針なのでしょうかね。

 

 

エースとの出会い

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©Mattel

 まず最初に強制的と感じる部分の一つです。

黄色いレーシングカーのエースは、ファークァー線沿いを走り、トーマスに出逢います。トーマスは現れた彼に対して唐突に競争を持ちかけます。皮肉を言うエース、勝つために「よーい」の時点で加速するトーマス。しかし、ぶっちぎりで追い抜いて行くエースに、トーマスはすぐ夢中になります。それも駅でお客を乗せ忘れる程。

なんで唐突に興味を持つのさ? トーマスにとって何がポイントだったのよ?

これに関しては描写が不十分です。事前にバーティーと競争していたら、少し納得できたかもしれません

 

 エースが自己紹介をする前に、機関車には一定の制限がある旨がトーマスの口から説明されます。レールの上では転車台でしか回転させる事は出来ない。それもその速度は遅いと。最低限のリアリズムです。ここで改めて説明することによって、鉄道と自動車の違いや、他の未就学児向け鉄道アニメとの差別化を図っていて良いですね。

 そしてソドー島のブレンダム港からセネガルダカール港行きの船が出ていることが明らかになります。国際流通してたのか。まあでも南米からビクターやゲイターが運ばれてきたのを見るに、無くはないでしょうけどね。具体的には何の流通をしているのでしょう。映画では観光客が運ばれているところも確認できますが。

 

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©Mattel

話を戻します。エースが5つの大陸でラリーに出ると聞き、再び「See the world」が広い解釈で発言されます。そしてここで第1回目の空想。オードリー牧師の前書きは、少なくともトーマスが文字通り「全世界」を見て回る事ではないかもしれませんが、この空想自体はトーマスの人格を考えると妥当であるように感じます。世界を巡ってトロフィー獲得。ゴードンやフライング・スコッツマンより有名になれそう。

「世界を見て回る初めての機関車」になるため、トップハム・ハット卿に提案。興奮状態のトーマスはトップハム・ハット卿の真意が伝わってないようです。彼も管理で忙しそうだし。そして良いように解釈して、無計画にエースに付いて行き人知れず港へ。

 

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©Mattel

 といった感じで、ここまでトーマスの性格を紹介するには良かったです。生意気で悪戯好き、好奇心旺盛、競争好き、興奮しやすくて人の話を勘違いしやすい、素直だけど負けず嫌いでナメられると捻くれる。これらは後の対立でも目立ち、いつも通り相互作用や失敗の種になります。

しかし、内容に押されて、特に「競争好き」の部分は箇条書きのようにも感じました。

 

 

歌: Where in the World is Thomas?/どこなのトーマス?

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©Mattel

 最初の歌はとても良い感じです。代わりにお客を運んだバーティー、怒りを露わにするゴードン、心配する親友、それぞれの目的を胸に、トーマスの行方を知らない機関車たちとトップハム・ハット卿の不安を示しています。キャラクター一人一人が正しい声優で歌う楽曲は本当に見ていて楽しいです。ビッグ・ミッキーでさえ歌っています。

まあ、吹替え版ではハロルド、キャプテン、ビッグ・ミッキーの歌声は入っていませんでしたがね。※代役は佐々木望ではないので、Wikipediaのデマにご注意を。

 

 私はトーマスが港を出発する様子を映さずに、この歌の途中で行く先が判明するのが好きです。『MIR』でさえ別れを告げる場面があったのに、トーマスが友達に別れを言わずに出発した事に疑問を抱く意見も散見されましたが、余裕があった『MIR』とは異なり彼が興奮状態にあったので、それを忘れていても不思議ではないと私は思います。

 

 歌が始まる前はパーシーとトビーがそれぞれの持ち場である操車場と採石場で名前を大きな声で呼びます。親友と支線の同僚から心配し始めるのが良いですね。

 

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©Mattel

 前半の歌詞の殆どは、過去作の言及です。ファンサービスだと言う人も居ましたが、私にとっては必要な"継続性"だと思っています。たとえファンサービスだとしても物語に不要な場合か悪影響を与えない限り、私は批判しません。

トーマスは過去に何度も失敗し、どこかへ消えたり冒険しているので、最初はゴードンとディーゼルのからかいから始まり、だんだんと島中のみんなが心配していきます。

パーシーが自分の失敗と照らし合わせたり、宇宙で迷子になるというあり得ない妄想をしたり、ジェームスが本気で心配しているのが可愛かったです。特に製鋼所に閉じ込められたのは前作の出来事ですからね。

 

過去作の言及は以下の通りです。

●Bashed into some buffers*4→ S1『トーマスのさいなん』

●dropped down into a mine*5→ S1『あなにおちたトーマス』

●rolled into the ocean 'cuz he passed a danger sign*6→ S2『うみにおちたパーシー』

●stuck inside a tunnel with no steam to move at all*7→ S1『でてこいヘンリー』(?)

●crashed into a stationmaster's house*8→ S2『トーマスあさごはんにおじゃま』

●strayed into a woodland on a track that's overgrown*9→ 『HOTR』

●found a secret tunnel to some island that's unknown*10→ 『MIR』

●caught up in a landslide*11→ 『TOTB』

●have fallen off a bridge*12→ S7『アーサーとさかな』(?)

●tried to climb a mountain and be stuck up on a ridge*13→ 『BMM』

●been derailed when he was trying to win a race*14→S17 『せんろをさがすトーマス』

●Imprisoned in a steelworks*15→ 『JBS』

 

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©Mattel

 パクストンとシドニーのコンビは、ミスティアイランドを皮肉っています。いつまでいじるつもりなんだろうか、この流れ

ていうか君達もシャロン・ミラー時代のキャラだろうが。

 

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©Mattel

 後半は、カーリーから事情を聴取したエミリーの話を聞いたトップハム・ハット卿が大慌てで他の国へ行ったと想像して彼の身を案じます。

アフリカ大陸東北部のナイル川、オーストラリア、エッフェル塔のあるパリ、南極、ヒマラヤ山脈、ニューヨークのタイムズスクエアリオデジャネイロ、モアイの居るイースター島、アフリカの砂漠地帯、ベネツィア、そして東京。ここまでいろんな国が出ましたが、そのうち国で謂えば6か所には後のシリーズで冒険していますね。

しばしばトップハム・ハット卿のお母さんにツッコミを入れられて音楽が止まりますが、ユーモアに富んでいて面白いです。

 

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©Mattel

 ところでティッドマス機関庫に再びエドワードが居るのは何故でしょう。ジェームスとロージーが共演しているのを見るに、S21『はやいぞ! あかいきかんしゃ!』以前の物語とは考えにくいです。過去の先輩として心配して来ちゃったのかな。もしそうなら、なんか良いですね。

ジェームスがニューヨークの地下鉄を知ってるのも謎ですね。こちらはニューヨーク出身のティモシーか、掘削に詳しいアメリカ製のマリオンなら適切かも

 

 

アフリカ上陸、ダカール・ラリー

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©Mattel

 さて、トーマスがダカールに到着した時点で物語は消えます。もしくは非常に薄っぺらくなります。エースがラリーに出るまで、或いはニアと出逢うまで説明だらけで物語が存在しないので書くことがありません。何を見せられているんだ。

ああ、そうそう、吹替え版では「世界は思いのまま」を、トーマスが「ママが重いってこと?」と無理やり訳されていますが、原語版は「The world is your oyster!」に対して「魚の事?」と疑問を抱いています。しかし台詞に特に意味は無い上につまらないので流しましょう。

 

とりあえず困ったときは、S1レビューよろしく豆知識を書くことにします。

 最初に出場するダカール・ラリーは、1978年から例年1月1日に開催されるクロスカントリーラリー競技大会です。本来は2008年までフランスの首都パリからスタートし、スペインのバルセロナからアフリカ大陸に渡り、ダカールを終着点とする競技なので、エースが出場するダカール・ラリー完全に架空の競技と云う事になりますね。ダカールから出発してタンザニアダルエスサラームからブラジルのリオに渡るそうですし、そもそも年代と時期が異なります。

しかも全車両一度に走るし。ラリーって一台ずつ走るタイムアタックじゃないんすか

 

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©Mattel

 開催地ではエースの仲間、トニーとアンジェリク、その他63番と17番のラリーカーと出逢います。しかしこのレーシングカー達、鉄道に全く興味なし。アウトオブ眼中。レースに勝つ目的があるのでまあ当然でしょうね。

ここで改めて鉄道キャラと干渉した道路を走る車の擬人化について触れましょう。

バーティーとバルジーは旅客サービスを提供する車なので、鉄道の旅客列車のライバルとして描かれます。エースのようなレーシングカーのライバルは同じ仲間同士であり、鉄道には何の干渉も無いかギミックの一つと見なされているので適切な擬人化だと思います。キャロラインが当初鉄道に関心を持たず見下していたのも同様の理由と考えられます。また、ブッチやケビン、マージ、フリン、他ジャックたち建設会社の車は鉄道との共同作業をする場合があるので鉄道車両とほぼ同等の立場で描かれているようです。ジョージの目的は言わずもがな。

 

 鉄道とラリーのルートは別の方向ということで、エースはトーマスをほったらかしにしてラリーに挑んでいってしまいます。確かに彼は促しただけで一緒にラリーに参加しようとは言っていませんね。

