※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
AEG S2 E52 『The Sights of Sodor』
監督: キャンベル・ブライアー
脚本: クレイグ・カーライル
内容: トップハム・ハット卿は地図が描かれた飾り版を使ったツアーを始めるが、機関車たちも乗客も乗り気ではなかった。
【このエピソードについて】
今回でAEG第2シリーズの最終回なのですが… ぶっちゃけめちゃくちゃ退屈で、空っぽで、前回と同じ脚本家とは思えません。まあ前期最終回で同じような構成の『ソドーとうのうた』を書いたクレイグ・カーライルらしいといえばらしいのですが。
島の全域を見渡せるルックアウトマウンテンに地図が描かれた飾り版を設置して、景色を楽しむツアーをトップハム・ハット卿が企画するところから始まります。しかし実際には頂上での時間を費やし、山を上り下りするだけで、客足は遠のいてしまうというもの。大人的には一回で速やかに済む方が楽で助かりますが、その場の楽しさを味わえなければなんの楽しさもないですよね。自撮りをするときに抱きかかえられている子どもたちの反応が全てを物語っています。
敢えて時事ネタと絡めるならば、経営には積極的でも運営目線とユーザー目線を一切考えていないイーロン・マスクの方針との共通点があり、『たのしいコースであそぼう』に似た、教訓的な要素が入ってるとも言えます。
最後には物語を締める、最終回にふさわしい歌と台詞が用意されていますが、『にじをおいかけて』と同じで、最後の場面をやりたくて、冒頭から中盤にかけてのことの経緯を投げているように見えてしまいました。というか、子ども機関車たちが初めから乗り気じゃない時点で最初から展開がわかりやすくなってしまうんですよ。
中盤は、まるで『Sameroo』の序盤です。乗り気じゃないトーマスとカナがそれぞれアニーとクララベルを牽いて山と駅を延々と4回連続で往復するだけで、さまざまな人間の自撮りを見られ、徐々に客が減っていく以外は特に台詞も進展も何もなく、しかもそれがトップハム・ハット卿が過ちに気づくまで展開されていて、多数のキャラクターを出しつつ、歌詞を考えているニアを最後まで描いた『ソドーとうのうた』より面白くないんです。あれも結構退屈ですよね。
風景を提案する以外はキャラクターも特に何も活かされていないように感じました。
近年コメディ調で描かれるようになってきた頃から危惧していて、時々シリーズを観ていて感じることでもあるんですが、今回のようにトップハム・ハット卿を"行動が早いだけの無能"で描かないでほしかったです。子ども機関車たちが柔軟な発想をするところを描きたかったのでしょうし、老体だからこそ出る(可能性のある)ツアーのアイディアなのでしょうけれど、上司としてあるいは経営者として柔軟な対応ができるトップハム・ハット卿を見て育ってきた身としては、考え方が極論で、あまりにも観光客の心を知らないような素振りに、観ていて悲しくなってきます。
トーマスたちが"新しいツアー"を披露する際に歌われる「The Sights of Sodor」は、前期最終回『ソドーとうのおと』の挿入歌「Song of Sodor」のアレンジになっています。前期では音に焦点を当てていたため、"Sodor sings like this!"や、"Your life sounds like this!"という歌詞がありましたが、本作はソドー島の景色を見てもらう事に重点を置いているので、様々な景色を見せながら、"Sodor looks like this!"と歌われています。聴覚の次は視覚と来ました。じゃあ次は何でしょうね。…味覚?
