※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S24 E09 『Thomas' Not-so-Lucky Day』『うんがわるいトーマス』
脚本: ベッキー・オーバートン
内容: 不運に見舞われたトーマスは、ロレンツォから教わった迷信を試す。
テーマ: 不運を防ぐ方法
【高評価点】
・イタリアに纏わる迷信の殆どを物語に取り込んでいる。
【低評価点】
・ロレンツォとベッペの滑稽なキャラ開発は上手く嵌っているが、全力で誇張されていて、魅力的ではない。
・トーマスは塩を何処へ届ける予定だったのだろうか。
・道徳は綺麗事っぽい。
【このエピソードについて】
一部の人はS17『パーシーのおまもり』の焼き直し或いは同じと発言されていましたが、今回はお守りの他にイタリアに纏わる「迷信」が顕著に言及される事と、視覚的にお守りに効果があるように見える事がミソです。特に迷信は、イタリア舞台では、ある意味オペラより身近なネタと思われます。
他の世界編と同様に、各国についての事情がわかりやすくプロットに追加されており、太極拳、春節、虎狩り、バトゥカーダ、ユーカリ鉄道と並んで称賛に値します。
500話以上も続く長寿作品で、ある程度のネタ被りや再利用は、学習するキャラクターが同じでなければ許容範囲内です。加えてイタリアらしいネタでもあるので、割り切って楽しむことが出来ました。穴埋めを思わせる演出にはうんざりしました。しかし、物語はキャラクター劇の面が強く、それほど悪くありません。トーマスの機関士がコミカルで面白かったです。
再び画面に鳥のフンが出てきましたが、トーマスに梯子の下をくぐるトラウマを植え付ける意味があったので気にしません。S20『ジュディとジェロームのぼうけん』とはわけが違います。
しかし悪目立ちする部分もあります。
特にロレンツォは、どこからともなくトーマスの前に現れ、不運を呼ぶ迷信を見つけてはショックを受けたり、ダメ出しをしたり、特に意味も無く大袈裟に幸運を呼ぶ迷信を行います。ベッペは主にその解説役です。
まず、彼らの仕事は具体的に何でしょうか。都合よくトーマスの前に反対方向から現れるのはとても不自然でした。
ロレンツォは大袈裟なキャラ付けが特徴で、それが魅力的でもあり、私は彼のキャラが大好きです。今回は同じように素晴らしかったでしょうか。うーん、あまり。
お互いに同意できない部分のあるトーマスのちょっと変わった友達として描かれるのは十分に良いです。例えば迷信に対して「そろそろ間抜けと呼ばないでくれ」とこっそり苦言を呈す相互作用は見ていて面白かったです。
但し、それ以外では、物語ではずっとコミカルな滑稽役です。それが物語に幾分か貢献しているのは確かでも、キツイ云い方をすれば、ただ鬱陶しいだけでした。伝説になるほどの間鉱山に閉じ込められていた事を考えると、人々の迷信に過信したり、お守りを貰って嬉々とするのも無理ないとは思いますが、私としては魅力的には思えません。
オチでは「tocca ferro」の迷信も役に立たない事を視聴者の為に示唆していますが、ロレンツォとベッペは最後まで学習する事もありませんでした。
具体的な仕事と云えば、トーマスは何のために塩の貨車をミアの元まで届けたのでしょうか。しかも一度積んだまま、ミアの元に行っているので余計にです。
胸ポケットのエムブレムの通り、ミアは考古学博物館のカシラとして、ジーナたちに手伝ってもらっている設定の筈ですが、鉄道の管理者にでもなったのでしょうか。そう考えると、何故大量の塩が必要だったのか…うーん、謎。
ジーナはツッコミ役と解説役として完璧だったと思います。S23の中編の通り、彼女は消えた機関車の伝説を不確定的なただの作り話として、話す事を好みませんでした。今回は迷信も同様に否定しました。
ジーナは前向きでいれば良い日になると主張し、ミアは一生懸命働くのがベストだと伝えます。単なる綺麗事に過ぎません。でも、小さな役割でもキャラが安定しているのは本当に嬉しいです。
ただし、両者とも物語の冒頭と終盤で全く同じことを繰り返し発言するので、少し穴埋めっぽいエピソードのように感じました。
