2020年に公式の商標登録がされて2年が経ち、きかんしゃトーマスの2Dシリーズ『All Engines Go』(以下『AEG』)に登場するブレーキ車のブルーノについての詳細な情報が解禁となりました。
私の予想が当たりました。ブルーノはまさしく自閉症のキャラクターであることがマテルのプレスリリース、及びその他ニュースサイトで発表されました。(Yahoo!news), (Kidscreen), (Variety)など。
自閉スペクトラム症(ASD)というのは、対人関係や社会的なコミュニケーションに苦難を強く持続的に抱く先天性の発達障害の一つで、拘りが異常に強い、視線を合わせられない、表情が乏しい、一人遊びが多い、突然の予定変更が苦手、失敗に対する恐怖が強い、聴覚や嗅覚に敏感、特定のことだけに強い関心や興味を持つなどの特徴を持ち、生きていく上で生きづらさや支障が出る状況になります。
その特性は幅広く、該当するものも、しないものもあり、知的障害を伴うものもあれば、伴わないけど大人になってから苦労するケースもあります。
(私の説明より医療関係のHPを見る方が手っ取り早いです)。
ブルーノはまさにその特徴の一部を持ったキャラクターです。ブルーノは、楽しくてダジャレ好きなブレーキ車で、偶数などの細かいこだわり、予定や決まり事を好み、その地域の全ての線路がどこにつながっているのかをよく知っています。悲しい時はタイムスケジュールを考えるのが好きなようです。
2Dのコミカルな動きを活かし、くるくる回転するランタンや、バタバタとバタつかせる梯子で感情表現します。また、聴覚に敏感なので煙突から出る煙でイヤーマフを作って耳を塞ぐ動作もします。
ブレーキ車とは、重い貨物を運ぶ時などに力強く制御ために列車の最後尾に付ける、いわば緩急車、車掌車の事です。
ブレーキ車のキャラクターは従来のシリーズに、その名の通り「意地悪なブレーキ車」や、オリバーの相棒で正義感の強い「トード」、サムソンの相棒で鬼軍曹のような「ブラッドフォード」が居たので初めてではありませんが、ブルーノは自閉症の特徴を持ちながら仲間の機関車達をサポートするといったユニークな役割を持ち合わせています。
また、米国公式YouTubeチャンネルが先行公開している短いクリップでは、ゴードンたちと会話する時に、目線を合わせられず会話している、表情が乏しい、詳細を話すなどの特性が組み込まれているのがわかります。ちなみに、車体番号の「43」は自閉症が初めて確認された1943年に由来しているとのことです。
AEG第2シリーズでは最初から登場するようですが、第2話(通算第64話)『Shake, Rattle and Bruno (ブレーキしゃのブルーノ)』では、早くもディーゼルと一緒に主役を担っています。また、映画第2弾『大冒険! ルックアウトマウンテンとひみつのトンネル』にも登場するとのこと。
自閉症のトーマスキャラクターといえば、2017年に英米で公開された映画『Journey Beyond Sodor (とびだせ! 友情の大冒険)』において、実験用機関車のセオが先駆けて登場していますが、セオはあからさまな自閉症を持ったキャラではなく、自閉症をモチーフとし似ている資質を持ったキャラクターと発表されていました。セオは仲間の安静を願っている優しい性格だけでなく、会話に苦労していたり、周りから苦悩が理解され難く、失敗に対する恐怖が強く自分が役に立たないと諦めていて、成功体験を経て成長するキャラクターの一台でした。
また、同映画に登場した同じく実験機関車のレキシーは、原語版ではジェンダーフルイド(性自認が流動的に変わる性)の特徴を持つといったジェンダーマイノリティに関する取り組みも行われていましたね。吹替版では単に特徴的な喋り方をする女性口調の女性機関車だったけど…。
ブルーノは、モチーフではなく明らかに自閉症を持ったキャラクターとして描かれているようで、そういう意味では、トーマス史上初の自閉症キャラクターとして紹介されるのは理にかなっていると云えます。(セオのことも忘れないでいただければ)。
米国、英国版でブルーノ役を担当する声優も、実際に自閉症の子役が割り当てられています。米国ではチャック・スミス。英国では9歳のエリオット・ガルシアが担当。
インタビューではエリオットくんが次のように語っています。
「ブルーノ役に決まった時、夢かと思いました。でも夢じゃなかった! 本当に興奮したし幸せな気持ちになりました。というのも、僕は『Thomas & Friends』シリーズを観ているので、僕みたいな自閉症のキャラクターが登場することは嬉しく、ワクワクするからです」
「彼のイヤーマフに共感します。僕もブルーノと同じように色々なことを心配するたび、新しい戦略を考えなければならないことがあります」(出典)
ブルーノのお話とキャラクター開発には、マテル・テレビジョンが、自閉症啓発ネットワーク(ASAN)と、南カリフォルニアのイースターシールズなどの米国の慈善団体と連携しています。加えて自閉症の脚本家や、スポークスパーソンと協力のもと、多くの考えと注意を払って開発を行なったという経緯があります。
