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喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

Thomas & Friends: All Engines Go 第2シリーズ第9話レビュー

n※この記事にはネタバレが含まれています。

また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。

 

 

 

AEG S2 E09 『Shake, Rattle and Bruno』『ブレーキしゃのブルーノ』

監督: キャンベル・ブライアー

脚本: ダニエル・シェア=ストロム

内容: ブルーノは重い荷物を運ぶルートを提案するがディーゼルは耳を傾けず…

 

【このエピソードについて】

 自閉スペクトラム症(ASD)のブレーキ車ブルーノの初主役回の話をする時が来ました! これは第2話『パーシーが消えた!』と一緒に、話題性を広めるため米国、英国、カナダ、日本などで先行放送されました。発表を聞いて間もなくブルーノの記事を投稿した時、最も楽しみにしていたエピソードでした。

しかし、同時に不安な気持ちもありました。国連と提携した第22シリーズでは、SDGsの取り組みをはじめ国連からの指導があったにもかかわらず、脚本家チームが理解していなかったためか、ニアとレベッカを除いて、ただ出すだけ出された数々の骨抜きの女性キャラクターと、中身のない世界編の物語が点在していたからです。

 さて、脚本家と制作会社が一新したAEGの脚本チーム、あるいはブルーノ制作チームは、彼をどのように描いたのでしょうか?

 

©︎Mattel

 正直に言いましょう。ブルーノは、トードとブラッドフォードに次ぐ愛すべき最高のキャラクターかもしれません。自閉症の特性を持つというだけでも貴重ですが、私にとって彼はAEGの中でも、ブランド全体の中でも絶対的にお気に入りのキャラクターの一台になりました。性格も言動も動きもステレオタイプではなく共感できます。

もしブルーノが模型期から出ていたらこれほどお気に入りにはならなかったことでしょう。はしごをパタパタさせるのも、ストレスで左右に揺れるのも、煙突からイヤーマフを出してブレーキの音をストレスから守る仕草も可愛らしいです。

 何より、ブルーノ自身も、彼に対する周りの仲間たちも、図々しくなくポジティブで優しい気遣いがあることが好きですね。確かに現実では障害者に対する単純な嫌悪感や差別で溢れていますが、その多くは実情を理解しないか目を瞑っていることが原因の一つです。もちろん介助疲れもあることでしょう。だからと言って同じ人間で、ただでさえ生きづらいのに、人間以下の扱いをする理由にはならないですよね。私の場合、健常者の苦労を考えるたび消えたくなって鬱など多くの症状が併発しており悪循環に見舞われたりします。

ともかく要点を言うと、実情を知らせるのはそれらを未然に防ぐためでもあります。未就学児向け番組で自閉症の特徴をリアルかつポジティブに、そして周りが友情で気遣う様子を描くことで、当事者の共感と感覚的な救いを得るだけでなく、特に子どもの視聴者は自閉症がどういうもので何に対してストレスを感じるのか、そしてもし周りに自閉症の友人や知り合いがいた時どう協力すればいいかをお手本を通して感覚的に学習することができます。将来、ふとした瞬間に役に立つことができるかもしれません。

 

©︎Mattel

 内容について話しましょう。力持ちで自信過剰なディーゼルが、ゆっくり話すブルーノの話を最後まで聞かずに失敗するという非常にシンプルな話ですが、そこに自閉症の特性とブレーキ車の特徴を使い、お互いのせっかちな振る舞いとゆっくりな振る舞いを理解をしあい、いかにして助け合って窮地を脱するかを焦点に当てたユニークな物語で構成されています。

 悲しい時にダジャレを言って元気付けようとしたり時刻表を考えたりと、相手に合わせることに不器用だったり、興味のあること以外にどう考えていいかわからないなどの様子は、必ずしもブルーノと同じ趣味趣向でなくても、共感できた当事者もいるのではないでしょうか。

 ただ時間帯がアニメーションからはわかりにくいですね。ブルーノの云う9時が夜だとして、谷で閉じ込められている時にウィフのリサイクル工場への道が工事中だとしても、カーリーとサンディーはディーゼルたちが臨時列車を走らせる前から鬼ごっこで遊んでいたし、言及には無理がある気がします。まあ本筋にはあまり関係ないですけどね。

 原語版のサブタイトルの由来は、ビッグ・ジョー・ターナーの1954年の楽曲「Shake, Rattle and Roll」でしょうね。ブルーノが動作する時のように振って音を立てる、サブタイトルは単語ままの意味なのでしょうけれど、元ネタ自体は子どもに適さないので調べる際はご注意を。そもそも2017年に発売されたトーマスのレコード「Steam Rattle & Roll」や、もっと遡ればロックンロールという言葉の由来にも同じこと言えますけどね。

 

©︎Mattel

 解決方法はとても漫画的ですが、AEGではそれでいいと思います。力強く速く走ろうとする動きとブレーキ車としての踏ん張りで振動を起こして解決する様は面白いですね。最も、さらに石が降ってきそうな気もしますけど