それにしても仲間たちがトーマスをからかうところでエースがただニヤニヤしてるだけなの、ただただ胸糞悪い。

 

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©Mattel

 幸い、トーマスはダルエスサラーム行きの貨物列車を引っ張ることになり、エースを追いかけるついでに引っ張ります。

 サハラ砂漠には実際に鉄道が敷かれています。しかし、先ほどレーシングカー達が言ったように、現実のアフリカの鉄道は全ての国々には繋がっていません*16セネガルダカール駅を始発点とするなら、マリのクリコロ駅までしか走る事が出来ないでしょう(最も軌間が合えばの話ですが)*17。そこから先は、コンゴ民主共和国ケニアからならタンザニアダルエスサラームまで走る事が出来ます。

しかし、問題なのは現実の鉄道に基づいていない事ではなく、敷かれている線路は彼らやトップハム・ハット卿の無知な発言が無意味になりかねないので途中から貨物と一緒にジープかトラックでトーマスごと運ばれれば、後の場面でエースに夢中で給水を忘れる事も自然だったかもしれません。

 ちなみにダカールからダルエスサラームまでは、車でおおよそ5日ほど掛かります。クリコロまででも鉄道の直通運転では約29時間掛かります。大冒険ですね。

 

 

世界を周るトップハム・ハット卿

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©Mattel

 トーマスを捜しにトップハム・ハット卿も世界を巡ると聞いた時、私は期待しました。『MIR』以来、彼がどれほど自分の機関車を大事に思っているかを見られて嬉しいです。それまでのアーク期の長編は彼が事態に直接貢献する事はありませんでした。そして自分にも責任がある事を感じられていたのが印象的です。

しかしです。これについてはダカールに到着した時点からエンディングまで殆ど語る事はありません。あれ、なんかデジャヴ。

 

 カーリーが彼を文字通り直接船に乗せるところは個人的に大嫌いなシーンです。コメディの為に彼女の倫理観を削っています。まあ、幸いにもクランキーが叱ったのが救いですが、後のシーンはもっとひどいです。

 

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©Mattel

 トップハム・ハット卿の冒険は、世界各地の環境の中で、様々な動物や各地の文化の違いを表す人々、そしてあらゆる乗り物キャラクターと会話を交わす分には観るのが楽しいです。

トーマスを大切に思っている描写は彼のキャラクターとして一定の意味を持っていますが、映画全体では非常に無意味でした。そういう意味では、私はその一連の流れが嫌いでもありました。後々その理由を説明しますが、何しろ彼の殆どの場面は、主に使い古されたコメディに過ぎません。文字通りそれだけです。

 

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©Mattel

 彼が最初に出逢ったラクダ使いはちょっぴり面白いキャラクターでしたね。曰くアイルランドの女性から教わったマザーグースの歌「This is the Way the Ladies Ride」を歌いながら帽子を食われたトップハム・ハット卿とラクダ乗りの旅。吹替え版の声優による某戦場カメラマン風の演じ方もキャラと合っていて好きです。

トーマスの行方を知るキャラクターはエマソンとフェルナンドを除いてトーマスが走る場面に居合せています。フェルナンドは…恐らくアニメーターが"インドの"クラス08を間違えて配置してしまいました*18。ややこしい流用の仕方するから…

 

 

ニアとの出会い

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©Mattel

 操車場のあちこちで止められては貨車の量が増えていき、その道中で今作の最高のヒロイン、ニアが登場します。お世辞ではなく真面目な話。初台詞はトーマスの膨れっ面をからかうものでした。私はここでS1『トーマスとゴードン』のトーマスの初台詞を連想させられましたが、ニアはすぐに謝りました。素直な子です。

 トーマスが丘で立ち往生した時、彼女は再び現れ、とにかく手伝おうとします。彼女のこれらの行動は後々説明される設定の小さな伏線となっています。ニアは初めの時点で既に面白いキャラクターです。意地っ張りなトーマスを煽る煽る(笑) 彼女の煽り方は明るく、前向きで、もっともな見解です。そして遊び心があるので不快感を覚えません。後のエースにしろ、的確に弱点を突いていじる様は面白いです。

 また、トーマスのニアへの態度は、『TGR』のアシマへの態度よりも彼の性格らしいと思います。というか、ここまでの道のりで散々「役に立つには小さい」と言われているので、積もりに積もった爆発はより一層自然です。しかし貨車たちへの当たり障りのない偏見は、彼を鈍く見せるだけです。

 

 

歌: Wake Up!/おきろ!

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©Mattel

 2番目の曲はアフリカの日常生活を紹介しながら、トーマスの機嫌を上げる曲です。歌唱は、歌の時だけニアを演じるパトリシア・キホロを始め、実際にケニアのミュージシャンと録音した物です。彼女の歌声はとても良いです。通常ニアを演じるイヴォンヌ・グランディと違和感無く聴こえます。

ロードトリップものを意図していたとしても、歌自体はかなり好きです。バックコーラスかっこいいよね。

スワヒリ語の部分は「si lazima dunia kupita wewe na」と歌っています。これは英訳すると「Don't let the world pass you by」になります。即ち、英語または日本語の部分をスワヒリ語にしてもう一度歌っているわけです。

 

 それにしても、ニアの吹替え版の声優が青山吉能*19であることは意図的か否か…その答えは吹替え版スタッフのみぞ知る。

ちなみに吹替え版でバックコーラス(アフリカの貨車たち)を務めているのはボーカロイドKAITOの日本語版の声を担当した歌手の風雅なおとです。豪華だなぁ。後の「おやすみ」と「じゆうきままに」のコーラスも担当しています。

 

 

歌: Enda Ulale/おやすみ

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 3番目の歌は貨車たちによる子守唄です。起こされたと思ったら寝かされます。スワヒリ語の「Enda ulale」は、英訳すると「Go to sleep」です。凶暴なゾウがセクシーな歌声で瞬時に寝るかどうかは知りませんが、とにかく歌はかっこよくて好きです。

アフリカの貨車たちがソドー島の貨車と文化的性格が大きく異なる事を示していますが、ここでアフリカが素晴らしいと説明するのはやや強制さを感じます。それからニアはどのようにソドー島の事情を知っているのでしょうか。

 

 

"友達の"エースを探せ

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©Mattel

 ダルエスサラーム港に到着すると、ここでニアはトーマスの目的が"友達"のエースと一緒に冒険しているという事を知り、トーマスの口からその"友達"と呼ぶ違和感に気付きます。

 

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©Mattel

 ニアをよく知る友達として、それからアフリカらしい挨拶をする相手として、ガーラット式機関車のクワクが登場します。彼の登場の意味は後で触れます。想像していたほど出番はありませんでしたが、彼の性格が示唆されていたのが好きです。

また、彼のニアへの気遣いは、直後にエースをトーマスの友達と呼ぶにふさわしいか浮かび上がる疑問を抱く対比と、きっかけの一つとなります。

 

 

世界を一周する2番目の機関車

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©Mattel

 リオ行きの船にトーマスに続いてニアも乗り、協力する為、そして自分の願いを叶えるため彼の冒険についていくことになります。無許可で乗船していいのかと問いたくなりますが。

船の場面では一度に様々なメッセージが飛び交います。ニア自身も、世界を見て回りたいと考えていました。「アイディアはあなただけが思ってる事じゃない」という教えと一緒に、友達なら何故エースは助けないのか問いを投げます。トーマスは強がって「助けなんかいらないからだ」と再び意地を張ります。お前さっき誰に助けられたんだよ。

 その夜、ニアが眠る間、エースも同乗していたことに気付きます。エースはニアを「お荷物」と比喩しながら、トーマスに自由気ままの意味を提唱します。

 

 映画全体を通して、トーマスにとってニアとエースが「友情」のコインの表裏のように描かれているのが好きです。『SLOTLT』とも少し似ていますが、状況は大きく異なり、よりメリハリがついています。さて、ここからは真の「友達」とはどちらを指すのかを一緒に考える物語になっていきます。ようやく"物語"が出てきました。

 

 

第二の大陸

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©Mattel

 ブラジルのリオデジャネイロで降りたトーマスは、エースを追いかけようとしますが、石炭を補給するには役に立つ目的が無ければならないと作業員に止められます。再び、鉄道と自動車とで制限がある事が示唆されています。ちょっとしたリアリズムのポイントです。映画全体はロードトリップの典型例のような展開が続きますが、トーマスが自由に冒険しないよう何らかの制限を各地に設けているところがこの映画で好きな点です。それに関する賭けが無いのは残念ですけど

というわけでアメリカ西海岸のカリフォルニア州北部サンフランシスコまでコーヒー豆を届ける仕事をニアと一緒に任されました。ブラジルからカリフォルニアなら輸送機の方が効率良い気がするんですが…。急ぎの貨物ではないんでしょうかね。

 

 ちなみにリオデジャネイロからサンフランシスコまでの距離は約10,656キロメートルです。アフリカ横断の8,000キロよりも長いです。米国には大陸横断鉄道が実在しますが、現実では、ところどころで隣接する国で途切れています。

 

 

歌: We're Friends/ともだち

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©Mattel

 リオを発つとき、第4の歌が流れます。かなり説教っぽい歌で、ブラジルのカーニバルに合わせて楽しく仕上がっていますが、私的にはいまいちピンと来ない…。

そうそう、S23『トーマスとカーニバル』の前に、トーマスはリオでカーニバルの中を通過しているのですが、この時はニアに対する鬱陶しさに集中していたので眼中に無かったんでしょうね。

