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喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

きかんしゃトーマス 第24シリーズレビュー第1回

※この記事にはネタバレが含まれています。

また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。

 

 

 

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S24 E23 『Thomas and the Royal Engine』『じょおうへいかのきかんしゃ』

脚本: マイケル・ホワイト

内容: 女王陛下と王子に招待されたトップハム・ハット卿とトーマスは、時間通りに辿り着くようロンドンを目指す。

 

【高評価点】

・原作とブリット・オールクロフトとBWBAシリーズのメッセージを含んでおり、アニバーサリー作品としては上出来。

・原作『The Railway Series (汽車のえほん)』を幼少期に愛読したチャールズ王子との共演(フィクション)。

・プロットに貢献するベレスフォード。

 

 

【中立点】

・少年時代のチャールズ王子の出演から1957年から1960年の間と仮定すると、バルジー、エミリー、レベッカ等の登場キャラクターは来島していないことになる。また、その頃にトーマス関連の玩具は無い。(nitpick)

 

【低評価点】

無し

 

 

 

【このエピソードについて】

 遂に、この時が来ました。75周年を記念する中編のうちの一つ『Thomas and the Royal Engine』のレビューになります。番組表とプロダクションオーダーでは、第24シリーズの最終回に当たります。いきなり最終回からレビューを始めましょう。

繰り返しになりますが、この記事の閲覧は日本公開後を強く推奨します

 

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©Mattel

 全体を通して、不快感の無い健全な記念作品だったと思います。『はじめて物語』を観た後で5年後にこう来るとは予想できませんでしたが、良かったです。トーマスの生意気な部分が使われない分、物語前半の内容はやや薄めですが、前期の中編より特別さを感じられます。トーマスがロンドンへ実質里帰り、トップハム・ハット卿が女王陛下から鉄道サービスの特別賞を受賞、そして前に知り合った友達との再会と、新しい友達との出会い。そして普段では見られないトップハム・ハット卿の姿。それらが全て詰まっています。

前期の『Steam Team to the Rescue!』と同様にシンプルな一話完結の中編でも、チームとして動いたり日常的な忙しさが延々と流れる物ではなく、ここでは確かな相互作用があります。機関車達だけでなく、この作品の特徴である人間(乗組員)も影響に大きく貢献します。私は前期の中編も娯楽の一つとして愉しみましたが、こちらでは確かなプロットがあるように感じ、より一層楽しむことが出来ました。

 

 トーマスの性格は、思いやりの部分と仲間への尊重が強く出ています。生意気な部分が描写されないので、少しニュートラルに感じられましたが、「As I always say, little engines can do big things! (いつも言ってるんだ、小さな機関車は大きなことが出来るってね)」という『魔法の線路』になぞらえた台詞を聞いて、トーマスである必要性をここで実感しました。「おおっ」と思いましたよ。

知っての通り、私は該当の映画全体が嫌いですが、この台詞は好きで、20年後に初めて言及された事を考えると、胸が熱くなります。

 

 また、駅が複数点在するロンドンを始め、クルー、ドンカスター、バッキンガム宮殿など具体的な地名や施設名がいくつか挙がった事もあり、駅舎が架空だとしても、不要なファンサービスの為のランダムな言及だったとしても、現実っぽさを直に感じさせられました。実際に英国に住む子供たちには特にそうだろうと思います。

そうそう、バタシー発電所の前を横切る場面は、実際のヴィクトリア駅操車場の線路配置に基づいています。(参考画像)。まあ、遠近法と地面はおかしいですけどね。

 

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©Mattel

 この回のみになりますが、映画『友情の大冒険』からベレスフォードがTV本編に登場します。再び危険なやり方で"友達の"トーマスを吊るしますが、私は特に気にしていません。それがベレスフォードのアイデンティティであり、人間への危害はありません。フックを屋根に雑に引っ掛けていた当初と異なり、今回では機関士の窓に引っ掛けている事から、"友達"として少し優しくなったような気がしますね。

 再登場に至るまでは少し人為的に感じましたが、ベレスフォードがプロットに貢献を果たしているという点では良い再登場だったと思います。トーマスとの再会は長編との連続性があり、門番のフリとしてではなく、実際の友達のように振る舞います。そしてトップハム・ハット卿に丁寧に指示される様子が描かれたのも良かったです。機関車が降ろしてと云うよりも説得力があります。ベレスフォードって融通きかなさそうで素直だよね。映画でも見せましたが、友達の為に全力で行動するところに好感が持てます。

 ていうかこの運河、ロンドンに繋がっていたんですね。ベレスフォードが行く先を知っていたのは日ごろから機関車を止めては質問しているからなのでしょうね。

 

