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喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

きかんしゃトーマス 第20シリーズレビュー第10回

※この記事にはネタバレが含まれています。

また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。2016年に書いた感想を書き起こしたものです。

 

 

 

S20 E10 『Ryan and Daisy』『ライアンとデイジー

脚本: デヴィー・ムーア

内容: デイジーは新しい友達のライアンに余分な仕事を押し付けようとする。

 

【高評価点】

・道徳「友達を助けるのは良いが、助け合うことも必要」。

・ライアンとデイジーそれぞれの個性とハーウィック線の設定。

・デイジーの新テーマ曲。

 

【中立点】

・最後にデイジーに報復があるのは理にかなっているが、彼女の役割を考えると、採石場の貨車を運ばせるのには無理がある。しかし、そこで痛い目を見て身に付く学びなのかもしれない。

・スティーブン・キンマンが演じるライアンは、エディ・レッドメインに違和感なく近づけているが、目を閉じるとパクストンにしか聞こえない。

 

【低評価点】

無し

 

 

 

【このエピソードについて】

 以前は『トーマスのはじめて物語』からまさかのグリンが登場しました。正直、このスペシャルから出るキャラクターはジュディとジェローム(後に登場しますが)だけだと思っていました。

 そして第20シリーズになって私がず〜っと心待ちにしているのはわかりますか? そう、『探せ!! 謎の海賊船と失われた宝物』(SLOTLT)の後日譚です。アールズデール鉄道やレールボートのスキフ、ドナルドとダグラスにマックスとモンティなど様々な要素を残していますが、何より一番気になるのはライアンとデイジーに関すること。

 デイジーがハーウィックの支線へ移ったからには、彼女に見せ場があると信じています。幸いなことに、脚本家のデヴィー・ムーアは以降のシリーズを含めてデイジーが出る話を9本も書いているようで、その期待が高まります。今回はその一つで、オリジンと思われるエピソードのレビューです。

 

©︎Mattel

 間違いなく大好きなエピソードで、期待通りで非常に満足しています。

 まずこの作品の魅力は、ライアンとデイジーそれぞれの個性が活き活きとし、道徳に絡めていることです。もし『SLOTLT』のオリジナル脚本をブレナーが改めなければ、元々ライアンは「自信過剰で軽蔑的」な性格で描かれたはずで、その個性でデイジーやトーマスとぶつかり合う様子を見てみたかったんですが、本稿で変わったライアンの愛想の良さが思いのほかデイジーと面白い相互作用をもたらしているんです

 

©︎Mattel

 デイジーは長編『みんなあつまれ! しゅっぱつしんこう』で一切喋らない登場を除けば、TVシリーズ短編では第4シリーズ『デイジーとおうしのめだま』(1995年)以来の登場になります。だからこそ『SLOTLT』で何の前触れもなく(公式サイトでネタバレしたけど)登場したのは本当に驚きでした。

 そういうわけで、原作絵本に最後まで登場していることや、インパクトにかかわらず、現代の子どもたちが彼女のことを知らない可能性が大いにあります。幸い、冒頭ではデイジーがどのようなキャラクターなのかを、原作16巻『機関車トーマスのしっぱい』と照らし合わせるような形で手短に紹介されています。

『サンタクロースへのてがみ』の回想シーンとは違い、彼女は第4シリーズから少し成長しているため、原作のまんまではなく、ちょっとした進展を加えていることを気に入っています。例えば、雄牛と対面する場面では、彼女は傷つけることを怖がるのではなく、単に煩わしいものと捉えるように見えました。

相変わらずミルク運搬車は牽きたがらない様子です。まあ気動車って機関車と違って牽引力がほとんどないので、流石に3両+ブレーキ車や、採石場の貨車は能力的に無理があるんじゃないかなとは思いますが。

 

©︎Mattel

 ライアンとデイジーそれぞれの性格については後述しますが、2台のキャラクター活用は本当に素晴らしいです。特にデイジーの調子と性格は初登場時から全く変わっていませんが、個々の声優起用と3DCGで表現力が豊富になったことで、柔らかい声色で上目遣いで目をパチパチさせて相手をうまく操作する描写は本当に面白かったです。

 また、トーマスの支線で鍛えられたことを決して無碍にしているわけではなく、ハーウィック線で彼女を否定したり監視する仲間がいない代わりに、ライアンという"ちょっと頼めばなんでもやってくれる友達"がいるために、再び甘えてしまうというのが、デイジーらしさが良い塩梅に表現されていて好きです。いかにムーアが彼女のような性格の人をよく理解しているかがわかりますね。

 オリジナルの脚本から改められたライアンの性格がうまく噛み合っているのはつまりこういうところです。トーマスみたいに皮肉を言わないし、パーシーとトビーに文句や厳しく指摘されることもなく、彼女の面白く斬新な瞬間を見ることができます。

 