ルックアウトマウンテンから始まり、ブレンダムの港やウィフのリサイクル工場、ノランビービーチといったお馴染みの場所から、灯台、ロルフ城、クリスタルの洞窟、今期で登場したケルスソープ*1などのソドー島の名所とそこで働くキャラクターなどを一度に見ることができ、よりアップで見られるモブの人間の多様性も相まって画面はかなり華やかです。現実的な話をすれば、コストの恩恵を大いに感じられますね。
歌で切らずに、最後にトーマスとトップハム・ハット卿を見せて、夕暮れとニコニコした雲を背景にツアーへ出発する場面は、前期に比べてより最終回らしい演出で良い締め方だとは思いますが…。肝心の物語については特に何もなかったので言うことがありません。
ここで言う"新しいツアー"というのは、山を上り下りするだけの退屈なツアーをやめて、ただ元の生活に戻っただけに過ぎないんですよね。これからもその楽し景色と日常を観てほしいということなのかもしれませんが。
【チェックポイント】
アニーとクララベルが分かれてるのは何故なんでしょうね。
AEGはシリーズを通して現代的なソドー島が描かれているため、とうとうスマホで自撮りをする人々を『きかんしゃトーマス』という作品で散見する時代になりました。今回はいろんなモブ人間がアップで映るので、改めて背景がいかに多様性で溢れているかを確認することができます。
割と最初の頃から車椅子で移動する人も出ているんですよね。
最後に推しが出てきたのが嬉しかったり。『What's in a Name?』から登場したニワトリのヘネロペは相棒としてウィフのところに住み着いているようです。
全体的な面白さ:AWFLY BORING
遊び心:☆
キャラクター:☆
BGMの良さ:☆☆☆
アニメーション:☆
独創性:☆
道徳:☆☆
【最終的な感想】
シリーズを締めるなんとひどい方法でしょうか。演出には確かに力が入っていたけれど、物語は前期以上に退屈で空虚でした。
総合評価: 1/10
【AEG第2シリーズ総合評価一覧】
というわけで長かったAEG第2シリーズが、もとい、最初にゴーサインが出た104話全てのエピソードのレビューが完了しました。
現在も私は中立的な立場からこのシリーズを視聴している身です。過度に肩入れするつもりはないし、かといって見限るつもりもありません。側からどんなに滑稽に見えようとも、私はフランチャイズ全体が好きな以上、何か観たり書いたり、教育的な側面からも考えたりしていないと全く落ち着かないんですよね。
欲を言えば、公開するからには日本語吹替版もノーカットで観たい。
さて、AEG第2シリーズの印象を話しましょう。とりわけ最終回は弱く、全体の総合評価は前期よりも低いですが、印象的にはAEG第1シリーズよりもずっと面白かったです。キャラクターの多さも関係するかもしれませんが、大体は脚本の質です。
脚本といえば、未だ当たり障りがなかったり、同じような展開をしていたり、エピソード全体がひどく混乱していたり、特に中身がなくてアクションで誤魔化しているだけのエピソードも多く存在しています。
しかし、『Kana Recharges』など特定の人の感情に関するものや、『Blue Engine Blues』や『Something Broken, Someone Blue』と言ったどの年齢にも関係するだけでなく情緒に訴えかけてくるようなエピソードがあったのがすごく印象深いです。
『For All the Marble』や『The Super Axle』では原作に敬意を払っていることが窺える要素が散見されたり、斬新な驚きもありました。
それから自閉症のブルーノ関連、これはどれも素晴らしかったです。当事者の私が嬉しくなるほどで、慎重かつ丁寧に描いてくださった自閉症当事者のダニエル・シェアストロム、モニーク・モロウを始めとしたネルバナの脚本家や、提携したASANとイースターシールズといった慈善団体、それからスポークスパーソンの方々に深く敬意を表します。昔からお金にしか興味のないマテル単体だったらここまでやらなかったことでしょう。今期ではブルーノは扱うには難しいとされ、まだ脇役含めて52話中9回と出番は少なめでしたが、AEG第3シリーズ以降から出番が増えるということで楽しみです。
キャラクター面では、前期で空っぽすぎたカナに個性が追加されたのが素晴らしいです。前期の時点では、映画を除けば、ただ速いだけで、主人公格の枠とはいえすぐに背景に追いやられるのだろうと思っていただけに嬉しいですね。カーリーの出番も増えましたが、カナほど何か追加されたわけでもなく、現時点ではアクション除けば大して面白いキャラクターではない印象です。
サブキャラクターも増えてきて、特にアシマ、ウィフ、ソルティー、トビーなどがオリジナルシリーズよりも活躍の幅が増えたのが嬉しかったです。テレンスとベレスフォードは個人的には微妙でしたが、それは画面に映る時間がまだ少ないからでしょう。新キャラクターのテスは本当にいますぐ成長させるべきだと思います。
