※この記事にはネタバレが含まれています。感想は2016年〜2018年ごろに感じたことです。
また、記事の感想は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S19 E19 『Philip to the Rescue』『やっぱりやんちゃなフィリップ』
脚本: アンドリュー・ブレナー
内容: ジェームスはフィリップに力強さを見せつけるために大量の貨車を牽いて脱線する。
【高評価点】
・『トーマスのはじめて物語』との素敵な関連。
・緊張感と迫力満点の脱線シーン。
【中立点】
・冒頭の回想はキャラクターをわかりやすくさせるが、果たして必要あっただろうか。
・十分意味は通じるが、テーマとなっている"show-off"と、"自分勝手"は違うのでは。
【低評価点】
・フィリップが自分の非を完全に認めていないように見える描写。
【このエピソードについて】
フィリップのオリジン2話目です。前回でも関連させていたように、今回はS1『ジェームスのだっせん』よろしく『トーマスのはじめて物語』の後半と関連づけられていて、今度はフィリップが虚栄心の強いジェームスに絡んでお互いに(殆どジェームスだけ)見栄を張るのが愚かしいかを学びます。
日本語吹き替え版で「自分勝手」と訳されている部分は、本当は「show-off」(目立ちたがり、見栄っ張り)です。意訳でも十分に意味は通りますが、せっかく関連させているのだから、『トーマスのはじめて物語』でアニーが言及した通りの訳し方でよかったのではと思います。
テンポは格段に良くなっており、物語自体はまとまっています。もはや何度も学ぶ必要はないのではと思えるほどジェームスが32年前の番組からちっとも進歩していないのは気になりますが、全体を通して関連づけさせたい熱意は伝わります。
速さの次は力強さ。前回と同じように(規則は守っていますが)、フィリップは自分より大きくて成熟した機関車たちに自分の凄さを認めてもらおうと操車場をあちこち走り回って、子供のように振る舞います。空っぽの貨車だと分かっていながらたくさん繋いで、今朝ジェームスが牽いていた列車より多く牽いているのをトーマスに見せていたのが可愛かったです。ちんまい入換え機なのでなおさら。
事故の場面がすごく好きです。事故が起きると簡単に予想できましたし、このスクリーンショットを図鑑で事前に確認しているので驚きはしなかったのですが、ここに至るまでの緊張感とカメラアングルが最高でした。フィリップの上に乗ってバランスを保ったおかげで大事に至らなかったのと、これでフィリップが力持ちであることを奇跡的に証明したという発想が面白かったです。
傷や車輪の歪みなどのディティールもよくできていたし、車掌が近くのコテージでトップハム・ハット卿と連絡を取る場面も自然な流れでよかったです。
さて、事故に至るまでの物語では3つの要素で成り立っています。争いの原因を作ったフィリップ、煽りに乗ったジェームス、そして運。このうちの何が今回の事故で一番悪いでしょうか、…なんていう問題が自動車学校の教育ビデオで流れたので大半の運転者はわかってると思います。正解は3つとも全部です。重心と坂道に運も何もないですが。
物語では見栄を張って愚かしい行動を起こしたジェームスが教訓を学びました。幸い、前回と異なり機関庫の場面でエドワードがフィリップに対して「Maybe. But right now Philip, you're the one who's showing off. (それこそが見栄っ張りなんだ)」と優しく丁寧に助言を与えてくれました(この場面の彼の教え方が好きです)。しかし、結局フィリップはこの時の発言がそうであったことを理解しますが、事故の前について自分がしたことが悪かったことを認めることもありませんでした。それどころか再び優位に立っています。
幼な子に設定した登場キャラを未就学児向け番組で叱責したくないのはわかりますが、これでは『やんちゃなフィリップ』と同じで成長の機会が台無しになるどころか、キャラクターが憎まれる原因にもなります。それは最後のゴードンの一言でより強調されます。
関連させているトーマスをよく見てください。彼は生意気な振る舞いをする度に毎回何らかの方法でお仕置きされています。原作も、模型も、CG期も同様に。その度にトーマスは成長し、自分を磨き、努力に見合った報酬を得ます。『トーマスのはじめて物語』で明確に描かれているように。それこそがトーマスの愛らしさとシリーズの魅力的な強みなのです。"生意気な性格が織りなす初期の雰囲気"は重要ではありません。フィリップほどの個性の強いキャラなら、例えそう倣っていても性格が崩れることはないと思います。
正直に言うと、冒頭の回想シーンが必要だったかも疑問に思います。一部の地域では1話ずつ放送されることもありますが、日本では2話まとめて放送されましたし、DVD「Start Your Engines!」の為に設けられたエピソードと考えると、それほど必要とも思えません。
『やんちゃなフィリップ』の結末にてゴードンが「明日はお前にガツンと見せつけてやる。俺様が本当はどれだけ速く走れるのかをな」と言っていましたが、結局続きの今回はジェームスが絡むことになり、その台詞は偉そうな大型機関車をコケにしてに見せるか、懐かしい雰囲気を作り出すために存在するものになりました。ますます前回のエピソードを無意味に感じさせます。せめて冒頭だけでも用意できていたらよかったのに。
【チェックポイント】
エドワードがかつての緑のトーマスを懐かしみ、トーマスは照れくさそうにしていたのは、最も素敵な瞬間でした。
脱線したジェームスが、フィリップの警笛と走行音を聞いて「そこに誰かいるの」の後に真っ先に出てきた名前が「トーマス」だったのが好きです。関連づけなだけだとは思いますが、ジェームスにとってトーマスが救いの象徴になっているのではないかと考えられアツいです。
操車場の外ってこんな緑だったっけ。
全体的な面白さ:☆☆☆
鉄道らしさ:☆☆
リアリズム:☆☆
キャラ活用:☆☆☆
BGMの良さ:☆☆☆
アニメーション:☆☆
道徳:☆
【最終的な感想】
相変わらずフィリップは可愛いし、心が温まり、物語の展開は的を得ていました。しかし、フィリップのデビュー作は2話とも私にとって期待外れでした。完璧な流れを築いた『トーマスのはじめて物語』と同じ脚本家が執筆したと思えないくらい胸糞が悪いです。概ね、70周年に当たる2015年のために作られた長編2作*1を書くのに忙しかったのでしょうし、責める気はありませんが。
※幸い、第20シリーズと第21シリーズのフィリップはより一層魅力的なキャラクターに成り上がっていたと思います。当時から早くレビューを投稿したくてたまらないのですが、私にはあまり時間がありません。
総合評価: 4/10
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*1:『トーマスのはじめて物語』と『謎の海賊船と失われた宝物』