 

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©Mattel

 何故ここで『TGR』の継続性としてラウルが出なかったのかが不思議です。第23シリーズで強力な再会を描きたかったからでしょうか。

しかし、ラウルのモデルとなった実機に近いカラーリングで彼の兄弟と思わせる顔であることには好感が持てます。是非彼に「167」の番号を与えて再登場してほしいところです*20

 

 

トーマスの憧れ

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©Mattel

 アマゾン熱帯雨林でエースならびにラリーカーが貨物列車を飛び越えて再会します。どっかのメディアが「競争好きな男の子とそうでない女の子を描いたジェンダー偏見差別だ」と非難していましたが、ニアが競争に熱心な事は後の場面で明確に描写されます。彼女は危険な走行と事前に抱いていた疑いを元にエースを批判しているだけです。

さて、トーマスはエースのクールさに再び目がくらみ、給水塔を逃します。(その次の場面でトップハム・ハット卿も水不足で状況がリンクします)。

 

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©Mattel

 3回目の空想*21では、トーマスがレーシングカーになって、エースと仲良く競争したり、夢だった一回転を繰り広げる想像を展開し、トーマスにとってエースがどのような友達に見えているかを示しています。まあその大半の意味はどうせ玩具(ターボ・トーマス)の販売促進でしょうけど。長すぎるし。

 それにしてもこのCGモデル、『世界のなかまたち』の流線形トーマスに少し手を加えただけで、レーシングカーというには疑問が浮かびます。どう見ても道路を走る機関車ですプラレールの"ドラえもん号"を想起させるデザインだなぁ。

 

 

助けを待つエース

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©Mattel

 ニアが心配した通り、エースはラリーの最中にクラッシュしてひっくり返ってしまい、助けを待っているところでした。ニアの「言わんこっちゃない」みたいな表情よ(笑) その時、ジャングルから動物の鳴き声が聞こえ、エースは大慌て。

ここで彼が野生動物が苦手である事が判明し、反射的にトーマスに助けを求めます。慌てふためく滑稽な姿が可愛い。これまでのクールさをひっくり返しました。

何かトラウマでもあるんでしょうかね。だけど、この状況のようにどうしようもない時、無機物にとっては、たとえ小動物でも何かされるのではないかという恐怖が先行しやすいかもしれません。第17シリーズ以降のクランキーみたいに。彼はその場から動けないのでゾウやモンスターと聞いた時に恐がっていましたね。あれは面白い擬人化だと思いました。

 

 

アマゾンでの危機

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©Mattel

 どうやってエースを貨車に載せたのかは知りませんが、再び走り出したところで、給水塔で水を補給しなかったツケがまわります。

そこでニアが、大きな葉を使って雨水をタンクに受けやすくする方法を思いつきます。実際に上手くいくかどうかはわかりませんが、直接雨水を受けるより遥かに効率が良いのは確かです。ここではニアの知識量の豊富さを示すだけでなく、創造力を子供たちに教える目的があり、大きな意味を持ちます。また、ここでニアの女性乗組員が大きく映りました。

そして都合よく降ってきた雨水でトーマスのタンクは回復します。さすが熱帯雨林

 

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©Mattel

 トップハム・ハット卿がダルエスサラームに到着した頃、熱帯雨林では一難去ってまた一難。今度は雨の影響で線路が柔らかい地面に沈んだり橋が崩れます。

世界旅行の危険性を示しているのでしょうか。しかし、うーん。ドラマ性を増幅させるためと、エースの水嫌い設定を活かすために付け加えられた場面のように感じました。得るもの、失うものの掛け金が無いので、あまり緊張感はなく、トーマスとニアがとにかく頑張っているだけです。

ですが、コーヒー豆の貨車くんたちがトーマス達に感謝するところが好きです。彼らもアフリカの貨車達ほど協力的ではないにしても、一切イタズラをしようとしませんね。ブレーキ車ないしカブースが後部に連結されていないのも、その人格のお陰ですかね。

 

 

エースとニア

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©Mattel

 先ほども述べたように、ニアとエースはトーマスにとって「友情」のコインの両面の役割を持っています。ディズニー作品で例えるなら『ピノキオ』に最も近いです。そして貨車に載った辺りから、定められた道を往く鉄道車両としての精神と、自由奔放なレーシングカーとしての精神とで両者で意見が合わず対立する様子が頻繁に描かれます。この対立と賭けは、映画の一番の見どころと言えます。

ニアは利他的で両者の目的も視野に入れながらトーマスに常に協力的だけど、エースは利己的で両者の目的を叶えるために言葉で誘うだけです。お互いに協力し合う事で、トーマスは徐々にニアに心を開いていきます。

見ようによっては真面目と不真面目にも似ていますが、不真面目が悪いという話ではなく、その行動次第で誰に何の利益があるかがポイントです。

 

 

歌: Free and Easy/じゆうきままに

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©Mattel

 英国版ではピーター・アンドレ、日本吹替え版ではISSAの独壇場です。と言ってもバックコーラス居ますけどね。

エースが具体的にどのような人生を歩んでいるか、鉄道とトーマスの事をどのように思っているのか、手に取るように判る歌です。まあ…要は本当にそれだけの歌

特に説教があるわけではありませんが、かっこいいと思うも自由、尊重するのも自由、嫌な奴と思うのも自由、「人のふり見て我が振り直せ」の精神で勝手に教訓と捉えるも自由だと私は感じています。私はエースとして尊重して、かなり好きです。

 

内容は要約するとこんな感じ。

・自分は自由奔放な精神を持っている

・列車のように捉われた道を往かない人生を送る、それが自分らしさ

・身動きの取れない列車の上は窮屈すぎてウンザリ

・トーマスの気持ちはちゃんと考えてるから悪く思わないでくれ

・客観的に見ると、自分勝手さを隠しながら相手を褒めて自分の保守に徹し、称賛を待ちわびている

 

そして十分に理解した後、私はピーター・アンドレとISSAの素晴らしい歌声に2分47秒聞き惚れます。(本当にこの歌は、英国版、日本版共に視聴する価値があります!)。

 

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 余談ですが、MVの空想の場面でウィリーをする四駆の元ネタは、コロンビアの文化的伝統の一つである"Yipao"と呼ばれるジープのパレードです。このアクロバティックな動きは、コーヒーの収穫を祝う祭りで実際に行われます。(参考動画)。祭りは主にカラルカ、サレント、ペレンラなど広範囲で行われるようです。

 

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©Mattel

 メインキャストであるヨンバオを除いて、唯一、一言だけ台詞がある『TGR』キャラクターのカルロスが一瞬登場します。メキシコのカルロスらしいネタが披露される瞬間がありましたが、その一部はカットされました。

カットの理由と思われる事柄は、下記の【小ネタ】で述べましたが、私はそれが無くなって、安心しました。好きなキャラの他愛のない会話を見られるのは嬉しいですが、MVの中で物語に直接関係の無い場面を長々と設けられると気が散ります

 

 

鉄道での戯れ

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 歌を通して夜が明け、トーマス一行はアメリカ合衆国南西部のアリゾナ州のモレンシー・ループを走ります。エースは次のラリーの為にユタ州のソルトフラッツへ立ち寄るように言いますが、ニアはコーヒー豆を人々が待っているので寄り道している暇はないとキッパリ。雨に野ざらしにされたビチャビチャのコーヒー豆の袋なんか誰でも欲しがらないと思いますけど。

まあ、ここではニアが正しいです。例えエースを届けにユタ州へ寄り道したとしても利益はエースだけ。そして鉄道でも少しなら楽しむことが出来る事も証明しました。結局は連結しながらレールの上を進むのでエースには理解不能だったようですが。

 

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 個人的な話ですが、私はこの"アリゾナディーゼル"の寛大な態度が好きです。車体がフランキーの流用なのはちょっと残念ですが、是非アメリカ編で名前を与えてまた登場してほしいです。たった一言だけで安心感を覚えるって何気にすごくない? テレサギャラガーと根本圭子の演技が輝いていますね。キラキラ

 

 

自分勝手なエースのいたずら

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 エースはトーマスとニアの愚かさについて不平を言います。レーシングカーのエースにとっては何かに縛られながら遊びをする事こそ危険だと話しました。「俺たちは自分の意思で走ってる。俺達みんな、自分のボスなんだ、この意味わかるか?」と。ここでは私はエースの気持ちにとても共感します。特に「自分の為=自分の意思で走ってる」という台詞が好きです。

同時にS2『トーマスあさごはんにおじゃま』を連想させられもしましたが、あれこそ車両自身は自由が利かないと証明できる回でしたね。…あれ、話が脱線した。

 さて、ここから「友情」コインの本題に入りました。エースはニアを煽ってトーマスと競争させます。それはトーマスに自分の目的地であるソルトフラッツに行かせ、"縛り"から解放することが目的でした。どうしてエースがその道を知っているかは不明ですが。

 

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©Mattel

 大胆な暴走の後、トーマスたちは鉱山を突っ切って線路を大きく外れて脱線しました。幸いにもけが人は出ていません。エースは自由度とスリル満点の暴走を愉しみましたが再びひっくり返りました。お前それでいいのかよ。

レールを外れたトーマスはクレーン車が来ないと身動きが取れません。エースと違って。

 