©︎Mattel

 道徳は、過去作で散々使い古されている「共に働く」「チームワーク」をテーマにしています。直近でもこれが頻りにあり、S18『せきたんがないビルとベン』、S19『ロッキーきゅうしゅつさくせん』、『もどってきてティモシー』と、そのほとんどは子どもたちに身に付かせるものではなく、キャラクターの日常を描いただけに過ぎませんでした。

 でも、この作品では面白い方法でキャラクターの性格と結びついているんです。何しろ彼らは慣れ始めたばかりで、特に怠け者の甘えん坊ちゃんとイエスマンの共存は最初からうまくいくものではありませんよね。面白いのは、ライアンには悪気がないとはいえ、お互いに学びがあるところです。

 デイジーは任された仕事を怠けたりせず、"友達"を都合よく操作するものではないと学び、報復を受けます。要は自分を甘やかしすぎなのと、相手に対する尊敬心が足りなかったというわけです。郵便車は客車の扱いなので理にかなっていますが、採石場の貨車は彼女には重過ぎませんかね。でも、痛い目を見て身に付く学びだとしたら、それはそれで良いですね。

 一方でライアンも同じく助け合いの重要さを学びます。ライアンは友達を不機嫌にさせないため、そして友達の役に立ちたいがために、デイジーの言われるがまま全てを引き受けてしまいましたが、それではいつか身を滅ぼします。ライアンにはすごく共感します。だけど、愛想良くするのは好かれますが、適切なタイミングで「イエス」と「ノー」を使い分けるべきなんです。

 本筋は使い古されているにもかかわらず、両者が学んだ道徳はどちらも巧妙に思えました。特に後者は今までに類を見ず、とても斬新でしたね。

 

©︎Mattel

 他の方も口を揃えて仰っていますが、ラストは朝焼けの背景も相まって本当に美しい結末を迎えました。デイジーは報復を受けますが、努力しようという思いは伝わりますし、お互いを同僚として信頼している様子が伺えます。これは今後同じような衝突が起こらないことを示唆しているとも言えますね。

 

【チェックポイント】

©︎Mattel

 映画『探せ!! 謎の海賊船と失われた宝物』より初登場したタンク機関車のライアン。映画の内容的にもスタンリーとほぼ同じ立場のキャラクターですが、スタンリーにはない弱点を持ち合わせていて、可愛くて大好きな機関車の一台です。むしろ推しまである。名前の由来については話すのは… あまり気が進みませんが。

 ライアンは誠実で親切で、嫉妬から騙されたと知っても*1怒らないし、いつも仲間の役に立ち、対等でいたいと考えていたり、困っている仲間を見れば心配して、行動せずにはいられなくなるという本当に良い性格の持ち主です。自分が思っているほど勇敢ではなく気が動転しやすいという弱点が映画の中で描写されているのですが、今回は彼に別の弱点があることが物語の中で明かされています。

それは、「ノー」と断れないくらい優しすぎることでした。これは彼の誠実な性格が逆に欠点にもなっているんですね。策士から利用されやすいという点ではパクストンと同じなんですが、仲間の、特にデイジーの気に障らないように行動したり、押しの弱さも相まり、仲間の役に立ちたい想いが強すぎて*2断れず、体を壊すくらい無茶をしてしまいまうところがライアンたる所以という感じがしますね。そこで彼自身も助け合いとは何かを学んだわけです。ムーアは彼の弱点の扱い方が本当に上手いです。

 

 モデルになった車両はグレート・ノーザン鉄道N2クラス。車体番号の「1014」は、クラスN2ではなくクラスC2の実際の番号みたいですね。彼には復水器が備わっているのですが、残念ながらこれが物語に活きることは無さそうですね。通常なら蒸気となって消費されていく水分を再びタンクへと巡回することで水の消費をある程度抑えられるというメリットを持っています。でも、ハーウィック線だけでなく、ナップフォード駅経由でファークァーの採石場まで出向くという長距離移動にはライアンの復水器が適していると言えますね。意図的ではないと思いますけど。

また、実機は旅客列車用なのですが、ハーウィック線では旅客をデイジーに任せているためライアンは貨物担当という設定です。映画でアニーとクララベルを牽いたように、今回でデイジーの良いように利用されたとはいえ普通客車と郵便車を運ぶ様子が見られたのは嬉しかったですね。

 

 声優はUK, US版共にスティーブン・キンマンが担当。映画でゲスト声優としてライアン役を演じたエディ・レッドメインが続投されなかったのは残念でしたが、ご存知の通り彼は大物俳優で、トーマスのためにスケジュールを割くのは難しいのでしょう。スティーブン・キンマンの演技は、映画のレッドメインの雰囲気に合わせていて、違和感はありません。私個人としてはキンマンは素晴らしい声優だと思いますが、短編のライアンの声質は、似た人格を持ち、同じ声優のパクストンと同じようにしか聞こえないのがネックです。

 日本語吹き替え版では、同じく映画でゲスト声優として出演したDAIGOに代わって徳石勝大が担当*3。第18シリーズ『サムソンとスクラップ』にて郵便配達員を演じた声優ですね。これといった特徴のない青年風のイケボです。DAIGOから違和感がないとはいえ、原語版みたく気持ち高めの声でも良いのではないかと思いました。