声優も脚本家も自閉症ということで徹底っぷりがすごいですね。これによって、より共感性を生み、愛すべきキャラクターになるかもしれません。
自閉症の脚本家といえば、AEG第1シリーズから参加しているダニエル・シェア=ストロム(Daniel Share-Strom)もブルーノの開発で相談役を務め、ブルーノに関するエピソードをいくつか書いているとのことです。
また、従来の第22シリーズから第24シリーズにかけて脚本に参加し、トーマスファンでありAEGでも脚本を担当しているマイケル・ホワイトは、2017年から英国で放送されている自閉症の子供をテーマにした未就学児向け番組『パブロ』*1の脚本家としても活動しています。私の予想では、もしかしたら、彼もブルーノに関する話を書いているかもしれませんね。
ブルーノはAEGの中でも比較的数少ない子供のキャラクターとして描かれ、大冒険クラブ(トーマスやディーゼルらちびっこ機関車達7台の総称)の一員として登場することが確定しています。要はAEGの8台目の主役級ということで、第2シリーズ以降はパーシー、ニア、ディーゼル、カナと同等レベルでほぼ全てのエピソードに登場しそうな予感がします。
大冒険クラブの仲間とも関係は良好のようで、例えばトーマスはルートや計画の助言をもらいにブルーノを頼りにしています。
ディーゼルとは兄と弟のような親しい関係で、パーシーとはダジャレ仲間。
ニアもルートを考えるのは好きだけど、景色を楽しむことを重点に置いているため、効率重視のブルーノとはよく喧嘩になるなど、今後のエピソードでさまざまな絡みや対立が楽しめそうです。
この記事を書いている私自身もアスペルガー症候群、すなわち知的障害を伴わない自閉症持ちで、ブルーノの性格と設定に既に親近感を抱いています。
自閉症持ちの人間が明るみになり、支援する活動が増えて来たものの、世間のイメージはまだネガティブで、自分は適応しようと努力しつつも、社会での生きづらさを常に感じています。特に学校では小・中・高問わず、障害者というだけでからかいの対象になってしまうのです。
個人的には、願わくは、この番組を親しんだ子供世代と親御さんを含み、自閉症に対する理解を深め、世間のイメージがポジティブに変わるように出来ていることを期待したいです。
未就学児向け番組など子供達の印象に残るものこそ、SDGsにもある男女平等や、マイノリティの人物像をポジティブに見せることはとても重要と、今現在の私は考えています。難しい問題ではありますが、特に該当する人は、大多数の人が目にする物の表現方法によって、実生活が左右される場合があります。現実と非現実の区別云々の話ではなく、印象による潜在的な認識どうこうの話です。これは多くの番組の問題に直結します。
実際にBWBA期*2では"働く女性の印象づけ"には成功しているものの、一部の最高の新キャラクター*3を除き、女性キャラクターの創造性が多くの男性キャラに比べて疎かで、既存キャラのジェニーさんを除いて、当時としては新たな要素であった女性機関士に目立った活躍が無く残念でした。
『セサミストリート』では、同じく自閉症の設定のあるジュリアも、ASANの協力のもとで開発されたキャラクターでしたが、後に番組が自閉症の"治療"を目指す別の組織と連携したため、自閉症への偏見を生み出すきっかけとなり協力が打ち切られています。
番組の制作側が必要とされている「趣旨」を理解していないとお粗末な結果を生み出すケースがあるように、マテルとネルバナの上層部には、AEGにおける自閉症の取り組みを丁寧に行なうことを願っています。従来で云うジェニーさんよろしく当たり前のようにいる女性指導者、AEGで常にいるモブ人間よろしく当たり前のようにいる身体障害者、ブルーノよろしく当たり前のように仲良しでいる自閉症のキャラクター、それが第一。
あと、SCPの日本語吹替版制作チームも可能なら放送前に積極的にアピールしてほしいです。多分来年の話になると思いますが。
こちらの記事でも触れましたが、米国、英国ではそろそろAEG第2シリーズの放送が解禁となるので、公式YouTubeの方でもトレイラーが公開されましたね。米国では9月12日に、英国では9月22日から放送開始です。実はまだ英国では第1シリーズの放送が完了していないんですよね…(苦笑)
日本語吹き替え版は2023年4月8日に初登場します。
この新シリーズでは、ブルーノやクレーンのテスのほか、従来の既存のキャラクターでは、ゴミ収集機関車のウィフ、南インド出身の機関車アシマ、港のディーゼル機関車ソルティー、トンネル掘削機のダーシー、ガントリークレーンのベレスフォードの再登場が玩具や雑誌等で確認できます。
エピソードとキャラクター一覧はこちらで記載していますので、参考にしてください。
さらに、プレスリリースにおいて、All Engines Goは第一報で発表された全104話(第1シリーズ、第2シリーズ)の他に、2025年にかけてシリーズを拡大する方針と語っており、新たに第3シリーズ、第4シリーズの制作を発表しました。まだまだ2D期は楽しめそうですね。
では。