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 先ほどの暴走でニアミスした、グランドキャニオンの鉱山で働くボゥと出逢います。トーマスは彼に救援クレーン車を持ってくるように頼みますがボゥ曰くそんなものはないと。はい、実際のグランドキャニオンにはクレーン車はありますが、恐らく何らかの理由で無いんでしょうね。もしくはすごい田舎なのか。

ここで超久しぶりに錆びてずたずたの"死んだ機関車"のスクラップ*22の存在が仄めかされます。恐らくですがボゥの目的としてはトーマス達に反省の余地を与えているのだろうと思います。カルディーがサー・ハンデルとダンカンに話したゴッドレッドの教訓みたいに。

救済の一つとして人々の力と馬の力を提唱しますが、ボゥは「集まればの話だが」と云い、トーマスとエースの乗組員を乗せて「ヒーヒッヒ」と笑いながらその場を後にします。その間、トーマスはニアの身を案じていました。ジャングルの時から徐々にお互いの友情を感じており、この頃にはもうトーマスに罪悪感が出ていました。

 

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 そういえば鉱山内部でトーマスがぶつかったこの貨車*23、後の場面で救出されなかったよな。今作一番の被害者じゃん。

 

 

動物と人々の力

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 翌朝、トーマスの前に現れたのはロープを片手に馬に乗ったカウガール達と、ボゥの姿でした。彼らは救援クレーンの代わりに原始的なやり方で、人と馬の力を使い、見事線路に戻してみせたのです。ボゥは人生に選択肢がある事を彼に教えたようです。これも子供たちに創造力を発達させる役割としての意味があると思います。

とにかくこの救出劇が大好きで、カウボーイ、カウガール、そしてボゥの陽気な態度は私を幸せな気持ちにさせました。

 

 

喧嘩別れ

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 そのままユタ州を進み、エースはトーマスの不安には目もくれず、ソルトフラッツを紹介します。到着すると、トニーとアンジェリク達に出迎えられ、エースはかっこつけて(?)ここまで運んでくれた恩をあだで返すような言い方でトーマスを怒らせます。エースの株が下がっていく~…いいえ、エースは元から最下点に居ました。変わらなかっただけです。何も。

ニアを探して謝らなければいけないと悟ったトーマスは、再びサンフランシスコに向けて出発します。エースは仲間たちに押されながらなんとなく寂しげに別れを告げました。

 

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 このシリーズでよく思う事なんですが、人格のある自動車と無い自動車の違いというか差ってなんなんでしょうね。

 ここで豆知識。ゼッケン36番の葉巻型の車は、戦闘機と増槽を改造した「ベリータンカー」がモデルと思われます。実際にソルトフラッツで最高速チャレンジに参加した機体のようです。物によっては時速480キロで走るんだとか。速いね。

手前の12番の車は基本的に競技に使わないような改造車らしいです。

 

 

歌: Sometimes You Make a Friend/あたらしいともだち

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 おそらく映画全体で最高の曲です。長編2連続でトーマスが反省する悲しい曲が流れるのもどうなのかとも思いましたが、曲と歌詞は否定することが出来ません(特に原語版)。トーマスが心からニアに反省していることを示唆し、物事を正しくしたいと強く考えている歌です。そしてそれは物語に大きく貢献します。

基本的に「you」はトーマス自身を指し、「you're」の時は大体ニアを指しています。たぶん。「I hope you're still my friend」と云う後悔を表した歌詞が、バラードの音楽と共に私の胸に突き刺さります。。。

 

 もし原語版を聞きたいのならば、ジョン・ハスラーが歌うUK版を強く推奨します。彼はいつも素晴らしく、カリスマ性があります。

私の意見では、US版のジョセフ・メイは悪くありませんが、とにかくビブラートが多くキャラの感情に集中できませんでした。感情表現は総じて下手です。

 

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 とても些細な話ですが、もしモブキャラクターとしてCGモデルをリペイントで流用したいのであれば、トーマス、エドワード、ゴードン、ジェームス、パーシーの5台は推奨しません。

この6台は実機から大幅にデフォルメされており、それを牧師とその息子が後付で島の工場で改造したものと設定しました。ヘンリーも含み、彼らのデザインはどこにもいないオンリーワンの存在です。なので、個人的にはそうしてほしくありませんでした。

その一例がエドワードとヘンリーとジェームスの流用でした。まあこの手の話題は、他の国にも『きかんしゃ●●となかまたち』の括りがあると考えれば気が楽になると思います。

 

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 そして超個人的な話をします。アメリカから中国までの航海を示す地図上で、日本列島がちらりと映ります。その中で佐渡島がきちんと描かれていたのが非常に嬉しかったです。以上、超個人的な話でした!!*24

 

 

中国の友達と再会

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©Mattel

 我ながらキモいので話を戻します。楽曲の途中で、トーマスはヨンバオと再会します。『TGR』との継続性としてグレート・レイルウェイ・ショーを思い出しながら共に挨拶を交わします。『TGR』でのトーマスとヨンバオの干渉は、「最優秀デザイン賞」パレードの時に彼がラジブの後ろからトーマスを見るだけで、自己紹介をする事もありませんでしたが、少なくともヨンバオはトーマスが「貨車押し競争」で優勝する様子を司会の声を聴きながら見ていた筈なので覚えていてもおかしくはないでしょう。凄い記憶力です。一方トーマスの方は…? 知りません。トーマスの方は名前を憶えてなかったら自然だったと思います

彼がヨンバオにアフリカから来た友達を探している事を話すと、隣に現れたモダンな形のディーゼル機関車がニアの行き先を教えてくれました。出たわねオーパーツ

ヨンバオは雪かきが必要だと注意しますが、その台詞は後の場面では無意味です。

 

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 ニアが楽しみにしていた虹の山こと張掖丹霞地(ちょうえきたんかち)を一緒に冒険することなく、歌って通過するだけだったのはちょっとした失望です。

 それにしてもこの景色だけは評価するのが難しいです。第一に予告編とテクスチャが異なるのは何故ですか。予告編の方がより綺麗に見えました。第二に地形に沿った線路の配置はとても怠惰に見えます。よほど余裕が無かったのでしょうね。

 

 

誰にでも助けが必要

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 その後、トーマスは雪山を登るニアを発見し、謝ります。最初は本気で怒っていたニアも、トーマスの誠意に気付き耳を傾けようとしますが、トーマスの声と汽笛で雪崩が起き、ニアは崖っぷちまで脱線します。トーマスが一人で救助しようとするも、山を下って引きずられるばかり。そこで登場したのがヨンバオでした。かっけぇ。

 

 開始から70分前後、冒頭から言い続けていた「助けなんかいらない」という考えを覆し、誰にでも助けが必要である事を実感しました。ちょっと待て。君は今まで何を考えながら冒険してきたんだ。アフリカの丘は? 熱帯雨林の危機は? 全部ニアと助け合いながら乗り越えてきたんじゃないのか?

まあしかし、本当に死にかけたり、公平にニアにも助けが必要であったことでより強く実感できたっていう事なんでしょうね。何があっても助けは必要です。

…この感想「まあ」率高いな。

 こうして、「世界を一周する初めての機関車」となるため、トーマスとニアはヨーロッパを横断してソドー島に帰ります。

最後に細かい事を言うと、アジアとヨーロッパは各々「大陸」ではありません*25

 

 

歌: We're Friends/ともだち(リプライズ)

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 4番目の楽曲がエンディング用に歌詞を変えて再び流れます。私はこの平凡な歌に関して語る事が出来ませんが、中盤で流れるより相応しいと感じます。

 第22シリーズの舞台の一つとなるインドを駆け抜け、ヨーロッパ各地の国は歌で全て流されます。ロシア、イタリア、フランス、イギリス。このうち2か国は第24シリーズまでに短編で冒険しましたね。

S23『All Tracks Lead to Rome』で何故パリのエッフェル塔を知っているのかと疑問でしたが、恐らくこの流れで観たんでしょうね。いつかロシア編とフランス編もやってほしいです。特にアイヴァンとエティエンヌが気になるんですよ。

 

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 トップハム・ハット卿の代理としてミスター・パーシバルがノース・ウェスタン鉄道の管理をしていたのが好きです。スカーロイ鉄道と併せて行っているのなら相当忙しいはずですが、ひょっとしてハットちゃんより効率を考えられる人なのかな。

 管理の途中で、インドの信号所から連絡が入ります。何故インドの信号手がナップフォード駅の番号を知っていたのかは謎ですが、恐らくこれも『TGR』との継続なのだろうと思います。「貨車押し競争」の時に恐らくトップハム・ハット卿とインド鉄道の局長とで交流があったのかもしれません。そうなると、第22シリーズでトーマスがインドにスカウトされたのも自然と考えられます。公式でそういう話は無いですけどね。

かつてないほど嬉しそうなミスター・パーシバルを見て私も幸せです。

 

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 そうそう、インドの場面では小さくですが、『TGR』に出てきたラジブと、第22シリーズから登場したシャンカール、チャルバラ局長の姿が確認できます。

 

 

ホームレスのニア

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 ヴィカーズタウン橋の前に着いたところで、ようやくニアがトーマスについて来た本当の理由が明らかになります。それは、彼女には家、つまり機関庫が無いという事です。そんな重要な事、今言うのかよって感じですが。

 

