※この記事には2021年公開予定の映画『おいでよ!未来の発明ショー!』に関する重大なネタバレが含まれています。
閲覧は日本での公開後を強く推奨します。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S24 E16 『Kenji on the Rails Again』
脚本: ローラ・ボーモント&ポール・ラーソン
内容: 日本に帰ることになったケンジは、トーマスがついて来ない事を知り姿を消す。
テーマ: 自分だけでする事への物怖じ
【高評価点】
・ケンジのキャラクターの肉付けとヒロの役割。
【中立点】
・原作でも殆ど言及だけで物語に関わらなかったので知らなくても問題はないが、ソドー島で電気で走る車両は役に立たないと遠回しに言及されていること。
【低評価点】
・前半と後半でそれぞれ別の物語が展開出来たはず。
【このエピソードについて】
2話を跨いで引き続き「Marvelous Machinery」の後日談のケンジに纏わる物語です。
ここではあくまでも短編TVシリーズ(原語版)としての感想と評価になるのですが、映画の情報で監督と脚本家の事前情報を見た感じ、この話が含まれる可能性が大いにあるので、繰り返しになりますが閲覧は公開後を推奨します。本当にお願いします。
素晴らしい道徳と素晴らしいBGMを持つ、実に感動的なエピソードです。少なくとも一つの長編として観た場合並びに続きのCGシリーズが予定されていた場合は心からそう思えたかもしれません。まあ…熱心に私のブログを読んでる人はわかるでしょうけれど理由は追々。それはそれとして本題に入りましょう。
ケンジの前回の出番は、インパクトは絶大ながら、泥棒の移動手段で盗まれる以外にキャラクターについて語れる部分がほぼ白紙の状態で、一通り見た後の私は彼に何の期待も抱いていませんでした。
ありがたいことに、今回はそのキャラクターの面で詳細に描写されていました。ケンジがトップハム・ハット卿にお辞儀をするモーションがあるように、恐らく海外の人にとって一番認知しやすい日本人らしさとして礼儀正しくて謙虚な姿勢を見せますが、故郷の日本に一緒にいてくれる友達がいなくて一人旅をすることが怖く神経質になるという性格がテーマとなっていて物語を左右します。この部分は本っ当に共感できました。
友達がいなくても一人で行う勇気を焦点に当てたS18『ゲイターにあいたい』とは異なり、今回は仲間に手を貸してもらってもいいよという温かみのあるメッセージがありました。さすがに海外渡航となると難しいかもしれませんが。
恐らく多くの鉄道ファンが架線無しで走るケンジに驚いたと思われます。その理由は冒頭で描写されているように、島を自由に走れるようにスタフォードのような蓄電池を搭載したからです。あれ、この設定にシンパシーを感じる…
前半はケンジがトーマスと一緒に貨車を牽いてソドー島の中で冒険を繰り広げ、最速でいるよりも役に立つ方法がたくさんある事を学びます。これが噂の貨物新幹線ですかー(笑)
実際に計画されても使われることがなかったことと、車体に不釣り合いな編成はとても奇妙に見えますが、『World of Tomorrow』での彼の発言のとおり、今まで冒険は日本の、しかも架線がある場所しか走ることが許されなかった為、トーマスのように冒険したいと考えていた彼のことを思うと、さぞ嬉しいことだろうなと。ウルフステッド城でもループをぐるぐる回ってただけでしたし、高速で旅客しか運べないので普段通過するであろう貨物列車が停車する港やスクラップ置き場も新鮮な体験であるわけです。
まあ、ここに違和感がないといえば嘘になります。設定を除けばソドー島で初めての電車キャラクターになるわけですから、スタフォードと似た蓄電池を搭載したとしても、デイジーやヒューゴの類似点である気動車としての見せ場もなく急にアイデンティティを削ってしまうのはもったいない気もします。まあ、電気でも蓄電池でも走れるようになったのは新幹線としてではなくある意味ケンジとしてのアイデンティティになったわけですけどね。
それはともかく、私から言えるのは遠回しにソドー島では電気機関車と電車は役に立たないと言及されたように受け取れるのが残念ということです。絶好のチャンスであり、おそらくこれが最後の地図に忠実なソドー島が描かれたシリーズだと思うと、繰り返しになりますが唯一の電化区間であるピール・ゴッドレッド線の存在の示唆が欲しかったです。
と、思ったのですが、もしかして軽量客車をなくしたから走れなくなってしまったんですかね? あの後軽量客車どうなったんでしょうか。