エスターはちょっとした出番でしたが、エスターらしい自我があったのが好きです。トーマスが過信する遠因となる役割で、最終的にロレンツォの云うとおり金貨を発見=幸運が訪れますが、それまでは間抜けな迷信と云い、楽観的で我慢強い性格も垣間見えました。
【チェックポイント】
ロレンツォが緩衝器にぶら下げていた赤い唐辛子のようなお守りは"コルニチェッロ"(Cornicello)というナポリの伝統的な魔除けです*1。唐辛子のように見えますが、生命力、精力、力強さを表現するために、コモンエランドの角の形状をモチーフにしています。骨、テラコッタ、赤サンゴ、プラスチックなどから出来ており、古代から金と銀も存在します。
一般的には魔除け、歴史的には受胎能力と男らしさを促進するために用いられます。
物語に出てきた迷信は以下の通りです。現地の方曰く、その殆どがイタリアの実生活で広く知れ渡っている物となっています。
●鉄に触れるは幸運の予兆。木に触れる事で不幸を回避するのと同じで、イタリアではタッチアイアン。イタリア語で「Tocca Ferro」(トッカフェッロ)と云います。
●「13」はラッキーナンバー。サッカーの試合結果を予想する賭けで13試合充てると1等賞となる事が由来と知られています。逆に、アメリカやイギリスなど他の西洋の国では「13」が忌み数となり、イタリアでは「17」が忌み数となります。
●貨物にバナナを積むと不吉が訪れる。漁船に纏わる迷信で、ハワイを始めとした西洋共通です。
●塩をこぼすと不吉。塩やオリーブオイルが高価なものと考えられていた時代に関係があると考えられます。こぼれた塩をひとつまみ、左肩の後ろに投げると不吉を回避できます。トーマスは肩が無いので、機関士だけが難を逃れていたのが面白かったです。
●黒猫が前を横切るのは不吉の予兆。ヨーロッパ共通認識の為、トーマスも知っていました。イタリアではこの傾向が顕著に続いているようです。国によっては幸運にもなります。
●梯子の下をくぐるのは不幸をもたらす。三位一体の下をくぐるのは礼に反する事と思われているそうです。
●トンネルで息を止めると願い事が叶う。恐らく西洋共通の迷信と思われます。サウナに長時間いる勝負と似ていて、主に競争のような行為です。(どちらも大変危険ですので絶対に真似しないでください)。トンネルの空気が百日咳の子供を治すと信じられ、親はその過程で病に伏すのを防ぐために息を止めるという習慣が起源と考えられます。
●右に回れば幸運になる。…これについてはよくわかりませんでした。詳細求ム。
このほかにもイタリアでは、部屋で傘をさすと不吉、水で乾杯してはいけない、ベッドの上に帽子を置くと不幸、ホウキが足に触れたら結婚できないなど数多くの迷信があります。
そして面白いのが、第一に幸運を望まない事です。幸運を願うと逆の事が起こり不幸をもたらすのだとか。なので「幸運を祈る」の代わりに「bocca al lupo」(狼の口の中に飛び込め)と言うそうです。これらの迷信は幸運をもたらすより、不幸を防ぐためにあるといった意味合いが強いです。日本にも同じく文化的な側面から多種多様の迷信が存在するので、共感を得やすいかもしれません。
以上、雑学にお付き合いいただき誠にありがとうございました。
全体的な面白さ:☆☆
鉄道らしさ:☆
キャラ活用:☆☆☆
BGMの良さ:☆☆
アニメーション:☆☆
道徳教育面:☆
【最終的な感想】
テーマはS17『パーシーのおまもり』と同じでも、展開が異なるので別物として楽しめました。ネタとキャラクター自体は良いです。オーバートンお得意の教育とコメディが両立されていて期待より*2面白く、イタリアの迷信も興味深くて楽しかったですが、プロットの前後は同じ言及の繰り返しで、ロレンツォとベッペの大げさすぎる振る舞いも相俟って、やや退屈に感じてしまいました。道徳自体も普遍の域を出ません。
そういえばステファノ出てこなかったなぁ。彼も迷信好きそうですけど、エスターと同じで単なる「話」として見ていそうでもありますね。
総合評価: 4/10