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 でも、実はところどころでそれを仄めかす描写はありました。トーマスが最初にニアと出会った場所は閑散とした殺風景な操車場でした。それに小さな機関車を手伝う以外に仕事も無いようでした。

 第二に、ニアはケニア出身という設定がありますが、彼女が居た操車場からダルエスサラームまで「5,000マイル=8000キロメートル」と話したり、3つ目の楽曲が流れる前に「私達今までたくさんの国を通り抜けてきたのよ」と言っているので、トーマスが来るまで、ケニアから遠く離れた、セネガルとマリの間辺りを根城にしていたと考えられます

 第三にクワクです。彼はニアを見た途端、「Nia? Is that really you?!」と驚いた声を上げていました。そしてトーマスが口を挟む前、「Have you found a new shed when you can leave here?」と尋ねています。この時点で視聴者は、一言一言に注目していれば、ニアに家がない事に気が付くことでしょう。クワクがニアを見て驚いていた様子も納得がいきます。

 そしてトーマスが旅の途中で「go home」と言う度に、ニアの表情が一瞬だけ曇りました。これも伏線の一つと言えるでしょう。

 

ニア本人は機関庫の事しか話していませんが、以上の事から、機関庫どころか所属鉄道から除籍された可能性があるとも考えられます。

 

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 歌の途中でアフリカの人々がニアに対して親しげに手を振っているのを見るに、少なくともニアは周囲から信頼されていたことが窺えます。

 

 さて、気の毒に思ったトーマスは、ニアをソドー島に迎え入れます。移民に対する積極的なメッセージ。この小さな瞬間は、ニアのような境遇を体験した事のある子供や親にとって親しみやすくなると思います。よくやった。

 

 

帰国

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 再び曲は続き、トーマスはナップフォード駅で自分の帰りを待っている仲間たちや人々が並んでいる事に気が付きます。信号機に「WELCOME HOME」の横断幕が掲げられています。感動的なシーンです。忘れた頃に思い出させてくれる友達の存在

 ここの部分、機関車たち全員が口を開いて歌っているように見えて、一部のキャラは声が充てられていません。ええ、ジョー・ミルズ、トレイシー・アン・オーベルマン、ラスマス・ハーディカーの3人はそもそも参加していませんからね。少なくとも駅で先頭に並ぶレギュラー陣の歌声は聴こえます。中でもジェームスとエミリーが強い。

吹替え版は、そもそも声優は歌っていませんきしゃのえほんwiki*とWikipediaのデマに注意してください。繰り返しになりますが佐々木望は代役ではありません。実際にはコーラス担当の渕上祥人安西康高立花敏弘原田真純内田ゆう大木理紗の6名が機関車たちが歌っているように見せているだけです。同様の事が『TGR』の「レイルウェイ・ショーにつれてって」でも行われています。キャラクターの大半はその歌手の方々が演じてます*26

 

 話が脱線しました。よく脱線する暴走機関車ぜるさんです。

仲間全員で帰ってきたトーマスと、新入りのニアを歓迎します。なんていい奴ら。本物の友達です。冒頭からかなりの月日が流れているので、ゴードンの怒りもすっかり消え、心配さえしていたようです。バックではどこか聞き覚えのあるブラスバンドの演奏が聞こえます。

トーマスはトップハム・ハット卿にニアの事を伝えようとしますが、彼はまだトーマスを捜しに行ったきり帰ってきていないというところで幕を閉じます。『JBS』もそうでしたが、個人的には再会とお叱りが観たかったです。

 

 

【プロットについてのまとめ】

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 目的の終着点となるのは「世界を一周する」ことで、そのきっかけがエースとニアとの「友情」と、「助け」についての教訓です。テーマは丁寧に描かれ、子供にわかりやすく、視聴者の多くは誰でも共感できると思います。しかし物語は基本的にそれだけで、文字通り80分で伝える全てです。

強力な個性のキャラクターが各地に居て、トーマス作品で観られる「世界」の範囲を広げられましたが、その割にサブプロットが無く、冒険は単調で、ペーシングはこれまで同様遅く、用意された盛り上がる展開さえ退屈に感じさせてしまいました。残念。

そういえば中盤辺りからトーマスの人格がニュートラル化したのも残念です。冒頭は良かったのに。

 

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 この映画での私の最大の失望は、全てエンディングに収束しています。

一つは80分の中でトーマスとエースが和解しない事です。ユタ州に着くまでも何度か間違った友情で誘ったのに、トーマスはエースが悪影響を与えていた事に気付く瞬間はありません。前作では70分間でベレスフォードを除く7台の主要キャラクターの問題がひとまず解決出来ていたのに。

喧嘩別れの理由は主にニアから離れて仕事をほっぽった事を謝る為でした。エンディングのどこかのタイミングでエースが自分の友情のやり方を変える必要があると気づけば、トーマスはより成長し、エースも自由気ままな精神のまま魅力的なレーシングカーのキャラクターになる事が出来たと思います。

 二つ目はトップハム・ハット卿の扱い方です。部下のトーマスに対する想いは強く受け取れました。が、それがサブプロットではなく、つかの間のユーモアとして全てコメディで描かれているという事で、島に帰ってトーマスと話す場面さえ用意されませんでした。短編でサイドストーリーが触れられることも無いので全く意味がありません。それも最後に会ったのがエースだったので、その後どれくらい無駄な時間を世界一周で過ごしたか疑問です。

 最後にエンディングのニアです。彼女には初めてのソドー島の風景で驚く瞬間を与えることが少しでも出来た筈です。S22では当たり前のようにティッドマス機関庫に居ます。識字を除いて当たり前のようにソドー島で働きます。エンディングではヴィカーズタウン橋からナップフォード駅にすっ飛びました。

 

 ペースのバランスが悪く、エンディングはかなり急かされているように感じました。エースと和解、トップハム・ハット卿との対話、初めてのソドー島で体験するニアなど、多くの可能性を残したのに、80分のうちどころか、直後の短編ですら何も触れられることはありません。BWBAシリーズのエピソード0とはいうけど、この長編の存在は何だったのでしょうか。得た物は活かされず、短編は基本的に一周し終わった後から各国に手伝いに行き、ニアは文字通りレギュラーとなるだけです。

 

 

【小ネタ】

【時間の経過】

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 トーマスの出発時点から、帰国までに月日の経過が背景であらわされています。冒頭では新緑の木々だったのが、終盤では紅葉となっています。

リオのカーニバルが現実では2月か3月に行われることを考えると、8~9か月くらい時間が経過しているのかもしれません。

 

 

【最近だけど懐かしの(?)キャラクター】

 広い世界を冒険するということで、何体かのゲストキャラクターが登場しています。

 

サム

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 モレンシーの環状線を通過する際に「Howdy!」と一声かけた緑色の機関車です。彼は米国限定で発売された玩具"木製レール"「Sodor Story Collection」シリーズのオリジナルキャラクターで、ブックレット付きのセットか、宣伝用プロモーションビデオにしか登場しない存在でした。詳しい事は、こちらの記事を参照の事。

宣伝用にCGモデルが用意されているので、過去3回にかけて木製レール公式サイトの動画に登場しました。(動画1)(動画2)(動画3)

その重量から個人的にソドー島に居座ってほしくない類いの車両でしたが、彼のデザインと性格が好きだったので、本拠地での再会はちょっと嬉しかったです。鉄道顧問のサム・ウィルキンソンによればファンサービスとのこと。

 映画ではトーマスと面識あるのかわからない描き方でしたが、充分です。

 

 

船乗りジョン

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©Mattel

 サンフランシスコのSailor's Cafeでは、『SLOTLT』に登場した悪役、船乗りジョンの姿を確認することが出来ます。右奥に居ます。

これは本人かどうかは不明です。常連客としてCGモデルが使いまわされているだけかもしれません。もし本人なら釈放されたという事になるのかな。

 ちなみにカフェ内部の写真の数々は、『SLOTLT』のスキフとジョンのプロモや、海賊船のシーンをアメリカっぽく再描写された物になっています。

 

 

【原作者: ウィルバート・オードリー牧師のゲスト出演】

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 私にとって、今回の登場は当たりはずれが多いと感じています。

観方によっては原作者への冒涜のようにも見える場面ですが、これはエースがどのくらい危険な誇示をしているかを示しています。

ただ、S21『ゴードンとスペンサーはライバル』でさえVIPの中でコメディキャラとして扱われなかったのになぁという懸念もあります。

 

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 2回目のカメオ出演は、ゴードンとフライング・スコッツマンとの対話で、ヴィカーズタウン駅のプラットホームで確認できます。

 

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 3回目の出演は、トーマスがニアと一緒に帰ってきた場面。ナップフォード駅の5番線ホームにおり、エドワードの隣でぴょんぴょこ跳ねています。そう、この中で誰よりもトーマスの帰国を喜んでいるのが、他ならぬウィルバート・オードリー牧師なのです。

 

 

ディーゼル

 個人的にこの映画で注目した小ネタは、ディーゼルの心理描写です。具体的に触れられているわけではありませんが、それでも少し興味深いです。

 

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 始めの内、彼はゴードンと並んでトーマスの失踪をからかっています。

 

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 2回目に映った時は、ジェームス、ロージー、ヘンリーと並んで姿を現します。恐らく他の機関車より真剣に心配はしていないと思いますが、何処か関心があるような表情です。

 

