※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の感想は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S22 E02 『Forever and Ever』『ずっといつまでも』
脚本: アンドリュー・ブレナー
内容: エドワードとヘンリーが機関庫を移動したことで落ち込むゴードンに、新しい友達のニアが「すべての変化は悪い事ではない」と教える。
テーマ: 変化への適応と友情
【高評価点】
・「どんなに離れていても古くからの友達はずっと仲良しでいる」
・現スティームチームの中でエドワードとヘンリーの最も古い友達であるゴードンを主役にさせたこと。
・ゴードン達と同じ状況にあるニアのキャラ活用。
・ナレーションがは一度も流れていないがわかりやすくて完璧なショーとして成り立っている。
【低評価点】
・ヘンリーの異動の経緯が大雑把に描かれている。
【このエピソードについて】
急な変化に驚きを隠せないであろう視聴者の為に必要なエピソードで、思ったよりもよく出来た面白くて良い話だったというのが率直な感想です。UK初放送版S21『エドワードのやすむばしょ』と同様にタイトルコールを除くナレーションは一切無いにも関わらず良い番組として展開されました。
この物語のゴードンは終始エドワードが機関庫から異動したことを悲しみ、ハット卿の決断を知りヤケを起こします。普段から仲間に悪態をつく独りよがりなゴードンにしてはかなり大袈裟ですが、私はむしろ自分の兄弟達の身を案じるゴードンこそ、主役に相応しいと考えます。加えて、ゴードンにとってエドワードとヘンリーは初めて出来た友達ですから*1、失って初めてその寂しさ恋しさがわかったのでしょう。
そしてアドバイスを送る役割は、友達のいる故郷から遠く離れてソドー島にいるニアというのも適任。今のゴードンと同じ状況のキャラクターです。同じく移民者のヒロにも同様の役割が可能であるとは思いますが、ニアには明確な友達の存在の代表であるクワクが居ます。彼は恐らく『BWBA』でトーマスと一緒に彼女に会うまで長い事会っていなかったでしょうし、きっと今も友達で居続けていることでしょう。その為説得力があります。そしてエドワードとヘンリーもまた、ゴードンを友達と思っているのは明白です。内容が押しつけがましいのがちょっと残念ですけどね。
そして、個人的に諦めかけていた鉄道的な要素もプロットに上手く組み込まれていたのが嬉しかったです。それはゴードンがバックして転車台の穴に落ちかける場面。S1のように現実でもテンダー機関車も入換え作業に使われますが、特に大きな炭水車を持っていると視界が狭くてバックが困難になります。
次々に行われる変化を前に取り乱しパニックを起こすゴードンの様子はとても面白かったです。 また、ゴードンの不安感が夢で現れる形となったファンタジー・シークエンスも皮肉的、そして感情的で素晴らしいです。
私は彼の行動や心情を、視聴層に関わらず古くからのファンの隠喩のようにも感じています。彼の心情は、昨年10月に初めてニュースを知った時、いずれはハット卿は機関車と対等の存在になりボスは女性と変化、機関車たちは線路を飛び出して自由に走り回る制約のない世界観になるのではないかと想像し、物凄い不安感に襲われた当時の私と全く同じでした。
他の寛容的でないファンも似たように不安に陥っていましたし、古いファンに対し「このような変化はないから安心してね」というブレナーからの暗示になっているように感じました。線路が玩具のようになることも、ブレーキ車が無く鉄道で運ぶのに適さないものを載せながら宙に浮くことも、マリオンが列車を牽くことも、新体制からの展開には無いからね、みたいな。
また、ゴードンによる反発心の中にはブレナーの本心も写し出されていたのではないかと、偏見ながら私は考えます。彼がどれだけ作品の熱狂的なファンであるかはS17-20までの彼の執筆した作品で一目瞭然ですし、シナリオは1~2年前、私たちがニュースで不安を抱く前から完成しているはずなので、不満が募ることを想定したうえで執筆したのなら凄い事です。また、変化の適応を苦手とする自閉症の子供たちへのメッセージであるとも考えられます。*2
最も残念に感じたのはヘンリーの異動理由が無い事。合理的でドラマチックに異動が描かれたエドワードに対し、ヘンリーの異動の経緯は描かれず、あまりにサラッとしていて不憫です。もちろん、この短い尺で理由を語るのは不可能ですから、その前に経緯の物語が欲しかった。今後、語られることを祈ります。
しかし、ヘンリーの異動先をヴィカーズタウンに指定したのは大変良い選択です。CGシリーズ以降、彼はちょくちょく本土へ出張していますし、今後は先輩機関車として駅を訪れる新しい仲間や、本土の仲間にアドバイスを送るのであれば適任でしょう。
また、エドワードが本意であるように、私はエドワードの異動も寛容派です。S21『エドワードのやすむばしょ』は素晴らしい物語でしたし、彼の働く支線上のウェルズワースがホームになるのも遥かに理に適っています。私は今からでもフィリップとの共同生活の様子をもっと見たいです。
少し関係ない事を話しますが、一昨日*3からYa●oo!ニュースを始め様々なまとめサイトで今回のリブートが取り上げられていました。しかしどれもよく調べられていないあまりに適当な記事ばかりで残念です。
いいですか、エドワードとヘンリーはクビにはなりません!!
