※この記事には2020年劇場公開予定の映画『チャオ! とんでうたってディスカバリー!!』に関する重大なネタバレが含まれています。閲覧は日本での公開後を強く推奨します。
また、記事の感想は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S23 E22 『All Tracks Lead to Rome』
脚本: ベッキー・オーバートン
内容: イタリアを訪れたトーマスは消えた機関車の話を信じ、ジーナの忠告を無視した挙句怒らせてしまう。
テーマ: 知ったかぶり
【高評価点】
・ジーナの強い個性のキャラの掘り下げ。
・イタリアの基本的な言語の説明。
・前後編の物語であるものの、一つの物語として仕上がっている。
【低評価点】
・あまりにのんびりしたペーシング。
・間違った線路を走ったまま次の展開に変わる。
・曲がりくねった線路のくだりは3回登場するが、必要性が皆無。
【このエピソードについて】
『Digs & Discoveries』は厳密には映画ではなく、TVシリーズの中編(?)を2つくっつけたまさにTVスペシャルのような代物です。劇場版のような挿入歌や、特別なオープニング、エンディングは特にありません。サブタイトルと内容が前後で異なるため2つに分けて感想を言います。今回のレビューはその前半『All Tracks Lead to Rome』です。
はい、この話を気に入った方々には申し訳ありませんが、私はあまり楽しめませんでした。20分かけて長くじーっくり流れるプロット、ぎこちない会話、客車を牽いて間違った線路に入ったと思ったら何事も無かったかのように場面転換して次々に放置されていく問題。実にくっだらない(暴言)。でも、同じく中編の『Steam Team to the Rescue』と並べると、物語自体はかなりまともな方で、設定は興味深く結末も道徳的でした。そのうち、いくつか改善が必要な部分があります。
イタリア編のオリジンに該当する事もあってか最初はイタリアの名所や言語についての解説が入ります。S22のインド回*1のような、物語に無関係な箇条書きのノリが4分程淡々と続き、その後もゆったりとしたペースで進んでいくのでまあ退屈。このほか物語の主軸となる「好奇心」「消えた機関車」以外での日常的な対話も少ないため、その上長く引きずられていて、退屈さに滑車が掛かっているように感じました。
サブタイトルは、英語圏のことわざ"All roads lead to Rome"(すべての道はローマに通ず)の鉄道的な捩りです。目的は同じでも辿り着く手段や方法はいくらでもあるという意味。
前回も言ったように、7分(OP, ED併せて11分)のエピソードでは前後にストーリーテラーとお浚いを設けてその話の教訓と"テーマ"を語るコーナーがありますが、22分の中編ではそれらがありません。主軸となっているのは「消えた機関車」に纏わる物です。これに加えて「伝説への好奇心」、「専門知識の知ったかぶり」と、それらを結ぶ「友情」も、このお話のテーマの一つと考えられます。この辺の教訓は上手く纏まっていると思いました。
要約すると、価値観を押し付けたり、それほど詳しく知ってるわけでもないのに自分の未熟な知識を得意げに語ることや、時に、強い好奇心は友情を崩壊させることがあるという感じですかね。幸い、ジーナの真面目な性格とトーマスの好奇心で「目的」が一致し、これらの経験から、彼らの友情はより深まりました。
視聴者側からしたらTGRで仲が良くなる場面が無いので出逢ったばかりのような感じだが。
ちなみに、Appゲーム『Thomas & Friends: Adventures』のイタリア編はこのエピソードを主軸としています。このゲームのお浚いの語りによると「はじめて行く場所には知らない事がたくさんある。そこで大事なのは、知らない事を尋ねてみる事」とあるので、このエピソードの主軸は要約すると「知ったかぶり」かもしれません。