ディーゼルとブルーノの兄と弟のような関係も温かくて大好きです。 

 

©︎Mattel

 挿入歌「You Can't Stop Me」はキリが良くブレーキが掛かる、独特でブレーキ車らしい歌です。ブルーノが頻繁に言及する「Give me a brake」は、「ちょっと休ませて」や、言い方によっては「勘弁して」という意味を持ちます。この"brake"と、ブレーキ車の"brake"を掛けたダジャレになっています。冒頭のダジャレもこれですね。

吹替版はダジャレを適切に訳すことが難しいため、「キキーっとブレーキ」と、歌詞全体は当たり障りのないものになったのが少し残念です。

挿入歌はなくても話はまとまりますが、その後どのように理解を深めたか、どのようにしてせっかちなディーゼルとゆっくりなブルーノが配達するために協力しあったのかをあえて説明しないことでテンポの良さに貢献しているという点では利点がありますね。

 

 

【チェックポイント】

©︎Mattel

 ブルーノの自閉症の特徴で一番好きなのは、相手と話をするとき一瞬だけ合わせるも、すぐに視線を合わせられなくなって会話を続ける描写です。

私も家族や恋人以外の人に対して、無意識にそう喋っていることがあるのでかなり共感しやすかったです。健常者の方からよく誤解されるのですが、別に相手の顔が嫌いとか恥ずかしいとかではないんです。最近は相手の額か口を見て話すように心がけているのですが、なかなか上手くいってないですね…(苦笑)

 そうそう、US版はチャック・スミス、UK版はエリオット・ガルシアと自閉症当事者の子役がブルーノを演じているのですが、両者とも舌足らずなところも含めて可愛らしく、ブルーノに非常にマッチしていて良かったです。

 

 

全体的な面白さ:☆☆

遊び心:☆☆☆

キャラクター:☆☆☆

BGMの良さ:☆☆

アニメーション:☆☆

独創性:☆☆☆

道徳:☆☆☆

 

【最終的な感想】

 残念ながら、米国のトーマスランドと同トーマスタウンをめぐる2022年1月の訴訟で、マテル社の担当*1は不誠実な対応、大量の不正行為、契約に対する虚偽などの問題を始め、共同開発企業の推進努力と提案を拒否した上で「自閉症コミュニティと関連づけることはマテル社とトーマスブランドにとって最善の利益にならない」と述べたという、実に腹立たしい事実が判明しました。

これは、ブルーノが制作されるよりも数年前に起こった出来事(おそらく2015~2017年頃)であり、訴訟の内容とブルーノの制作自体は無関係に等しいです。2020年に制作をネルバナに提案したということは社内に変化があった、あるいは十中八九別の担当によるものでしょうか。いずれにせよ提案自体は訴訟よりは前かつメディアに取り上げられた頃なので上層部にとっては金銭が目的かもしれません。当然ながら脚本家のダニエルはこの事実を知らなかったと話しています。知っていても言えないとも。

ただ、わかっているのは本人も言及している通り、自閉症当事者のダニエルを始めとしたブルーノ制作チームが実直に取り組み、ブルーノを自閉症ステレオタイプではなく本物らしく、楽しいものに、意味のある物語とキャスティングに信じられないほど情熱を注いできたということです。(インタビューも参照のこと)。

第1シリーズ前半までのプロデューサーでブルーノ制作初期、および長編第3作にも携わったリック・サヴァルも、Twitterにて100%宣伝行為ではないことを認めています。

上述のマテル社の行いは悲しいし許されるものではありませんが*2、だからと言ってブルーノを憎む理由と直結させるのは公平ではないと考えています。よって、上層部の目論見とは裏腹にありのままブルーノを表現したチームの事は賞賛に値します

 

 この物語とブルーノの心理的描写はうまくできていて、欠点を探す事自体が難しいです。ブルーノには共感する部分も多いし、ただ出すだけ出したS22の新キャラと違って単に特徴があるというだけではなく、不快感がありません。むしろセオと同じレベルで愛おしいくらいです。ダニエルの他にもモニーク・モロウなど当事者の脚本家が複数人携わっており、これから彼をどう活かしていくのか非常に楽しみになりました。

 あと吹替版担当へ。脚本家の苗字は、シェアストーム(Share-Storm)じゃなく、正しくはシェアストロム(Share-Strom)です。最初は私も読み間違えましたが、訂正したほうがいいと思います。

 

総合評価: 9/10

 

※この記事に添付したスクリーンショット著作権は全てMattel, Inc.に帰属します。

*1:トーマスランドの委任代理人ステイシー・マラノ氏と、シニア・ヴァイスプレジデントのシド・マサー氏

*2:正直、昔からマテルの上層部に対し全くもって信用していないので驚きではないですが、それでも腹立たしい出来事。