もう一つキャラクターの不満があるとすれば、それはトップハム・ハット卿です。前期でも予定外の事態に慌てふためくだけの登場の仕方はたくさん見てきましたが、たとえコメディ要素が強まったとしても、『Not-So-Secret Mission』、『Details? What Details?』、そして最終話よろしく、いい加減バカで描くのはやめていただきたいです。時には大人も自分も間違いを犯して反省することは可能ですが、これまで他のAEGの大人キャラクターでやってきたことと同じように、特にトップハム・ハット卿にはオリジナルシリーズみたいに、子どもたちを正しく導く立場としても活躍してほしいんですよ。フランチャイズ全体で誤解されがちな彼は決して独裁者ではないんです。
ジェームス、エミリー、ケンジ、リフとジフの出番が徐々に増えてきたのは良い傾向です。この調子で続けてください。
ともあれAEG第3シリーズを心待ちにしています。期待はしない程度で。ぶっちゃけこの終わり方では納得できないです。どうせならもっと極限までネルバナの力を見せてほしい。
今思えば、私はAEG第1シリーズの評価に甘すぎたかもしれません。というより、基準を浅くしすぎました。これはシリーズ中の良い部分をフォーカスするために、特にそれが貴重になりがちな他のシリーズ*2でも、わざと行っている事なんですけどね。
ただ、評価を厳しくするのではなく、全体的に見て、これは考えなしに過大評価してしまったなと思ったいくつかのエピソードのレビューは、あとで手直しするつもりです。特に『ドラゴンときしだん』とかね。
1 Fast Friends とてもはやいふたり 7/10
2 Percy Disappears パーシーがきえた! 6/10
3 Ashima's Amazing Arrival アシマがソドーとうにやってきた 3/10
4 Tri-and-a-Half-a Lon トライハーフロン 9/10
5 Carly's Magnificent Magnet カーリーのすごいマグネット 7/10
6 New Mail Engine in Town パーシー つぎのしごとをさがす 6/10
7 Hot Air Percy ぷかぷかパーシー -2/10
8 Carly's Screechy Squeak ギーギーモンスター カーリー 4/10
9 Shake, Rattle and Bruno ブレーキしゃのブルーノ 9/10
10 Blackout! デンキがない! 4/10
11 Brand New Track あたらしいせんろ 3/10
12 Stink Monster ニオイモンスター 6/10
13 Christmas Mountain 9/10
14 Whiteout! 7/10
15 Good as New まるで、しんぴんみたい 7/10
16 More Than a Pretty Engine キレイなだけじゃない 9/10
17 Snowplow Struttin' ウキウキゆきかき -10/10
18 Thomas in Charge トーマスがまとめやく 4/10
19 Kana Recharges 9/10
20 The Big Skunk Funk 3/10
21 Off the Rails 2/10
22 Diesel's Dilemma 9/10
23 Bring It on Beresford 0/10
24 What's in a Name? 8/10
25 Sheep Shenanigans 6/10
26 Tunnel Trouble 8/10
27 The Case of the Missing Crane 6/10
28 Not-So-Secret Mission 6/10
29 A Very Percy Valentine's Day 6/10
30 Valentine's Hearts 2/10
31 Speedster Sandy 7/10
32 For All Marble 8/10
33 Salty's Sea Shanty 9/10
34 Retrieve the Kraken 7/10
35 Rocket's Fall 5/10
36 Details? What Details? 4/10
37 Blue Engine Blues 9/10
38 Hay Fort Frenzy 2/10
39 Percy in the Middle 8/10
40 Bad Luck Boxcar 4/10
41 Not So Easy-Greasy 3/10
42 It All Adds Up 2/10
43 Bruno's Map Mishap 8/10
44 Seeking a Safer Sodor 6/10
45 A Cranky Goodbye 7/10
46 Sameroo -3/10
47 Thomas for a Day 8/10
48 The Super Axle 8/10
49 The Waiting Game 7/10
50 All Wheels on Track 4/10
51 Something Broken, Someone Blue 9/10
52 The Sights of Sodor 1/10
290/520
*マイナス点は「0点」とする。