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 そして最後に「We're Friends」が流れる場面で、ダグラスの後ろで笑顔で歌っている様子が描かれています。お前絶対トーマスのこと好きだろ。

 

 

カットシーン】

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 ティザーで使われた映像以外で、とりあえず私が知っているカットシーンは、この一つだけです。それは公式YouTubeチャンネルで初めて「Free and Easy」のMVが投稿された時にだけ観る事が出来ました。(その翌日にはもう削除されています)。

 エースが自慢げに言った「太陽を追いかけるんだ」という台詞を聞いたカルロスが、彼を太陽崇拝者(sun worshipper)と勘違いし、顔にアステカ暦を嵌め、「ハラベ・タパティオ」の音楽と共に舌を出して顔がどのように見えるかをエースに見せつけます。エースは呆気にとられながら信号が青に切り替わるのを待つ、といったシーンです。

 

 私が知っている中では、メキシコのファンが気分を害する様子は見られませんでしたが、いわゆる宗教が絡む=デリケートなネタですので、子供番組のトーマスの映画でカットされたのは必然だと感じます。寧ろ、何故用意されたのかさえ、疑問です。

 

 

【キャラクター】

ニア

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 もう一度言います。彼女はアンドリュー・ブレナー史上最高の女性キャラクターであると。真面目な話。殆どは国連の功績かもしれませんが、ブレナーはシナリオで彼女の魅力を最大限に引き出すことに成功しました。(欲を言えば『TGR』のアシマも同じくらい頑張ってほしかったです…)。最初の出番の時点で十分に個性的な人格が描写され、同時に付いて行く理由と深いバックボーンも持っています。公開前に(私を含む)変化に不慣れなファンが心配していた女尊男卑も無く平等なキャラで何よりです。

 エースと共にコインの表裏を表すのならば、ニアは真の友達と言えます。意見の違いはあっても、助けが必要なときはいつでもそこにいてくれるだけでなく、感情的なサポートもしてくれます。優しくて、親切で、思慮深く、決断力があります。真面目だけどちょっぴり生意気に煽るところも面白いところです。S22ではさほど出番がありませんでしたが、シリーズの肉付けに多く貢献することを願っています。

 

 

エース

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 役に立つことが目的の機関車側の視点だけで観れば、ヴィランに相当するように見えますが、彼の役割は基本的に友情の分岐の反面教師側でした。彼は単にレーシングカーとしての精神の域を出ていないだけで、そのように見えるのは自己中心的な性格が最後まで悪い意味で活かされていたのが大きいでしょう。

 エースの友達に対する態度は、「自分勝手」を「自由気まま」とはき違えている節があります。彼は応援を投げかけてくれますが、自分に都合の良い時に限りトーマスの友達です。どんなにクールに見えても、仲間のラリーカーの前では自分をかっこよく見せる為トーマスを背後に貶したり、少しも庇おうとしません。

繰り返しになりますが、その間違った友情に、トーマスもエースも気が付くことが無かったのは、この映画で一番残念なところです。

 

 トーマスがエースについて行った理由は判りません。でもエースがトーマスを応援した理由はなんとなく理解できます。深読みしすぎかもしれませんが、仲間のラリーカーとラリーの意気込みを表すより、360度のターンや速度を称賛してくれるトーマスに楽しむことを教える事の方が、彼にとってラリーと同じくらいの楽しみだったのかなと、最後の寂しそうな「Thanks. See you, mate...」の一言を見て思いました。

 エースの良い部分も悪い部分も、私は共感し、共通点を見出す事が出来ました。その反省点は道徳として十分で、私は自分の行動を客観的に見つめ直す必要があると実感しました。

 幸い、第24シリーズ『Ace's Brave Jump』で、我々は再び彼を見る事が出来ます。映画の扱い方は非常に残念で、長編との継続で何かを得るとは考えにくいけれど、今後の発展を楽しみにしています。

 

 

ヨンバオ

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©Mattel

 『TGR』でモブだったヨンバオの勇士は、本当にかっこよかったです。流石乗客100人以上救っただけの事はある*27。吹替え版の喋り方もお兄さんみたいで良い。ただ台詞の割にトーマスと対面する時間が短かったので、映画終盤の性急さを感じざるをえませんでした。

映画で私から言えるのはそれだけです。彼についての中身の見解はS22レビューの時に語りましたのでそちらを見てください。

 

 

ボゥ

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©Mattel

 私はかつて、ゴテゴテにアメリカンな機関車が、デザインとして苦手でした。しかし、それはソドー島に来島した場合です。

私はこの映画でボゥがニアと同じくらい大好きです。やんちゃな若い機関車が十分に反省するまで教訓を与える目的なのか、一晩トーマス達を放っておきましたが、人望が厚くカウボーイとカウガール達を引き連れて助けに来ました。本人は何もしてないと云うのがまたかっこいい。本当に真面目な話、今後絶対にアメリカ編を作って、ボゥを再び出してほしいです。

 ちなみにプロトタイプのスクリプトでは、破棄されていたところをトーマスが彼を救うというものでした。このプロットはS23『Mines of Mystery』にて再利用されたようです。要はロレンツォと同等の役割だったと。

 

 

クワク

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©Mattel

 映画ではニアの友達の一人としての役割を担っています。長い事ニアに会っていなかったことを考えると、それでも普通に接する、思いやりのある彼の行動は、S22『ずっといつまでも』の説明には説得力があります。

  ソドー島に不要なガーラット式機関車をこのような形で登場させたことを嬉しく思います。そこに顔が付くんだって感じですけど。前後の炭水車・水槽車が動力源になっているのを見ると妥当かも。もしケニア編をやるとき、トーマスと話す機会が与えられたらいいなと思いました。ニアをよく知るキャラとしてトーマスの知らないニアの事情とか話したら面白いかも。笑い上戸の話し口調は気持ち悪いが。

 

 

ナタリー

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©Mattel

 おもてなしの精神を持っているのが最大の特徴でしょうか。トーマスを港に歓迎した時、ディーゼル機関車でありながら蒸気機関車に必要な補給品を尋ねていたのが印象的です。無駄の無い自己紹介。特定の機関車を思い出すときに時間をかけていたのも同じくらい印象に残っています。

ダートのCGモデルの流用なのはちょっと残念ですが、アメリカ編で再び出てくることを祈ります。ヴィニーとの会話とか見てみたい。彼のいじめを華麗にスルーしそう。

 

 

エマソン/エマーソン

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©Mattel

 新キャラとしてポスターにピックアップされた割にほとんど出番が無いキャラです。短編でもほぼ出番がありません。トップハム・ハット卿と共にトーマスを空から捜しながらリオからサンフランシスコへ彼を送り届ける役割として登場し、キャラとしての特徴はよくわかりません。ぶっちゃけキャラにした意味を問います。ブラジル編ではもっと活躍を見たかったです。ただでさえ話数が少ないので。

原語版にしろ吹替え版にしろ声の演技が独特ですよね。

 

 

トニーとアンジェリクと、他のラリーカー

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©Mattel

 4台全て同じ車両がモデルになっています。

 彼らもまたレーシングカーの用途の域を出ない擬人化で、鉄道に殆ど関心が無く、基本的にトーマスと住む世界が違います。彼との対話は私に、厳ついスポーツマンとイタイ鉄オタの会話を想起させました。

それぞれの性格は公式で明かされていないのでわかりませんが、トニーに若干の個性が描写されていたのが好きです。

TTTE Wikiaでは国籍が設定されていますが、その明確なソースは不明です。でも、言われてみれば原語版の訛りはそれぞれ違いますね。63番はアメリカ英語だし、トニーはブリティッシュ英語。アンジェリクも独特の訛りですね。口数少ない17番はよくわからんけど。

 

 

リオのディーゼル/フェルナンド

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©Mattel

 第23シリーズ『トーマスとカーニバル』で名前が判明したモブです。原語版では「That's what I just said」が口癖のようです。映画でも短編でもモブに変わりありませんが、この時点で既にノリノリの音楽好きな一面を見せている可愛らしいキャラクターです。もちろん車体揺らしますけどね。

 色以外はブリドリントンのディーゼル機関車の流用です。直前に出たオレンジ色と水色の"インドのディーゼル"とも同じ顔です。まあ世界には少なくとも3人同じ顔が居ると言いますし良いのか。良いのか…? それにしてもクラス08世界に分散しすぎでは。

 

 

タンザニアのクレーン/コービー

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©Mattel

 モブクレーン第1号。クレジットではThe Tanzanian Craneでしたが、名前はスマホアプリ『Adventures!』で後付けされました。名前の由来はコービー・ブライアントでしょうかね。ビック・ミッキーのCGモデルの流用ですが、顔の横に窓があるなど区別されているところが好きです。実際にトーマスとニアを積み込んだのは人格のないビッグ・ミッキーと同様のクレーンでしたが。

 しかし、クレーンが人間を吊るす危険なやり方をさも当たり前のように行うのは勘弁してください。カーリーの場合まだ若いからと庇う事は(操縦士が居なければ)一応可能ですが、ぽっと出の彼の事は良く知りませんし、この作品にとってかなり非常識です。それもある種のコメディの為に描写されているので、倫理的にも行動心理的にも、トーマスを文字通り捕まえるベレスフォードとはワケが違います。

結局の所、我々はこのキャラクターの性格を微塵も知りません。

 

 

リオのクレーン/カッシア(?)