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©Mattel

 先ほども申したように、機関車の友情と失敗だけでなく、トップハム・ハット卿を含む人間も物語を動かします。その大半の部分は主役のトップハム・ハット卿によって左右されました。コメディとしてだけでなく、元エンジニア設定を想起させる頼もしい一面も見せてくれて、とてもうれしい限りです。

 トーマスの機関士と機関助士はいつも以上に活き活きとして動き、久しぶりに喋ります。喜劇だけでなく、鉄道要素の一環で、乗組員の重要性が表示されたのが好きです。

 CG期では『トーマスのはじめて物語』、第18シリーズ、第20シリーズで各々の機関車の機関士が喋っていたのが記憶に新しいですが、『伝説の英雄』等吹替え版のアドリブを除けば、トーマスの機関助士(ボブ)が正式な台詞を話すのは第8シリーズ即ち約16年ぶりになります。ボブ*1の方は以前まで機関士だったはずですが、今作では髭のある名無しの方が機関士として扱われています。

やりとりと人間同士の会話は自然で、とても引き込まれました。

 

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©Mattel

 女王陛下と皇子の登場シーンは本当に美しい物でした。まず私は、トーマスが、(絵本の読者であった)皇子によって選ばれたという物語設定が好きでした。勲章を授与する場面はたまりません。ちなみに「C」と刺繍された帽子を被られている少年時代のチャールズ皇太子は、この写真を基にモデリングされていると思われます。(リンク)

 トーマスが世界を冒険している事に対する皇子の言及は、環境保護主義のチャールズ皇太子らしいなとも思いました。ただまあ、チャールズ皇太子の年齢*2と、1953年設定の『じょおうへいかがやってくる』の後の話から数えて、推定1954~1960年辺りと考えると、やっぱりどこかでBWBAの時代設定の矛盾が生じてしまって、何ともいえない気分にもなります。*3*4

 

 女王陛下(エリザベス2世)はこの作品では初めての顔出し出演で、しかも喋りました。原作絵本では手だけしか描かれていなかったり、模型時代では遠景を除いて後姿が中心的だったので、驚きでした。それが良いか悪いか私はわかりません。

放送前にブリット・オールクロフト女史がご自身のFacebookにてその登場の仕方とヘンリー王子とマーケティングについて強く批判されていましたが、翌日、自分の番組を見て育ったファンによって書かれた物と知って安堵されていました。(個人的には『魔法の線路』由来のトーマスの台詞を見てどう思ったか知りたい…)。

とにかく、女王陛下の与えられた出番は良かったと思います。原語版で声を当てられたのは元脚本家のシャロン・ミラーでしたが、彼女の声はとても当てはまっていました。流石現ボイスディレクター。

 

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©Mattel

 ロンドンへの行先を知らないトーマスが何故選ばれたのかと文句を言うゴードンと彼をからかうヘンリーの台詞は、原作12巻2話『ゆうめいになったゴードン / ゴードン、ロンドンへ』からの引用です。

 過去作の引用は、連続性を伝える目的があるなら私は喜んで受け入れます。しかし、第2シリーズでお蔵入りになったとはいえ、未映像化エピソードの言及は少しやりすぎのような感じがしました。原作出版75周年の記念作品の前提を考慮すれば妥当なのかもしれませんが、既にゴードンが、ソドー島からロンドンに行ったことになっているということは、何らかの手違いが無い限り、それが映像化するのも望み薄と云う事になりますね…。TV版の時間軸は本当によくわからない。

 

 ネタが判らなかった方には、12巻「八だいの機関車」を推奨します。これを機に多くの現代の子供たちが絵本も手に取るようになれば、ファンの私も嬉しいです。

 

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©Mattel

 新キャラクターのダッチェス。何故英国の旅客列車用の蒸気機関車にも拘わらずバッファビームが黒でランボードが赤で塗られているのかだけは謎ですが、実在の機関車のようにダッチェス・オブ・ラフバラーという正式名称が設定されているのが好きです。この名前の機関車はもちろん実在しません。ありそうな名前っていいよね。

 デザインはともかく、ダッチェスは愛すべきキャラクターです。物語で示唆されるように、目の前のやるべきことばかりに集中して周りが見えなくなったり、性急になって礼儀と物事を忘れる傾向がありますが、彼女の根は落ち着きがあり、親切で、仲間を尊重できる素晴らしい性格の持ち主です。

私はもっと、普段のダッチェスのお話が見たいと思いました。実際に性格があり、それが自然にプロットに貢献しているので、観ていて面白いキャラクターでした。

 原語版の声優は、例年の大物ゲスト声優としてロンドン出身のロザムンド・パイクが演じられています。2002年の『007 ダイ・アナザー・デイ』でミランダ役で出演、2019年4月から放送されている、イギリスとフィンランドの共同制作CGアニメ『ムーミン谷のなかまたち』のムーミンママ役(英語版)などで演じられている方です。(私の知識力はこの程度です、すみません…)。

