※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
AEG S2 E07 『Hot Air Percy』『ぷかぷかパーシー』
監督: キャンベル・ブライアー
脚本: エイドレア・ウォルデン
内容: 配達中の気球が防水シートから飛び出し、パーシーとともに風によって空高く飛ばされてしまう。
【このエピソードについて】
ああ、これはまた混乱する… いいえ、混乱しているエピソードですね。突っ込みたい部分が多すぎるので、順を追って話していきましょう。
トーマスとパーシーが運ぶ「balloon」とは、熱気球のことです。S15『おおきなふうせん』とはまず異なります。気球といえば、オリジナルにはS6『ジェームスとあかいききゅう』や、S12『Duncan and the Hot Air Balloon』(日本未放送)などの回がありました。前者はジェームスが熱気球に仕事を奪われると心配するも、熱気球を不意に助けた後その心配も杞憂に過ぎなかったことを学ぶお話。後者もその教訓はほぼ同じで、ジェームスをダンカンに、行楽客をパーシバル家の双子に変えただけです。あとは乱暴なダンカンが気球をダメにするだけ。
この回は、その中のどれとも当てはまりません。テーマとなっているのは「気になっても(到着するまで)我慢する」ことです。AEGの中で既にトーマスとパーシーは、『はたをおいかけろ』と、『かわくまでまてない』で忍耐について学んでいるはずなのですが、段階を踏む前に行動してはいけないのと、自分の車体を乾かすまで待つのとはまた少し違うかも。
状況として最も近い言葉を四文字で表すなら「ネタバレ」ですかね。発表前のゲーム情報をリークするようなものです。まあこれは単なる比喩で、犯罪的なことをしているという話ではありません。(苦笑)
トーマスとパーシーが、気球の姿見たさにわざと危ない線路を通って、事故に見せかけ袋から気球を覗こうとする様子は、楽しみを待つことができない子どもの心理まんまで少し可愛らしいです。S14『トーマスとコルクのせん』にちょっぴり似ているかもしれないですね。
それはいいんです。最終的に空を飛んだ後、開放するよりも地上から気球を眺める方がいいと学ぶので、その点では、まとまりがあります。
じゃあ何が混乱しているかって? 気球がシートの外に出て、ハーネスワイヤーが絡み付いたパーシーが空高く舞い上がるところからが問題です。
蒸気機関車が気球で空高く舞い上がるのは… 既にAEGのカートゥーン世界の機関車たちがいくつかの風船だけで宙に浮くほど軽いことが描写されているので、ひとまず置いといて。
歌が始まった時点で別のエピソードを見ているかのように感じさせられるんです。挿入歌「This Was Unexpected」は、「こんなに楽しいことが起こるなんて予想外」、「新しい視点(空を飛ぶこと)を受け入れることで楽しくなる」といったニュアンスの歌詞を含むポップソングです。
コーラスや歌詞はいいけど、元々冒頭ではパーシーが空や気球に偏見を持っている展開ではなかったので、歌の内容はどこからともなく突然現れたような感じがしました。「我慢」と結びつけて展開をそっちに持っていくなら、最初にハロルドを出して空中での移動に疑問を持たせるか、空を飛びたいと思わせるとか工夫してください。
しかも、"特別な気球"はパーシー救出後に飛んでいってしまいますが、「Neato! (かっこいい!)」と、はしゃぐバルストロードを除いて、誰もそのことに触れません。冒頭ではゴードンが、途中で飛ばないように貨車のシートを開くなと厳重に注意したのに? 最終的にはゴードン曰くちゃんと運んだことになっていて、トーマスとパーシーもわざと袋を開けようとしたことに触れないし、頭の中がクエスチョンマークで溢れて今にもこぼれ落ちそうです。トーマスがバスケットも運んだということは、この特別な気球に乗るはずだった人がいたかもしれないのに。こんな放ったらかしのオチでいいの? 「気球よりお前が無事で良かった」みたいな台詞の一言や二言あったら、最後のエモさに虚無感がまとわりつくこともなかったんじゃ。
この回でガントリークレーンのベレスフォードもAEGに初出演を果たしますが、正直に言って、彼の葛藤を描くなら、それこそ冒頭から出演していた方がエモい場面になったのではないかと思います。彼が抱く心配は今この物語となんの関係もないからです。あと、なぜUS版の彼の声はキーが不自然に下げられているのでしょうか。
【チェックポイント】
パーシーとハロルドの空中対面を見られるのはAEGだけ。
正直、何らかの天変地異によってオリジナルの線路至上主義のパーシーがいざ空に浮かんだとして、徐々にイキがって同じ反応を示しそうな気がしないでもない。
ガントリークレーンのベレスフォードがAEGに出てくるとは夢にも思いませんでした。確かに機関車にフックを引っ掛けて吊り上げるのはカートゥーンに適しています。だって彼、もともとメインランドの運河にいたはずじゃないですか。なんでしれっとソドー島のクレーンに、しかも線路があればどこでも走れて専用の職場がないキャラクターになっているんですか。訳がわからないよ。これじゃあ背が高いバージョンのロッキーじゃん。
ベレスフォードがトーマス以外の友達を作るという点ではエモいです。これがCG期だったらどんなに良かったかァ!!!!!!!!!!!
性格もだいぶ変わっています。門番を気取る必要がないので寂しがり屋のかまってちゃんではなく、通常は大きな仕事に自信がないけど仲間を積極的に助けてくれるフレンドリーなおじさんで描かれています。それはそれで可愛いけどなんか複雑!!!!!!!!!!!(厄介オタク)
声優はUS版がカナダ人のダン・シャメロイ、UK版が英国人のマット・コールズ。カリブ海地域(ジャマイカ)訛りが消えたため「ホワイトウォッシュだ」と怒りを訴えるファンもいますが、そもそもベレスフォード自体が英国のクレーンがモデルになっているので、ケニア用に造られた機関車であるニアと違って、そのアイデンティティが謎なんですよね。移民イメージだったのかなあ。
全体的な面白さ:☆
遊び心:☆☆☆
キャラクター:☆☆
BGMの良さ:☆☆☆
アニメーション:☆☆☆
独創性:☆☆
道徳: NEGLECTED
【最終的な感想】
ユニークだけど、色々と詰め込みすぎて、気球で空を舞ったパーシーも物語の着地点が見えなかったようです。せっかくの2D期のベレスフォードのデビュー作なのに、ほったらかしの道徳と、混雑したテーマに虚しさがつきまとい、プロット自体が無いように感じられます。
ただ単に高所恐怖症なパーシーを宙に浮かせるだけの楽しいお話の予定だったのかもしれませんが、もし正しく道徳が伝えられれば、楽しい話と同時に、リークをするのがどれだけ愚かなことかという話にもできたはず。前提を無視して中途半端な作りにしたがために物語はかなりひどく見えます。
総合評価: -2/10