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©Mattel

 モブクレーン第2号。クレジットではThe Rio Craneでしたが、正直なところ、彼女が本当に第23シリーズのカッシアかどうか疑わしいです。ボサノヴァの音楽好きであることとカーリーの流用であることは共通しています。しかし色と顔は全く異なりますし、そもそも港の風景が第23シリーズと一致しません。うーん。

 

 

アメリカのクレーン/カーター

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©Mattel

 モブクレーン第3号。クレジットではThe American Craneでしたが、名前はスマホアプリ『Adventures!』で後付けされました。車体はベレスフォード、顔はメリックの流用です。

 吹替え版はそうでもありませんが、原語版では少し捻くれた性格っぽく、トーマスに対して皮肉を言います。彼の人格はちょっと面白そうに見えます。もし今後アメリカ編を行うなら、また出てきてほしいです。その時にはカッシアみたいに顔が変わったりするのでしょうけれど。

 

 

アフリカの貨車

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©Mattel

 モブ中のモブだし固有名もありませんが、強く印象に残っているので語らせてください。メディア上で「Troublesome」と付くことがありますが、絶対に悪戯はしません*28。コーヒー豆の貨車もそうです。行儀が良いところを強調させるに当たって、ソドー島の貨車の流用だとしても、もしブレーキパイプが付いていたら最高でしたね。

そして彼ら、ずっと機関車を待っていただけあって序盤の方の台詞がすごく味があるんですよね。会話が自然で好きでした。また、総勢19両の中から何台か女性っぽい声も聞き取れました。ソドー島でもそうだけど、女性貨車も今後も登場したらいいな。

 

 

【世界観】

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©Mattel

 正直な話、私はトーマスが外国に旅立って、色んな景色の中で冒険する様子は見てみたいと心のどこかで思っていました。恐らく子供の頃です。熱帯雨林の場面でヘビが出た時、何故かそれを思い出しました。

 ダカール港、リオデジャネイロの街並み、アマゾン熱帯雨林、コロンビアの路面鉄道など、ジャム・フィルド・トロントは素晴らしいセットを作り、それっぽさを演出していて良かったです。

 

 プロットの感想の時、私は時々「現実では」という言葉を使いました。その意図を話しましょう。

 私の文句は全て「フィクションにとやかく言うな」で片付きますが、"作品の特徴として"、ソドー島外の現実感は結構大事なことだと私は思うのです。ソドー島が架空の島であることは言うまでもありません。現実主義のオードリー牧師と息子のクリストファーがソドー島をフィクションの領域で描く分、彼の作品ではよくイギリス本土の鉄道事情を知らせたり、土地ネタと時事ネタで実時間の描写と言及を設け、フィクションとの区別で現実感を想起させました。即ち、メインランドや世界の国々を舞台にするということは、私たちが暮らす現実のような場所を演出するのが、"この作品"にとって特徴の一つでした。

 

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©Mattel

 メインランドだけでなく他の国までウソンコを演出した場合、全てがフィクションとなり、ソドー島の日常的な現実味さえ成り立ちません。悪く言えば『魔法の線路』以来、資産の冒涜に繋がるリスクがあります。

全ての大陸に線路が敷かれていて、そこを機関車が走り続けられる事を示すと、今までに世界一周した蒸気機関車が無い斬新さがあったとしても、自動車のロードトリップ映画と大差のない平凡な作品になります。特にサハラ砂漠がその例です。

別の捉え方をすれば、アフリカ大陸横断鉄道の建設の応援のようにも観て取れますが。

 

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©Mattel

 その欠点にも拘らず、特定の場面では現実感のある景色が描写されました。その一つがモレンシー・サザン鉄道の環状線です。少し形は異なりますが、実在する場所です。

(参考資料)

 

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©Mattel

 サンフランシスコの港も、実際のサンフランシスコ環状鉄道のように見えるくらい、上手くいきました。線路の配置と、ソドー島で観られないコンテナが良い味を出しています。

そして『TGR』キャラクターのカメオ出演は、その国を表すうえで重要です。

 

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©Mattel

 あー、これは完全に万物の外です。

 

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©Mattel

 もう一つ残念なのは車両(Rolling Stock)です。もしジャム・フィルド・トロントモデリングをする余裕があったら、それぞれの国の貨車と客車の再現を見てみたいです。スタジオの事を考えると仕方ないので妥協しますが。

ネジ式連結器のトーマスが牽けるように、世界各地のRolling Stockは全てイギリス特有の無蓋車、有蓋車、ブレーキ車、クレーン車、客車で、カラーリングもソドー島と同じです。それに合わせて他の機関車達もネジ式連結器と緩衝器が付いています。アメリカではカブースさえ再現されませんでした。

特にコーヒー豆の貨車が米国仕様の無蓋車だったら、ブレーキ車が要らない理由も説明できるので、ソドー島でのブレーキ車の必要性をここで完全に無意味にします。『魔法の線路』とまた別のトーマス・ユニバースがチャンイエ共に仕上がっています。

 

 

SDGsの取り組み】

 第22シリーズ同様、エピソード0である映画にも国際連合が携わっています。その恩恵の殆どはニアのデザインと設定が大きく関わっていますが、同時にSDGsとの関連性も散見されます。

 

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©Mattel

 まず、労働者のジェンダー平等があります。特にアフリカでは女性の鉄道員を何人か確認することが出来ます。だけど画面に映る時間は極僅かで、それも大きく映る瞬間がありませんでした。ニアの機関士のように、時代設定にそぐわなくてもソドー島に居ても別に罰は当たらないはずです。

 グランドキャニオンでは、カウボーイとカウガールがほぼ均等に見られたりもしました。登場シーンではカウガールが率先して映ったので彼女の印象の方が強いです。かっこいいよね。

 

 全体を通して【#11. 住み続けられる町づくりを】に基づいているように見えます。それが実際に触れられたわけではありませんが、人々が知らないところで、暮らしの為に鉄道が頑張って貨物を輸送している。中盤のニアの台詞から、そんな風に観て取れました。

そして何よりニアのソドー島への移住は、このSDGsと紐づけされています。

 

 

【その他の取り組み】

 多くの種類の動物を画面上に映すという意味では、第22シリーズよりも自然に行われましたし、上手くいったと思います。

ラクダ、ヤギ、キリン、シマウマ、トムソンガゼル、ゾウ、ヘビ、サル、オニオオハシ、ウマ、コイ…etc。

 

 

【随所で見られるリアリズム】

 ダイヤ関係なく船に乗り込むなど都合のいい展開にリアリズムを設けると一貫性が無いので何とも言えませんが、それまでの長編と変わらない、現実味のあるネタが幾つか用意されていて、私は安心して楽しむことが出来ました。

 

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©Mattel

 第一に冒頭で作業員がタンク車のブレーキを調べるところです。こういう描写って割と珍しいと思うんです。手動ブレーキがかかってトーマスは貨車を押す事が出来ませんでした。

 

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©Mattel

  第二に、ブラジルからサンフランシスコまでのトーマスとニアの編成です。これは見映えの都合で設けられた編成ではなく、現実的な意図があります。この編成は主にアフリカにおいて一般的で、橋の上などで機関車の重量を分散させる為にこの方法が行われます。恐らくニアの知識でしょう。

 

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©Mattel

 そうそう、ボゥのデザインを忘れてはいけません。

カウキャッチャーが付いているのに、不要な緩衝器も付属して物議を醸しましたが、こういった例は実在します。フィンランドのハンコ・ヒュヴィンカー鉄道所属のボールドウィン製4-4-0蒸気機関車がその一例です。(リンク) オーストラリアにもこのような機関車が実在します。

まあ、ボゥ自体のデザインの目的としては、イギリスの貨車を引っ張る為なのですが。

 

 

【アニメーション】

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©Mattel

 特別素晴らしいとは思いませんでした。照明もそこまで綺麗ではありません。『JBS』から一般的なカートゥーン演出になった時点で全体は平凡です。しかし、それはビジュアル・ストーリーテリングの方法が悪いという意味ではありません。それが魅力的だった部分が少ないだけです。

 その中で、私が本当に楽しんだアニメーションは、グランドキャニオンでソルトフラッツへの分岐点を曲がった後の、崖っぷちの危険な線路をジェットコースターのように暴走するシーンです。非現実的ではありますが、私は子供のころからこういうのをトーマスで観たいと思っていました。ソドー島ではなく外国で。スリルと爽快感があって本当に楽しかったです。

 

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©Mattel

 その後のループ・ザ・ループは、率直に言って『TGR』のジャンプと同じくらい嫌いでしたが、別に長々と時間を費やしたり次の場面に影響もないので特に気にしていません。それよりも問題なのは物語の薄さです

 

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©Mattel

 とはいえ、綺麗なところは非常に綺麗でした。私が挙げる例の一つはダカール港に到着する際。もう一つは「じゆうきままに」全体。

あと、人間の動きも相変わらず細かいですね。特にファークァー駅に到着した時、降りたお客さんが戸惑っている様子が映されています。きっと特定の駅に止まらずに終点に到着したのでしょう。

 

