Z-KEN's Waste Dump

喋りたがりの きかんしゃトーマスオタクによる雑記

きかんしゃトーマス 第20シリーズレビュー第14回

※この記事にはネタバレが含まれています。

また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。2021年に書いた感想のメモを書き起こしたものです。

 

 

 

S20 E14 『Hugo and the Airship』『ヒューゴとひこうせん』

脚本: アンドリュー・ブレナー

内容: ヒューゴは空高く舞う飛行船のように空を飛びたがる。

 

【高評価点】

・道徳「自分の長所を伸ばそう」。

アールズバーグ港でのトーマスの発言は、明らかにS19『やまのむこうがわ』を引用した言及だが、これと同時にS10『トーマスとジェットき』で得た教訓から連続性を描いているようにも感じられる。

 

【中立点】

・丘を飛び立とうとする際に一線を越えなかったのは良いが、効果音がないおかげで臨場感もない。

・スキフとの相互作用は面白いが、全体のペースが悪く、もっと見せてほしかった。

 

【低評価点】

・ペースが非常に悪い。

・ヒューゴが何のために来島し、何のために滞在しているのか理由は不明なまま。

 

 

 

【このエピソードについて】

 前回のヒューゴ初登場回では、レールツェッペリンについてよく調べられていて、利点も欠点も忠実に再現された設定が描写された代わりに登場キャラクターはひどく、物語も紙一枚のごとくペラペラで非常にお粗末な内容でした。日本では2話連続で放送されているのですが、終わった後に次もお粗末じゃないといいなと強く願っていました。

 さて、飛行船が出てくるということで、そろそろソドー空港が出てきても良い頃なのではないかと思っているんですが、いかがでしょう。

 

©︎Mattel

 正直な話、第20シリーズで一番どう評価していいのかわからないエピソードで、これもまた滞らせた理由の一つでした。最高の回は書くのが難しいと感じると言いましたが、わからない話というのは本当に判断に困ります。観ているのは政治家の極論ではないし、そう易々と、誰でもできる「さっぱりわけわかんない、これはクソだ!」とは言いたくなくて、可能な限り自己分析して、良い部分を見つけ、できれば意図を汲み取ろうとした上で議論を展開したいんです。感情任せに書くと良い部分も悪い部分も見落とします。(私の第19シリーズ前半のレビューがまさにそれでした。ひどい記事を書いたと反省しています)。

 初めてこのエピソードを見た時はマイナス1点をつけようとしました。言及さえ出てこなかった空港はともかくとして、プロットを見た時の期待通りの展開ではなく、『みらいのきかんしゃ』よりはマシなのだけど、展開がごちゃごちゃしていて意図を汲み取りづらかったんですよね。でも、2021年になって、段々とこのエピソードの良さがわかってきたような気がします。考え直すためにも自粛したのは正解だったかもしれません。投稿する頃には2024年になっちゃったけどね。

 というわけで今回は順を追って分析していきましょう。

 

©︎Mattel

 ヒューゴの簡単な説明と、安全性の確認と、鉄道検査官の場面の後、メインランドから帰ってきたヘンリーが飛行船を目撃し、ヒューゴだと思い込むところから物語が始まります。確かに似ているし、ヒューゴが元々飛行船風に設計されているため思い込むのは理解できますが、ヘンリーだけで良かったのではないかと思いました。彼から話をきいたジェームスとエミリーはともかく、パーシー、トーマス、アニーとクララベルまで長々とやると登場キャラクター全員が再び馬鹿らしく見えます。

 物語の序盤はヒューゴが地上と上空のどちらにもいるというミステリー要素で展開されていたのですが、いつの間にかヒューゴが飛行船を追いかけながら空を飛びたいと願うようになりますこの展開は本当に無造作に現れたような感じでした

最も、序盤はただ機関車たちが飛行船を眺めてヒューゴはそれを追跡するというだけの流れで特に何もなくヒューゴが飛行船を発見する場面さえ見られません

ジェームスが「気球みたいだ」と指摘する台詞は連続性を感じられて良かったけどトーマスの場面をカットしてヒューゴが飛行船を見つけて憧れるようになった方が自然な流れになったのではないかと思います。また、無意味な展開するくらいなら中盤と話をつなげてほしかったです。

 

 ていうかバロー=イン=ファーネス辺りでツェッペリンを目撃するのって、地元の人はどう思うんだろうか。

 

©︎Mattel

 中盤では飛行船を追いかけてアールズバーグ港まで訪れ、似たカラーリングで、船なのに線路を走るスキフと出会います。※『SLOTLT』から短編に初登場のスキフですが、彼のことは別のエピソードでお話します。

 海辺の線路の上で、自分にはない何かになることを夢見るのは、第3シリーズ『うみをはしりたかったダック』に近いものがありますね。ダックの話は、海を渡ってその向こうの景色を眺めたいと考えるのが導入でしたが、ヒューゴの方は自身がツェッペリン風に造られたのに空を飛べないことを気にします。知らない景色を見たいと思うよりも、こちらの方が多くの人に共感しやすいのではないかと思います。

 しかし、テンポが良くて感動的な締めで幕を閉じる『うみをはしりたかったダック』と比べると、この『ヒューゴとひこうせん』は、先述の無意味な追跡のおかげでペースが非常に悪いです。ここまでに4分以上かかっており、実際にヒューゴが行動に移すのには5分もかかっています。そのせいでエンディングがやたらと短くなってしまい、だからこそ初見時に短いオチが、弱い、または意味不明に見えたんですよね。

 それはそうと、過去に飛行機と関わったこと*1で現実的に考えるようになったトーマスと、陸と海を行き来できるために「できそうだ」と目標を与えようとするスキフとで、ヒューゴの心理を左右させているのが面白いです。