 

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©Mattel

 オープニングには、トーマスの代わりに、ヘンリー王子によるストーリーテリングが設けられています。現在、彼は王室から離脱したので、「Royal」という言葉の入った商標の使用を禁じられています。私は国民ではないので何とも言えませんが、この件は本当にただタイミングが悪いなぁと感じます。(収録は恐らく今年かもしれませんが)。

 とはいえ、彼が幼少期に『The Railway Series』に親しんだこと、そしてこの物語が、彼の父親と祖母が出演したフィクションという繋がりは本当に素敵な演出だと思います。この作品の温もりと現実感と重要さを改めて実感させられました。

 

 

【チェックポイント】

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©Mattel

 ビートルズの「Day Tripper」風のベースラインに合わせて送る、トーマスとトップハム・ハット卿の身支度シーンは必見です。特にトップハム・ハット卿は今までに描かれた事の無い意外な一面が明らかになります(笑)

 

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©Mattel

 このエピソードには、非常にマニアックな演出と言及のイースターエッグが用意されています。よほどのマニアでないと気付けないような豆知識をご紹介しましょう。

 最早CGシリーズではお馴染み*5となりました、ほっそり牧師こと原作者ウィルバート・オードリー牧師もゲスト出演。全力疾走するパーシーで巻き上がった風で、牧師のスケッチブックが飛ばされます。

その時に一瞬だけ映る簡単なトーマスの絵は、牧師が実際に描いたスケッチに基づいています。また、その際にマイク・オドネルとジュニア・キャンベル作曲の旧オープニングテーマのアレンジが流れ、タイトルコールに繋がります。

原作絵本の執筆と、TVシリーズ初期を思わせる演出です。

 

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©Mattel

 トーマスがダッチェスに会う前に、この場所がイングランドの何処なのか思惑を並べます。彼が最初に思い浮かべたクルー(Crewe)は、彼が言及しているようにヘンリーが再建された工場のある実在の地名です。S1『フライング・キッパー』にて脱線事故を起こした後、ヘンリーはクルーの工場で生まれ変わりました。

次に思い浮かべたドンカスター(Doncaster)は、これまたトーマスが言及しているように、ゴードンが製造された工場の実在の所在地です。TVシリーズドンカスターが触れられたのはこの回が初めてで、両方とも原作設定になります。

ダッチェスと出逢った駅はそのどちらでもないのだろうと思いますが、LMSのダッチェスがそこに居たという事は、クルーが近いのかもしれません。あれ、でもフライング・スコッツマン通ったな…。ていうか目的地がビクトリア駅ってことを考えるとやっぱ違うのかな…。ちなみに原作のゴードンも1939年にクルーの工場で再建されています。

 

 また、鉄道員イギリス国鉄仕様の制服を着ているところも注目すべきポイントの一つです。当時のイギリス国鉄の制服は実際にでした。

 

 

全体的な面白さ:☆☆☆

鉄道らしさ:☆☆☆

キャラ活用:☆☆

BGMの良さ:☆☆☆

アニメーション:☆☆☆

道徳教育面:☆☆☆

 

【最終的な感想】

 シンプルで、とても良いストーリーだった半面、あまり物語に関係の無いファンサービス的な言及の多さに、オタクが書いたものだなと、強く実感してしまいました。しかし、マイケル・ホワイトのような、TVシリーズと共に育ってきて、なおかつ設定を熟知している脚本家がアニバーサリー作品の脚本に選ばれたのは良い傾向です。イアン・マキューやマテル上層部は作品の需要をよく理解しているのだと思います。

予告編のおかげで台詞と小ネタ以外に驚きは少なく、こうなるだろうなという予測がついていましたが、健全で、相応しいエピソードでした。大部分はトーマスとダッチェスの友情でしたので、小ネタで気が散る事もありませんでした。マニア的には情報量があまりに多いので、どうやってレビューを書くか少し迷いました(笑)

 なんだか世界編の最終回みたいな展開ですが、今後も続くといいんだけどなぁ。まさか歌で18か国名前挙げておいて5か国しか冒険しないなんてこと、ないですよね…?

 

総合評価: 9/10

※この記事に添付したスクリーンショット著作権は全てマテル社に帰属します。

*1:この名前は原語版『ディーゼル10の逆襲』にて判明しました。

*2:5~10歳くらい?

*3:ちなみにこの時代ではまだバルジー来島してないですし、『TGD』も『MIR』も行われていないことになります

*4:また、nitpickになりますが、トーマス関連の玩具が最初に発売されたのは1965年のメカノでした。皇子が持っているトーマスの模型はオーダーメイドなのでしょうかね。

*5:前期では未登場でした