※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S19 E14 『Slow Stephen』『のろのろスティーブン』
脚本: ヘレン・フォラル
内容: 速度の遅いスティーブンは吊り橋から聞こえる異音に気づきゴードンを救う。
【高評価点】
・スティーブンの魅力を最大限に活かしている。
・吊り橋の壊れる位置と速度でそれに気付けるのを含めたストーリー進行。
・手に汗握る葛藤。
【低評価点】
無し
【このエピソードについて】
明けましておめでとうございます。今年もぜるけんを何卒よろしくお願い致します。75周年記念のS24レビューが一通り終わった今、引き続き70周年記念のS19レビューを再開しようと思います。日Netflixでも配信が始まりましたしちょうどいいでしょう*1。2D期は後でまとめて行う予定なので気が楽ですね。
ここから一旦「Start Your Engines」収録分のレビューに突入します。放送当時に感じたことを中心的に最近の見解を交えて述べていきます。
私はよく新参者が頭の堅い古参にアドバイスを送るエピソードを称賛していますが、それは年寄りが若者に自分の凄さを見せたり教訓を与えるのが嫌いという意味では決してありません。寧ろ大好物です。さて、自分語りはこれくらいにして本題に入りましょう。
ヘレン・フォラルによる別の素晴らしいエピソードです。まあ彼女の作品はどれも素晴らしいですけどね。『トードとクジラ』はクジラを救うための最高に暖かい回で、『トーマスとあかちゃん』は赤ちゃんとそのお母さんを休ませる最高に優しい回。そして今回はスティーブンの葛藤を緊張感のある方法で描いています。
この回で焦点に当てているものはスティーブンに対するゴードンの態度です。ええ、ゴードンには横柄な態度以上の素敵な性格がありますが、彼がスティーブンに対する感情は本線では特に遅すぎて邪魔という認識から一貫して見下しています。『KOTR』中盤とS17『アフタヌーンティーきゅうこう』からの継続性と言えるでしょう。この回は彼の成長につながる一歩となります。
同時に、スティーブンの魅力を最大限に活かした作品と言っても過言ではないでしょう。クライマックスでの葛藤は手に汗握るものでした。的確かつ素早い判断でトーマスの列車に線路を塞いでもらい、彼よりも古くて小さくて軽いスティーブンが勇気を出してゴードンの急行列車に危険を知らせて大事故を防ぎました。その状況は直後のゴードンの台詞「お前は、俺とお客さんを助けるために…」で妙実に表していました。BGMも凄かったですね。同じ旋律の繰り返しですがだんだん速くすることで緊迫感が増していきます。
スティーブンは年配で遅いだけでなく、他の機関車に比べて部品が簡素で小さくて(この時点では)最も軽い蒸気機関車です。具体的な数値を出すとするなら、彼の総重量はわずか4.5トン。同じく木のボディを持つトビーは27.5トンで、全体的に鉄のトーマスは53トンです。そしてゴードンは…、もう想像つくでしょう?
事故の規模は結果的に小さいかもしれませんが、あの場で誰かが防がなければゴードンの列車は重さに耐えきれずに止まる間も無く客車とともに確実に谷底へ転落していたでしょう。
以上のことから、私はこの物語でスティーブンが活躍したことに説得力があると感じています。レールにつっかえたのも、有名な観光列車もポイントの一つです。
流石に作家が機関車の詳細な数値の性能までは把握していないだろうとは思います。しかし古い仲間にしろ新しい仲間にせよ性格から用途まで完全に理解して物語を書かれてるように見えるのが、私がファラルを尊敬する所以の一つです。スティーブンを若々しく描くのが本当にお上手です。とにかく今期のフォラル執筆回はどれも完璧でした。
スティーブンが遅くても役に立つ事と、ゴードンを救った勇気はどのように関係するか、最初に観た時はよくわかっていませんでした。が、見返してみると、すごく的確に描かれていて驚いたのをよく覚えています。
それは橋を通過する場面に全てがあります。スティーブンは吊り橋から鳴る異音に気づきましたが、自分より速い機関車に尋ねても彼らのピストンの音しか聞こえないと話しています。遅くて軽いことで他のことにも集中して気付ける為遅くても役に立つことを証明したのです。
橋の部品が緩んだのが片側だけということもあり、2回目に通過した時はその反対側*2で、異音に気がつきません。プロットの構成に脱帽です。
橋の一部が崩落する場面も迫力があり、背景の綺麗な紅葉と共に臨場感のある素晴らしいアニメーションでした。不穏なBGMも相まって恐ろさが伝わります。
新しいと思っていたソドー吊橋もついに老朽化か…(?)
今にも崩れ落ちそうな吊り橋を渡りきったスティーブンも、赤旗を大きく振ってゴードンに危険を知らせた機関士たちの勇敢さも称賛に値します。 勇気に痺れました。
【チェックポイント】
スティーブンの速度は過度に遅すぎず30〜40キロ前後で走っていたように見えます。
橋を修理するシーンはかなり拘っていたように見え、ごちゃごちゃした景観が好きです。溶接に使う道具もバッチリ。
割とどうでもいいですが、冒頭のお城のシーンでスティーブンの背後にいるのは、ミリーではなく、ウルフステッド城の青い客車に繋がれたトーマスだったりします(笑)
全体的な面白さ:☆☆☆
鉄道らしさ:☆☆☆
リアリズム:PERFECT
キャラ活用:☆☆☆
BGMの良さ:BRILLIANT
アニメーション:AMAZING
道徳:☆☆☆
【最終的な感想】
キャラクターの表現、声優、プロット構成、音楽、そしてアニメーションのどれもが素晴らしい名作です。スティーブン及びロケット号をますます好きになりました。
素敵な物語を書いたヘレン・フォラルと、それをカッコよく表現したアーク・プロダクションの面々に感謝します。
総合評価: 10/10