言語の学習も欠かさず用意されています。
「bellissima」→「美しい」、「grazie」→「ありがとう」、「ciao」→「こんにちはorさようなら」*2。特にこの3つの基本な単語は、劇中でトーマスや駅長が意味を説明するので子供にもわかりやすいはずです。
また、空想内でトップハム・ハット卿が言った「bravo」は、観客などが賞賛の意を込めて発する感嘆詞です。日本でもなじみ深い単語ですが、これもイタリア語です。ちなみに、「bravo」は男性へ送るもので、女性へは「brava」、複数男性や男女混成へは「bravi」、複数女性へは「brave」と発します。同じような意味の「fantastico」は事や物に対して使います。
『走れ! 世界のなかまたち』(以下TGR)から3年の時を経て同じく再登場した女の子タンク機関車のジーナ。初登場の時点では何かしらのキャラ付けが行われていたけれど、"男の子と同じくらい力強い"という何だかよくわからないアイデンティティの欠片も無さげな設定の没個性でしたが、今回新たに、イタリアの伝統を誇りに思い考古学的な発掘作業に取り組むことが好きという一面が追加し深く掘り下げられました。
声優はお馴染みのテレサ・ギャラガーから、英国のサリー州出身のアンナ・フランコリーニ(Anna Francolini)に変更。*3 イタリア訛りっぽい巻き舌と生意気そうな喋り方が実に上手くはまっています。
トーマスが彼女の態度に対して使う"huffs and puffs"とは、激しい息遣いでひどく腹を立てる、または何もしないくせに文句ばかり言うという意味です。また、過去の作品では機関車が激しく蒸気を噴き出すときにも使われました。劇中でジーナは、顔を真っ赤にさせ「フン!」と力いっぱい蒸気を噴き出して怒ります。素晴らしい鉄道擬人化です。
このように、プライドが高いゆえにか、知ったような口でトーマスから無益な知識自慢でマウントを取られたり、間違った事を言われると彼女はすぐにプンスカ怒ります。愚か者を容認せず、彼の無知で失礼な態度に腹を立て、一度「消えた機関車のようになっても見つけてあげない」と辛辣に言うも、考古学者ミアからの話を聞いて心配になって捜しに行くといった行動から、生真面目で忠実な印象も受けました。過ぎた事もすぐに受け流します。非常に良いキャラクターですね。
ラウルを除く他のTGRキャラ同様に国の解説役として動作しますが、これらの掘り下げの他にちょっとした活躍があったのが嬉しかったです。
それにしても、トーマスとの相性が悪すぎて会話が噛みあわない場面が多々あってみている方も少しイライラします(苦笑) ジーナは良い性格なのは確かで私はその強い個性を気に入ってますが、今回のトーマスは好奇心からの失言が特に多くて、その都度彼女もひどく腹を立てるので疲れています…。しかし、彼女は何一つ間違ったことは言っていません。探しに来たのに助けられる羽目になった時、ヒーロー気取りのトーマスにくぎを刺したのが不覚にも笑いました。
ジーナがこういうキャラだと、同じく『TGR』初出でドイツの女性機関車である、怒りんぼうでかなり気難しく愚か者を前に我慢できない性格のフリーダも、同じ道を歩むことになるのかなぁと、少し不安です。
おそらく史上最大でインパクトも膨大であろう輸送船ステファノ。凄いデザインですよね。水陸両用の船で、先輪には無限軌道、後輪は巨大なオフロードタイヤ、デッキはテンダー機関車を2台載せられ、クレーンとウィンチ付き。船底に自動車を搭乗させられると。情報量が多すぎる。貨物船として見れば艀レベルのちょうどいいサイズですが、いざ陸に上がると何もかも超越してスケールが判らなくなります(笑)
おそらく実在する車両では無い、完全にフィクションだと思いますが、船体は1952年にアメリカで開発されたLARC-LX(水陸両用貨物補給自走艀)で、無限軌道は水陸両用戦車などの軍用車がモデルとなっているようです。実際のLARC-LXはもう少し小さめ。