寝床が変わり脇役になるだけで普段通り登場し、物語に新たな展開を作り出します。
私はニアが好きです。彼女はケニアでの生活の経験上多くの興味深い教訓を持っているだけでなく、プライドの高い仲間を煽って正常の仕事に戻そうとするなどの行動も面白いです。また、彼女の存在が難民への強いメッセージであるように暗い側面を持っているところもバランスが良くて好きです。
しかし、人格とは別に個人的にもう一つ疑問があります。何故ニアは当たり前のようにティッドマス機関庫に居るのでしょう。
私は長編『BWBA』(『Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』)*4の内容を始めから最後まで全て熟知しています。そしてニアが何故ふるさとのケニアを出てトーマスと一緒にソドー島まで着いてきたかの理由も全て知っています。 長編の中で彼女がティッドマスに入庫する理由は語られていません。
理由は1秒で思いつきますが、ヘンリーの件と同様にせめてその経緯はして欲しかったのが率直な思いです。そんなの結末が分かりきっているので蛇足かもしれませんが。
【チェックポイント】
皆さんはお気づきでしたか? タイトルコールの際、ティッドマス機関庫の屋根の上に7羽の小鳥がいて、タイトルがちょうど消えた時に、左から2番目の小鳥を残して2羽飛び立っていくんです。
これはエドワードとヘンリーの脱退を暗示する演出になっています。左から2番目の小鳥はゴードンのポジション。こうして見ると、ゴードンがどれだけ寂しいのかがよくわかりますね。
ゴードンの空想では、スティーブンとスキフを除く沢山のキャラクターが、現実では絶対にありえない編成や行動で狂気を演出しています。貴方は以下のキャラクターとネタを全て見つけられましたか?
・雲の上に存在する玩具の鉄道、移動遊園地の滑り台、風車
・鳴き声を上げる巨大化した恐竜模型
・恐竜パークの恐竜模型を大量に運ぶパーシー
・動物を固定させずに平台貨車で運び、急坂を登るジェームス*5
・平台貨車に雪だるまなど奇妙な物を載せて走るトーマス
・軌道自転車を漕ぐウィルバート・オードリー牧師*8*9
・風船を付けて宙を舞うエミリーの貨物列車
・変なポーズのノランビー伯爵が乗ったトロッコを漕ぐソドー市長とバブルスさん*10
今回のエピソードでは『TGR』(『走れ!世界のなかまたち』)のオマージュ小ネタが2つ用意されています。上の画像のような並びと、フィリップの台詞がハット卿と被って「その声どうやって出すの?」とパーシーが訊く場面。このようなブレナー脚本で随所に見られる遊び心や作品愛が好きです。
こういうオマージュがあるということは、もしかするとゴードンが変化への嫌悪感に拘るのは友達が居ない事だけでなく、シューティング・スターに変化した失敗も遠因となっているのかもしれません。それは『TGR』で彼が得た教訓です。競走が物語の楽しい映画作品『TGR』のテーマは「自分らしく、ありのままで、変化は不要」というものでした。
そのテーマが今回と対に、もしくは分岐になっているとも考えられて面白いですね。
全体的な面白さ:☆☆
鉄道らしさ:☆☆☆
キャラ活用:☆☆☆
BGMの良さ:☆☆☆
アニメーション:☆☆
道徳教育面:☆☆
【最終的な感想】
初めて概要を見た時は機関庫に入る新入りがアドバイスの立ち回りを知って、大人たちがリブートを良いように正当化しようとしているのではと考えていましたが、思ったよりこのような不安感は無く、エピソードは良かった。私はニアの考えを尊重します。
今回のエピソードで語られているようにエドワードもヘンリーも自分の意思で異動したわけで、ニアも次回登場するレベッカも彼らを追い出すつもりは毛頭ない事は把握していますが、昨年10月のリブートに関するニュースで彼女たちが生まれた経緯、即ち大人の事情を知ってしまった身としてはどうしてもモヤモヤが残るのが難しいところです(苦笑) だからといって、他にファンから非難を受けているキャラ(たとえばチャーリー)と同じように、ニアとレベッカ即ちキャラクターに罪はありません。
ちなみに私はウィフとチャーリーが大好きです。(隙あらば自分語り)
総合評価: 7/10