後半からは、日本行きの船を前に居なくなってしまうケンジを探す物語に突入します。このエピソードで最も注目が集まるのはヒロが4年ぶりに登場し、役割を担ったことでしょう。(正直ボーモントとラーソンならやると確信してました)。実は第21シリーズから姿を見せていませんでした。最後の出演も大した出番ではありませんでしたしね。そして何気に原語版では初めてヒロの口から彼が日本から来たことが劇中で言及されました。
お察しの通り、ここで一段落つけるのはシリーズとしては大成功でした。ティッドマス機関庫から離れた=島のどこかで必ず会えるエドワードとヘンリーとは違って、ヒロはもうソドー島では会えなくなるのは寂しいですが、決して友情が途絶えるわけではありません。『TOTB』とS22『ずっといつまでも』を連想させられますし、この先を描けば後者のエピソードもより強固になりそうです。
2台揃ってBWBAシリーズの決め台詞である「All abord for a big adventure!」をトーマスに向かって言うのが好きです。
はい、ですが、ここで私から大きな批判があります。エピソードに関しては接点のない2つの物語を一つにくっつけたように感じました。これは私がS22『サイクロン・トーマス』『やまかじにきをつけろ』のレビューで批判したことと全く一緒です。本題に入るまでがとても退屈で、エンディングはとんでもなく急展開を迎えました。
船は元々2台が帰省するために予定していたと思われますが、特にヒロはパッと出てきてパッと去っていったので、帰省が決定するに至るまでの描写を別のエピソードで欲しかったです。
そして、これはエピソードに対する批判よりも、シリーズの存続に関するものなのですが、私が一番残念なのが、今期の『Thomas and the Royal Engine』で盛大なエンディングでBWBAシリーズに一段落をつけている事と、現行シリーズの休止並びに2D化の完全なリブートが決定した今、『HOTR』と今回のエピソードで、トーマスが本編で日本にくる日が訪れるかもしれない布石となる示唆が永久に回収されない可能性がある事です。
玩具かDay Out With Thomas(大井川鐵道)で想像を補うしか望めませんか。BWBAシリーズを続ける意思はあるのだろうと思った矢先にこれなので、ここまで大胆な布石を残すのならせめてCGシリーズで日本編をやってからリブートに切り替えてください。ほんとに…。
(リブートが充電期間であることと、再会を果たす激アツ展開を切に願っています)。
【チェックポイント】
物語には直接関係ありませんが、トム・ティッパーと思しき郵便屋と共に郵便屋のバンが再登場しました。実は今期では頻繁に登場しています。何なら最初の『Emily's Best Friend』から出ているので探してみると楽しいかもしれません。また、次回のエピソードではタイトルカードを飾っています。
CGモデルはケルスソープ・ロード駅と同様に、ジャム・フィルドではなくナイトロジェン・スタジオで作成された物のようで、それを郵便屋のバンとして使用しているため、原作と模型期とはデザインが大幅に異なっています。それでもお馴染みのロイヤルメールを彷彿とさせる「SODOR👑MAIL」のロゴを持って再登場したのは嬉しいです。
ルースから「パワーアップさせる」ことを聞いて、ケンジは自分が超最速の車両になって丘から宇宙まですっ飛んでいくことを空想します。
宮沢賢治物語を連想したのは私だけではないはず。もしかしたらそれが名前の由来? いや、そんなわけないか。
全体的な面白さ:☆
鉄道らしさ:☆
キャラ活用:☆☆
BGMの良さ:BEAUTIFUL
アニメーション:☆☆
道徳教育面:☆☆☆
【最終的な感想】
2つのエピソードとして分けた方がいいと感じたので、私はそれほど気に入りませんでしたが、とても共感しやすい道徳と、感傷的な場面からは感情移入もしやすく、エピソード自体は十分に楽しめます。日本での公開後にレビューを読んでほしいとは言いましたが、是非一度は目を通す事を推奨します。
余談ですが、『Sonny's Second Chance』『Thomas and the Inventor's Workshop』『The Inventor's Spectacular Bridge』『Kenji on the Rails Again』の4つのエピソードでちょうど「MM」のその後の話として一冊の絵本にできるんですよね。まあ、公式の意図はそうではなかったみたいですが。
総合評価: 5/10