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©Mattel

 全体を通して水のレンダリングはそれまでの長編に比べて粗さが悪目立ちします。バラストは時々平坦で、景色も殆ど偏狭なのが残念ですが、世界各国の地形をたくさん作るに至って、9か月間の少ない時間の中リリース日に間に合わせるように頑張ったのだと思うと、私としてはあまり非難する気にはなれません。破産騒動で『JBS』のCGが未完成のまま発売されたのと同じように。テクスチャは『JBS』よりは良くなっています。大手の会社として一定のクオリティを保っていると思います。

しかし、一般人*29からは、それがとても怠惰に見えてしまうでしょう。特に一般的なアニメーション映画と比較した場合。

 

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©Mattel

 時折制作者の苦悩が窺えるレイアウトも、頑張った方だと思います。ダルエスサラームの港がいい例です。複雑な線路配置や人々が生活す様子を中央に集中させて、奥の『マインクラフト』のような建物と、ソドー島と同じ背景を上手に隠しました。

他の"大人"のファンと同様に、私は何故CGモデルの流用が多いのか、そしてレンダリングとテクスチャが杜撰なのか理由を知っており、基本的には気にしていないので、映像に集中して観るまで上述の粗さは気が付きませんでした。

 

 地形と建物の流用はアニメーションの観点から言えば悪い事ではありません。実際、模型のクラシックシリーズでも、同様の事がありました。第4シリーズとか。その場合は、同じに見えないように工夫が必要になりますが、そうなる理由の一つは、予算と時間が残されていない時に妥協案として実行されます。

 

私が何が言いたいか理解できない場合は、アニメ『映像研には手を出すな!』の視聴を推奨します。FODで独占配信中です。

もしくは、3DSの『うごくメモ帳3D』を使って1分の立体アニメーションを一つのメモで、メモリ限界まで使って5日以内に作ってみてください。シリーズ物でもいいです。

 

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©Mattel

 今の所、魚の貨車を映す場面だけですが、匂いを表すカートゥーン的な演出が追加されました。周りのキャラクターとカモメと人間の動きを見れば臭さは伝わると思うので要らぬ演出に思えます。

 

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©Mattel

 身振りについては第22シリーズレビューで語ったし、第21シリーズ、第23シリーズ全体評価と『JBS』レビューの時にも触れようと思っているので今回は流します。

が、今回から45度傾きます。特にアフリカの貨車たちの伝え方としては結構好きです。でも公平を期すと、やりすぎです。

 

 

【音楽】

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©Mattel

 第22シリーズ同様、劇中のBGMは私の中で殆ど記憶に残っていません。いくつかBWBAのテーマアレンジがあったかなーぐらい。世界中に焦点が充てられている事で各国のそれっぽい音楽を様々な音色で表現することが可能でしたが、ロックンロールなエースのテーマを除いて一貫性がありません。その影響も大きいのかな。

 ですが、グランドキャニオンで暴走するシーンと、カウボーイとカウガールがトーマス達を救出するシーンはキャッチーで壮大で、ドラマ性を与え、とても好きでした。とくに前者は、段々と罪悪感が背筋をなぞるようで、良い意味でゾワゾワしました。

 クリス・レンショウは前作『JBS』と『TGR』で映画らしい壮大で記憶に残りやすい劇中BGMの数々を提供できていたので、単に創造が足りなかっただけだと思っています。

あと、殆ど環境音が中心だったのかな。

 

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©Mattel

 挿入歌はとても良かったです。物語に影響しなかったとしても「Wake Up」と「Enda Ulale」と「Free and Easy」の歌声とメロディを愛しています。「Where in the World is Thomas」はキャラクターそれぞれが歌う曲として楽しかったです。そして「Sometimes You Make a Friend」は、バラード調が心に刺さる最高の曲です。

 

 

ボイスキャスト

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©Mattel

 ボイスキャストは英国、日本吹替え共にとても良かったです。

原語版では、ニア、クワク、ヨンバオなどの声が本物のアフリカ人、中国人のように聴こえます。それもそのはず、ニア役のイヴォンヌ・グランディはケニア人ですし、ヨンバオ役のダン・リーは実際に中国生まれです。クワク役のアブバカール・サリムはスワヒリ語ネイティブです。どうりで合うわけだ。ボイスディレクターのシャロン・ミラーに感謝しています。

吹替え版でニアを演じた青山吉能は、本当に彼女にぴったりでした。序盤の生意気っぷりがよく表現されています。煽りが可愛くて好きです。

 

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©Mattel

 エースは特筆しなければなりません。原語版の有名ゲスト声優はイギリス生まれオーストラリア育ちの歌手、ピーター・アンドレです。エースのモデルになったトライアンフスピットファイアもイギリスの自動車メーカー製なので共通していますね。

映画初出演であるにもかかわらず、ピーター・アンドレの演技は最高でした。歌声の素晴らしさは勿論、笑い声や感情表現も見事にエースを表していました。

吹替え版のゲスト声優は同じく歌手のISSAです。正直な話、これまでの吹替え版のゲスト声優の中で群を抜いてピッタリだったと思います。一番上手いまであります。彼は実際にエースになりきっていました。そして歌声も素晴らしかったです。

 

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©Mattel

 吹替え版の比嘉久美子は、例年よりキャラ声としての歌唱力が上がっているように聴こえ、努力が感じられます。

吹替え版は映画全体のキーが半音下がっていることに加えてトーマスの歌唱パートが元々男声ボーカル用に作られている為、高い声質を持つ女声に厳しいですよね。『TGR』のようにもし彼女が音程で苦しむ時は、歌唱パートだけ石原慎一ディーゼルの歌声を演じているように、似た声音を持つ代役を見つける方がいいかもしれません。もっとも、その必要はもう無いようですが。

 

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©Mattel

 ほんの一瞬でしたが、原語版のビルの声はどうしてこんなに低いのでしょうか。それは…キャラに合っていません。

ああそうそう、今回ジョナサン・ブロードベントも出演していません

 

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©Mattel

 吹替え版ではハロルド、キャプテン、ビッグ・ミッキーを除いて、「どこなのトーマス」に相応のキャストが参加していたのは驚きでした。岩端卓也のティモシーを久しぶりに聴けてうれしいです。坪井智弘と河本邦弘はキャラ声での歌声に苦労していたようですが、それでも良いです。

先ほども言いましたが「レイルウェイ・ショーにつれてって」や「ともだち」(リプライズ)では軍を演出する為殆ど歌手の声で、キャラが歌っているように聴こえないので。

 

 

【最終的な考え】

 長編作品はいつでも「友情」がテーマとなっていますが、これほどまでに「友情」に焦点を合わせた作品は今までにありませんでした。その意味では道徳に優れています。

 ネタは豊富で、登場キャラクターも魅力的で面白く、声優も英国版と吹替え版共に素晴らしかったのですが、世界観を拡げる目的に押されてか、肝心の物語を伝える事を完全に放棄していました。私の意見では淡白としていて平凡でした。腹を立てる程悪い映画だとは決して思いません。

しかし、この映画で残した多くの可能性が劇中で解決される事も無ければ、短編ですらその続きとなるエピソードが無いのはとても悲しいです。一刻も早くプロジェクトを実行しなければならないというマテルの焦りを、どこか感じます。

 

 

全体を通した面白さ: ☆

キャラクター: ☆☆

創造性: ☆☆

世界観: BAD

道徳観: ☆☆☆

CG技術: ☆

美術: ☆

音楽: ☆☆

声優(UK): ☆☆☆

声優(JPN): ☆☆☆

 

総合評価: 4/10

 

 

…長編作品の感想ってこんな感じでいいのでしょうか。

もし問題があれば次回から別の書き方を心掛けようと思います。

 

 

※この記事に添付したスクリーンショット著作権は全てマテル社に帰属します。

*1:Twitter等で話題がヒートアップしない限り

*2:後のMeet the Steam Teamのジェームスの紹介動画では、嫌いな仕事から逃げるのが得意と紹介されています。またS22『あやまってよジェームス』でも同じことを実行しています。

*3:仮にそうだったとして、この設定どうにかならないもんかなぁ。

*4:車止めにドカン

*5:鉱山からゴローン

*6:標識気づかず海にドボン

*7:蒸気が無くなりトンネルの中

*8:駅長さん家にぶつかった

*9:森の奥深くさまよってる

*10:見知らぬ島へと迷い込んだ

*11:山崩れに遭った

*12:橋から落ちた

*13:山に登ったの? もう降りられない?

*14:競争してたら脱線をして

*15:日本語吹替え版では歌詞を繋ぎ合わせるために「製鉄所」が「ソドー整備工場」と誤訳されています。

*16:現在、アフリカ連合によって大陸を網羅する大陸横断鉄道が計画されている段階です。

*17:ダカールニジェール鉄道

*18:フェルナンドのボディカラーは青系です。

*19:彼女のデビュー作が『Wake Up, Girls!』であるため

*20:ラウルの実機は全部で3台英国で製造され、そのうちの一つはディーゼルエンジンの変換に失敗して166号と167号より先に廃車になりました。

*21:2回目は虹の山

*22:バートの流用です。

*23:本来はナローゲージ

*24:※私は新潟県民です。

*25:かくいう私も予告編の記事で間違えました。

*26:どなたかWikipediaの手直し手伝ってくれませんか。

*27:この設定はS24『Yong Bao and the Tiger』で描かれると思います。

*28:日本のマーチャンダイズで「Troublesome Box Van Truck 'Africa」という英名を付けた担当者は未就学児に提供する前に英語を学習してください。

*29:及びマテル否定派