 

©︎Mattel

 もう一つ特筆すべきはディーゼル気動車デイジーです。いやマジでおかえり。

『CAE』以降出番がなくて忘れ去られたのかと思っていましたが、『SLOTLT』ではチョイ役ではあるものの、新しい支線に取り組むという説明の時点で彼女が背景に追いやられないことが約束されたようなもので、とても期待していました。

 そして、期待以上でした。蒸気だのディーゼルだのではなく、今回で原作本来の気難しいデイジーをまんま正確に描写した上で開発も行なってくれたのが本当に嬉しかったですね。

やりたくない・気分が乗らない仕事を自分から遠ざけようと、何かにつけて高級だからバネに悪いとか言って選り好みをしたり、よく見ると冒頭で運転士とコンタクトを取ってたり。でも、叱られてから積極的に自分の態度を見直そうと、それまでの行いを反省して、友達作りに励むところが彼女の良いところで、好感が持てます。嫌々とそうするジェームスと違って、描写がコミカルで、数ある高慢なキャラクターの誰よりも面白かったです。

原作では最終巻までトーマスの支線から離れていませんが、個人的にはハーウィック線での彼女の役割をとても気に入っています。支線の郵便担当が増えたのが嬉しいですね。デイジーのような気動車が何かを牽引できるかは怪しいのですが、郵便って客車の扱いらしいんですよね。本作からのデイジーみたいに、各支線ごとに郵便配達をする仲間がいることを描写すれば、『サンタクロースへのてがみ』の違和感も払拭されますし、また新たな絡みを期待できます。

 

 彼女もまた、今期からのディーゼル同様、専用の新しいBGMが設けられていましたね。マイク・オドネルとジュニア・キャンベルが作曲した、気怠げで気取っているかのようなスウィングスタイルとは異なりますが、雰囲気を微妙に残しつつ、印象に残りやすいキャッチーで可憐な曲で、今のデイジーにぴったりで素晴らしいです。

 そして何より素晴らしいのが声優ですね。原語版はUK, US共に英国の女優トレイシーアン・オーベルマン(Tracy-Ann Oberman)が担当しているんですが、彼女の演技がデイジーに完璧にマッチしているんです。若々しくて、でもねっとりと気取ったような声は、見ていて楽しくなりました。

 日本版の声優も忘れてはいけません。もはや現在のトーマスシリーズではお馴染みな根本圭子。彼女はすでに内気なモリー、快活なベル、年配のヘンリエッタ、エリザベス、トップハム・ハット卿のお母さん、そしてジャックやスティーブン・ハットのような少年ボイスまで、数多くの兼役をされている方ですが、キャラクター一人一人の演じわけと声の幅広さはもっと注目されるべきだと思います。デイジーもその例外ではなく、完全にキャラクター性にハマり役で、これまでに演じた誰とも似ておらず、声の幅広さに脱帽です。日本版も見るのが楽しかったです。

 

©︎Mattel

 アールズバーグ・ジャンクションがアールズバーグ・ウェストと、正式名称で呼ばれました。また、標準軌の駅とちっちゃな鉄道にアクセスするための跨線橋も追加されましたね。原作絵本の挿絵とは形状が異なりますが、駅としてきちんと機能するようになったことを喜ばしく思います。アールズデール鉄道のバートもここでTVシリーズ短編に初登場です。

 

 

全体的な面白さ:☆☆☆

鉄道らしさ:☆☆☆

リアリズム:☆☆

キャラ活用:PERFECT

BGMの良さ:☆☆☆

アニメーション:☆☆☆

道徳:☆☆☆

 

【最終的な感想】

 レギュラー陣を除く、過去作のキャラクターが新しいキャラクターと絡んで、新しいことを学び、キャラクター性の開発を得る瞬間が大好物なんですが、ライアンとデイジーの組み合わせは本当に素晴らしかったです。音楽やアニメーション、道徳も優れていて、キャラクターへの理解度も相まって高品質な作品に仕上げられています。

 

総合評価: 10/10

 

 

【第20シリーズ総合評価】

1 うたうシドニー 9/10

2 サンタクロースへのてがみ 10/10

3 トビーとフィリップ 8/10

4 ヘンリーか?ゴードンか? 10/10

5 コーヒーポットきかんしゃグリン 6/10

6 グリンとスティーブンのレース 10/10

7 ディーゼルのひみつ 9/10

8 ブラッドフォードってきびしい 9/10

9 じかんをせつやくしよう 5/10

10 ライアンとデイジー 10/10

 

※この記事に添付したスクリーンショット著作権は全てマテル社に帰属します。

*1:その後に助けられたからというのもあるけど

*2:これは映画でも描かれています。

*3:というより、配信版でのライアンは徳石勝大が声を当てており、DAIGOは徳石氏の吹替を元に演技を行なった可能性が高いです。