※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の感想は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。
S19 E11 『Diesel's Ghostly Christmas』『ディーゼルのクリスマス・キャロル』
脚本: ベッキー・オーバートン
内容: クリスマスに問題を起こしたディーゼルの元へ、クリスマスの幽霊が現れる。
【高評価点】
・クリスマスに関する道徳。
・トーマスの演出による独創性。
・転覆した状態のディーゼルから四季が移り変わる空想シーンの背景と、ディーゼルの白い眉毛などのディティール。
【低評価点】
・ギミックを動かす為の設定無視。
・不自然なシナリオ進行。
【このエピソードについて】
今回の最大の特徴は初めて2倍の長さの尺で行われている事です。UK版や日本吹替え版等では『Part 1』『Part 2』と区切られて放送されましたが、PBS放送及びUS版のDVDでは分けられずに収録されています。*12つで1つの物語であり、特に前半はオチがあるわけでもないので、私のレビューでは小分けせずに一つとして評価致します。
物語は言うまでも無くチャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』のパロディと云いますか、いわばきかんしゃ版のクリスマス・キャロルです。
トーマスシリーズで何らかの小説の改作を行うのは珍しい事ですが、"『クリスマス・キャロル』の改作"は長年ディズニー等で幾つも創られたので、世間一般から見て"新しい物"とは言えません。また、そのパロディと思しき描写は第18シリーズでも2回ほど行われています。
サブタイトルの通り、主人公はディーゼルです。ディーゼルは過去3作品*2でクリスマスを祝ったり、その雰囲気を楽しんだ事があるので、彼の身に一体何が起きたかは知りませんが、いつもの意地悪なノリに加えて「Bah humbug!」とまるでスクルージのようにケチで薄情な態度を取ります。でも冷酷さは無く、性格は普段のディーゼルのままで動作します。元々ディーゼルは利己的ですし、どことなく素気ない態度は前にも見せていましたね。
元々小説の改作と云う事もあり、利己的な態度を改めることが一つの教訓です。特にクリスマスは周りに親切にする時期。それを、ディーゼルの態度によって犠牲または負担となった仲間たちが計画を企て、ちょっと懲らしめて改心させようとします。
そしてこのエピソードの見所は、亡霊や幽霊(精霊)の役に成りきる機関車たちの仮装と演技です。全てトーマスが考えた物だと思われます。エマーレイの亡霊に扮したエミリーに蒸気を浴びせて雰囲気を出したり、ウィフの許可を得てゴミと枝を全身に被ってディーゼルを恐がらせたり…。いい演出家になれると思うよ、こいつ。副業で演出家やったら絶対売れる(何を?)。
手伝う欲に熱心にさせるその教訓と、幽霊に成り済ます独創性は、子供のための良い道徳となっているように感じます。創造という物は、想像力と自分の出来る範囲のスキルが大事です。お金ではありません。
また、それぞれの声優の演技力も素晴らしかったです。たいていの場合、私はUK版とUS版でどちらの方が良かったか決める事が多いのですが、今回はどちらの声優も良い演技をしていたように感じます。ハスラーもメイもそれぞれに違う味があります。
そして何と言っても日本吹替え版の声優は、かなり良かったです。特に亡霊と精霊の役割を果たしたキャラクターは本当に。比嘉さんも非常に型にはまってきましたね。まあ、相変わらずディーゼル役の方はイントネーションが気になりますが…
しかし、シナリオの進行には不自然な点が目立ちます。物語を進ませるために、例えばPart 1でエンジンの送油経路が凍り付いて一時的に動けなかったソルティーの描写があったのにも拘らず、Part 2で脱線・転覆して一晩中雪の上にいたディーゼルが吊り上げられた直後からすぐに走れるといったギミックの無視があったり、プロット上、ディーゼルが都合よく走ったりと、どこか疑問に思うところがあります。
スクルージの前に現れたのが、どこにでも現れる事の出来る幽霊だからこそ自然な進行が成り立つのですが、この作品では各地でディーゼルを待つ幽霊に扮した機関車達ですので、ずる賢いディーゼルなら何かに気付くことは無かったでしょうか。ソルティーなんかいつもの港で網被ってるだけなのに。また、他の機関車達も計画を知っているのでしょうか?
現在のクリスマスの幽霊を演じるパクストンから逃げ、彼が脱線した場所で脱線してからの展開は、もはや計画ではなく、状況を利用して何事も無かったかのように次へ行く展開になります。もしパクストンの役割が成功していた場合、それとも脱線せず逃げられた場合、トーマスたちはどのように対処するつもりだったのでしょうか。トーマスが何かを仕掛けていたら、それか信号手や乗組員も協力するような形だったらこれらの違和感は少し払拭できたかもしれません。
ペース配分は良いし懲らしめ方も好きなのに全体的に進行は残念だなぁと感じました。
さて、無事にエンディングでは人助けの気持ちよさを実感し、クリスマスに溢れる笑顔を見て幸せな気持ちになったディーゼルでしたが、私は今後もディーゼルがクリストファー・オードリー執筆の原作絵本のように、手助けに熱心で親切になるとは微塵も思いません。特に蒸気機関車の前では。
しかし、クリスマス回に限り、ディーゼルが得たものが活きると非常に嬉しいです。
※いずれ触れますが、幸いなことに第21シリーズでフワッと活かされました。
【チェックポイント】
小説の登場人物に関連するキャストは以下の通りです。
●トップハム・ハット卿→ ティム・クラチット
●(ノランビー伯爵→ フレッド)
●エミリー→ マーレイの亡霊*3
●パクストン→ 現在のクリスマスの幽霊*5
●トーマス→ 未来のクリスマスの幽霊*6
”過去のクリスマスの幽霊”演じるソルティーが彼に思いださせた最初の場面は、S3『ディーゼルがかえってきた』のCGリメイクです。模型版とアングルが異なるので少々わかりづらいかもしれません。
ソルティーのエンジン。ディーゼル機関車は冬の寒さに弱いので、この点にはリアリズムが働いています。最も終盤では進行の為にそのリアリズムが無視されていますが。
「Deck the Hall (ひいらぎかざろう)」を歌うエミリー。かわいい。特にUS版。
ウィフとスクラフはこの回で初めて冬エピに登場しました。計画に協力するのみで走ることもありませんでしたが、雪原を走るウィフの姿が見たかった私にとってはかなり嬉しかったです。
更に彼らはラストのウルフステッド城でクリスマス祝いに参加しています。こういう恒例行事に御呼ばれするのも初めてじゃないですか? パーティがゴミ臭くならないか心配しつつも、私はこの説明しようのない興奮で胸がいっぱいです。
(※私のウィフへの愛情はこちらの記事参照)
ちなみに2018年現在、スクラフはこの回を境に喋ってないので、いつか役割を与えてあげてほしいです。
全体的な面白さ:☆☆
鉄道らしさ:☆☆
リアリズム:☆
キャラ活用:☆☆
BGMの良さ:☆☆
アニメーション:☆☆☆
道徳:☆☆☆
【最終的な感想】
第23シリーズになるまで、このような構成は無いので、恐らく尺を18分にすることでどのように仕上がるかを実験的に創ったのだろうと思います。実際にそのテンポは良くて、シナリオの長さにもちょうどいいと感じました。小分けする必要性は無いと思いますが。
キャラクター一台一台の動きは面白く、道徳と声優の演技、そしてアーク・プロダクションのアニメーションは素晴らしかったですが、工夫が無い物語の進行のおかげで、私からの意見では、平凡です。
総合評価: 6/10