※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。2016年に書いた感想のメモを書き起こしたものです。
S20 E12 『Three Steam Engines Gruff』『おそろしいようかい』
脚本: アンドリュー・ブレナー
内容: トーマス、パーシー、トビーの3台は、水車小屋の橋の下から響く不気味な唸り声に脅える。
【高評価点】
・クライマックスのアニメーション、音楽、演出。
・トレバーのフライホイールの活用。
【中立点】
・話の導線と伏線の回収は見事だが、音に怯えさせるのではなく、壊れた柵を発見したトーマスに気づかせるか、牛に慣れたトビーが気づいても機能しただろう。
・トーマスは『ゆうれいきかんしゃ』のような性格を持っているが、全体を通して当たり障りがなくニュートラルである。
【低評価点】
・パーシーとトビーの性格が臆病に戻った上に露骨にバカに描いている。
【このエピソードについて】
第20シリーズが日本で放送された時に、エンドカードにマッコール農場でトーマスを見送るトレバーの場面が挿入されていたことを覚えていますか。このエピソードが番組表で支線の話だと分かった時、絶対ここに出てくるだろうと確信しました。第13シリーズのオープニングから登場しているにもかかわらず喋る気配のないトレバーが、そろそろ喋るのではないか。
でも、プロットからは別の意味で嫌な予感はしていました。
そして、良くも悪くも的中しました。前回のレビューでは、キャラクターが適切に描かれたことに歓喜していたのに、今回、私はとても落胆しています。
おかしいですね。トビーといえば、同じ脚本家によって今期の『トビーとフィリップ』で彼の性格が適切に描かれていたのに、今回では唐突に再びあの臆病で心配性な性格に戻っているんです。トーマスだけでなく駅の男性に笑われるくらい。
今期だけでなく、S19『さよならトビー?』とか、『デンとダートはいいコンビ』とか、トビーの扱いめちゃめちゃ良かったじゃないですか。古い機関車にもかかわらずちょっぴり頑固で、賢明で、貨車の扱いにも長けている。その要素がここまでの3回に渡って描かれていました。このまま機能するだろうに、なんで?
そして第2シリーズ以来最高の性格で描かれた第19シリーズのパーシーもどこへやら。彼も再び臆病な性格で描かれるところから始まりました。第18シリーズで成長を果たした、せっかくのキャラクター開発が台無しです。
ブレナーは『勇者とソドー島の怪物』の脚本を担当したのを忘れてしまったのでしょうか。それとも自分の納得いくような内容ではなかったと? それでもなぜキャラクターを原作にも初期にもない最悪の方向へ退化させてしまうのですか。
最も惜しいのは、これが久しぶりのファークァーの支線トリオを主軸とした話というところです。無論、これ自体はすごく嬉しいことなんですけどね!!
私はこの3台を主役にした話を常に切望していました。でもそれは完璧な状態で揃ってこそです。3台とも適切に描かれるようになってきた第19シリーズで、それが期待できるほどになっていたんです。
この時点で水車小屋やマッコール農場などTVオリジナルのスポットに加えて、ドライオー駅、ファークァー駅など主要な場所が出揃った今、生意気なトーマス、正論でからかうパーシー、落ち着いていて賢いトビー、この3台の優れた相互作用が織りなす支線の日常を求めていました。
しかし、私の期待通りには行きませんでした。"願い事に気をつけろ"ってこういうことですかね。パーシーは『勇者とソドー島の怪物』の成長を完全に忘れられ、トビーも滑稽な小型機関車で描かれ、トーマスは仲間をからかうなど生意気さは残しつつも物語を通してニュートラルです。どこからが絵コンテの影響があるかはわかりませんが、良くも悪くも初期作品のような雰囲気で展開させるアンドリュー・ブレナーがこれほど(お気に入りのトビーを含む)3台を下手に描いたことが残念です。
物語の元ネタは、ノルウェーの作家ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーの『三びきのやぎのがらがらどん』(英: Three Billy Goats Gruff)です。大きさの異なる3匹のヤギが、橋の下で威嚇するトロールに見逃してもらいながら渡り、一番大きな3匹目がトロールを退治するというもの。彼らが劇中で言及したおとぎ話はこの民話を指します。