そんな絶大なインパクトを誇る彼は、ユーモアのセンスがあり、親しみやすくてパフォーマーとしての素質があります。自惚れたりはしないけれど、水陸両用の特性を知らない誰かに見せてあっと驚かせることと、世界中で聞いた物語を話す事が好きなようです。これは公式サイトからの引用です。
劇中ではその性格の全貌を見ることが出来ます。実際に視聴者側としても親しみやすかったです(笑) でも、このお話ではさほど重要な役割はありませんでした。
小ぶりの機関車やボギー車以外通れないような連続した急カーブ*4が続く「曲がりくねった線路」(トーマスはこれをスパゲッティと形容)のくだりが必要だったかどうかも判りません。エスターの居る建設現場、ステファノが上陸する砂浜の前、古びた鉱山の合計3回に渡ってこのような線路が出てきますが、寧ろなぜ触れたのかと思うくらい物語には特に影響はないし、トーマスが調子に乗るか、彼の文句でジーナのプライドを傷つけるだけでした。三度目の鉱山から脱出する場面を成功と例えるならば、一度目の走行で脱線していたら少し意味があったのかも。
クライマックスの岩石滑りは手に汗握る物でした。あまりに速すぎて重量感が足りないだとか目が追いつかないなどといった意見には同意しますが、『TOTB』のシリアスで悲惨な地滑りとはまた違った迫力とスピード感で、ドキドキして面白かったです。
【チェックポイント】
「消えた機関車」の伝説は、イタリアで実際に知られている「鉄道会社サネッティの列車失踪事件」という都市伝説に基づいています。
1911年7月14日、サネッティの新型観光列車は3両編成の蒸気機関車で、106人の乗客を乗せて、長さ1キロの当時最も長いとされる新しいトンネルに入ったきり、文字通り消えてしまったというもの。トンネルには分かれ道も無く後退した事実もない。警察の調べでトンネルに入る前に飛び降りた2人の乗客だけが見つかり、彼らの証言によれば、トンネルの中から乳白色の霧が流れてきて列車はたちまち呑み込まれたのだという。トンネルは第二次世界大戦でたまたま爆撃に遭い閉鎖。
そして事件から40年後の1955年10月20日にウクライナの村の線路を、サネッティの物とみられる3両の古い列車が音も無く動いている様子を目撃したという情報がある―
勿論これらの事実を証明できるものは無く、年月を経て様々な噂が膨張した作り話と思われます。詳しい内容が知りたいオカルト好きな方は「サネッティ 列車」に関連したキーワードで検索すると良いと思います。
上記と同じような経緯や膨張しまくり風化した噂があるのか、ジーナは「消えた機関車」伝説を一切信じておらず、ただの話だと片づけています。
一方、トーマスが固着して信じ切るのも、特に言及などはありませんが、これまでレディー*5や、ヒロ*6、グリン*7など過去に様々な形で消えた機関車を見つけた事があったり、間接的にデューク*8の事も知っていたので余計に感情移入してしまうのかもしれませんね。
危機が迫る状況でも機関士の存在を欠かさなかった事はとても好感を持てました。これにより、更に緊迫感を高められます。
全体的な面白さ:☆☆
鉄道らしさ:☆☆☆
キャラ活用:☆☆
BGMの良さ:☆
アニメーション:☆☆
道徳教育面:☆☆☆
【最終的な感想】
サブタイトルや鉄道に関する都市伝説などイタリアらしいネタがてんこ盛りですが、機関車の失踪も、鉱山も、曲がりくねった線路も、岩石滑りも全て使い古された物と云う事もあって新鮮味は無く、ましてや長ったらしいくだりも多く、短編の世界編と大して変わらない展開で退屈でしたが、友情に関する展開は新しくて悪いエピソードではなかったです。
ジーナは本当に素晴らしいキャラクターです。それから、消えた機関車伝説の話から既に次のエピソードに登場するキャラの特徴が既に掴みやすくて面白いです。
まあ、これ以上に語りたい事はありません。
総合評価: 8/10