思うに、民話のパロディを混ぜたとしても、彼らを落ち着きのない臆病に設定せずとも、元々の個性で十分に機能したはずです。3番目は落ち着きのあるトビーが適任でした。彼は牛にも慣れているし、"トロール"の正体を冷静に見破れたはずです。そうすれば、男性の機関車キャラクターを露骨にバカに描いて女性の客車キャラクターを賢く見せるといった構図が完成することもなかったでしょう。
誤解のないように補足しておくと、私はホモソーシャルと"いつも優位に立つ男性"という構図にひどくうんざりしていて、活発な性格や強さを持つ、あるいは知的な女性キャラクターを常に歓迎していますが、そう見せるためにわざと元々の品位を落として描写する展開が好きではありません。当然、その逆もまた然り。
また、伏線回収は見事でしたが、冒頭から農場の柵が壊れていたことを発見したトーマスが"不気味な唸り声"に何の疑問も持たなかったのはプロットとして失敗している気がします。
このエピソードの最もいいところはアニメーションと音楽、音響、そして演出だと感じています。水車小屋の橋の上で雨が降り出した瞬間の描写は一見の価値があります。雨でしたたる機関車たちの車体のツヤ、緊迫感のあるBGM、橋の下で籠って聞こえる"トロール"みたいな鳴き声の音響、落雷、演出は素晴らしかったです。
もう一つ良いところは、支線の設定です。ここには、S17『せんろをさがすトーマス』と同じく、近道や回り道など存在しません。絶対に通る必要があるというのが鉄道らしい点でした。
トーマスは全体的にニュートラルだと言いましたが、終盤に至るまでは『ゆうれいきかんしゃ』みたいに、最初は妖怪の話なんて信じないけど、実際に直面すると怯えるようになっていったのが嬉しかったです。初めからビクビクしいるわけではなくてね。
そうそう、トレバーが久しぶりに喋りましたね。3DCGとしてはジェム・コールと一緒に第13シリーズのオープニングから登場してはいるんですが、台詞を発したのは第9シリーズ以来久しぶりのことです。今回は果樹園ではなくマッコール農場を手伝っているようでした。
基本的にそこにいるだけで、特にこれと言って新しいキャラクター開発が行われたりなどはありませんでしたが、彼のフライホイールをウィンチとして活かして橋の下から牛を救ったのが好きです。
声優はUK版がナイジェル・ピルキントン。US版はクリストファー・ラグランドと、どちらもパーシーと同じ声優ですが、パーシーほど高い声ではありません。US版は深すぎる気もしますが…。
【チェックポイント】
葉っぱで両目塞がれたらびっくりするよね。
水車小屋の上の橋ってこういう景色だったんですね〜。でもこの橋って複線じゃなかったっけ…?
今回のエドワードの扱いも私目線では何も問題ありません。『トーマスのはじめて物語』と同様のニュアンスの笑いだと解釈できます。
この風景結構好きなんですよね。トレバーは支線違いだけど、トーマスの支線の魅力が詰まっていて。
全体的な面白さ:☆
鉄道らしさ:☆☆
リアリズム:☆☆☆
キャラ活用:BAD
BGMの良さ:AMAZING
アニメーション:BEAUTIFUL
道徳:☆
【最終的な感想】
童話のパロディ自体は大して気にしていません。合うか合わないかで言えば合ってると思うのですが、その前にまずパーシーとトビーのキャラクター性を滑稽な”しょせん小型機関車程度"ではなく、本来の性格と経験を活かした状態で描いていたら、久しぶりの支線トリオ回として十分に評価していたと思います。正直、傑作の一つ『勇者とソドー島の怪物』から成長を遂げたパーシーを活かさなかったのは残念です。
水車小屋の橋をメインにしたり、支線トリオで展開したこと、そして困難に立ち向かうところ自体は気に入っていますが、プロットは良くはありません。
でも、私みたいにキャラクター性を気にしなければ、支線トリオを見る分には栄えがいいですし、トレバーも出ますので一見の価値はあると思います。
総合評価: 2/10
【第20シリーズ総合評価】
1 うたうシドニー 9/10
2 サンタクロースへのてがみ 10/10
3 トビーとフィリップ 8/10
4 ヘンリーか?ゴードンか? 10/10
5 コーヒーポットきかんしゃグリン 6/10
6 グリンとスティーブンのレース 10/10
7 ディーゼルのひみつ 9/10
8 ブラッドフォードってきびしい 9/10
9 じかんをせつやくしよう 5/10
10 ライアンとデイジー 10/10
11 やみにひかるヘンリー 9/10
12 おそろしいようかい 2/10