 

©︎Mattel

 飛行船のように空を飛ぼうと、ゴードンの丘を速度を上げて登っていく場面はちょっと退屈でしたが、一線を越えなかったのが好きです。何って、BWBA期で丘からジャンプするトーマスみたいにしなかったことです (※2018年のぜるさんより)。

レールツェッペリンの総重量は約20トン。それに対して小ぶりなタンク機関車であるトーマスの実機LBSC E2は53.6トンあります。同じく気動車であるデイジーの実機BR 101/102 classは25~32トン。

レールツェッペリンは速度を重視するため、飛行船のようにアルミ製で、当時の一般的な鉄道車両に比べればかなり軽量化が図られていますが、プロペラはダウンフォース(車両を下向きに押し付ける力)を得るために回転軸が水平より7度上向きに傾けられてます。重量よりかは、そもそも鉄道で走ることを目的で設計されているので飛ぶことができないんですよね。劇中で重量だけを指摘するのは、おそらく子どもたちにわかりやすく伝えるためだと思います。

まあヒューゴのような設計で丘を登ろうとすると速度はかなり落ちると思いますが、物語のために現実のルールを破ることはもはや第3シリーズ以降恒例な話なので置いといて。

 

 この場面では、意図的かどうかはわかりませんが、ヒューゴやゴードンの走行音など効果音を入れず声と大音量の軽快なBGMだけで演出されています。効果音がないと途端に臨場感が無くなり、陳腐なアニメを見ているかのような気分になりますが、そのおかげでBGMも相まって応援したくなるような演出になっています。奇妙だけど正直嫌いじゃないです。

また、葛藤の割に駅でプロペラを止め忘れる以外、大きな失敗もないので、そこが退屈さに拍車をかけているように思えました。しかし、前回で何の活躍もしなかったヒューゴが決意を固めて目標に向かって諦めようとしない姿勢を見るのは、たとえ姿勢の方向性が間違っていても、清々しい気分です。

 

©︎Mattel

 このエピソードの道徳のテーマは「自分らしく」というよりも、「自分の能力を理解し、長所を伸ばす」でした。始めは前者だと思い、なんて安っぽい結末だろうと思いましたが、オチでの描写を含めると、後者だということに気づきました。具体的で子どもたちにも分かりやすいですよね。ネガティブ思考に陥りやすい人には自己肯定感を身につけさせる必要があり、まさに今のヒューゴにとってぴったりな道徳なんです。あとは絶対の自信をつけさせて友達の輪を広げられたら言う事ないんですけど、ね…。

 ヒューゴとスキフの場面は短いですが、大好きです。うまくいけばもう1話創れたはずだし、もっとこの2台の絡みを見たかったなぁ…!

 

 

【チェックポイント】

©︎Mattel

 ヒューゴ(Hugo)について深掘りしていきましょう。今回は実機ではなく、キャラクターとしての話です。前回はキャラクター性があまり描写されなかったので今回にまわしました。サムソンやフィリップほどキャラが濃くないんですよね。

 彼はユニークで(当時)世界最速の気動車という誇れる立場でありながら、穏やかで、ものすごく繊細な心の持ち主です。

他者からの評判を気にしていて、迷惑をかけないように自ら遠ざかって行ったり、駅を通過する際はプロペラで事故が起きないように気を張っていますが、油断したり他のことで頭がいっぱいになるとプロペラを止め忘れることがあるみたいですね。

仲間外れにされても自分を見せようと強く出られない辺り、自信がないというよりは、控えめで自己肯定感が低いのかもしれませんね。そこには実機の歴史の影響が強いのだろうと解釈できます

 

 デザインはほぼ実機まんまで素晴らしいですが、顔はもっと小ぶりにしてほしかったなと見ていて思いました。特にカメラを正面に向けた時、場違いにでかい灰色のノリスケさん風の顔だけが移動しているように見えるからです。

 声優は原語版ではロブ・ラックストローが微妙にドイツ訛りで演じています。日本語吹き替え版は小田柿悠太。どちらも特にこれと言って飾り気のない声で演じられていますね。



©︎Mattel

 今回はお馴染みの3人の鉄道検査官(それぞれ髪色が違うことが判明)に、トップハム・ハット卿がヒューゴを紹介していますが、ヒューゴはなんのためにソドー島に来てソドー島でどう過ごすのかは最後まで明かされませんでした。しかも、映画『とびだせ! 友情の大冒険』のトーマスの空想でのカメオ出演を除けば、これ以降ヒューゴの出番が完全に無くなったのでわからないままです。

前回の話から察するにトップハム・ハット卿は彼が来ることを想定していなかったようですし、鉄道を向上させるとはどういう意図があったのでしょう。

保存目的で来たのだとしたら、コナーとケイトリンみたくウルフステッド城にお客を乗せて走るとかしそうですが、メインランドからなのか空港からなのかも定かではなく、どこかに少しだけでも説明がほしかったです。

 

 

全体的な面白さ:☆

鉄道らしさ:☆☆☆

リアリズム:☆☆

キャラ活用:☆☆☆

BGMの良さ:☆☆

アニメーション:☆☆☆

道徳:☆☆☆

 

【最終的な感想】

 ペースが非常に悪く、物語の繋がりがなさすぎて場面はちぐはぐで混乱する要素も多々ありますが、道徳はとても良いと思います。結果的にお待たせする形にはなったものの、レビュー投稿までに長く自粛期間を取ったおかげで固定観念を取り除いて良い部分を見つけることができました。

 あと、他の記事で発言する場がないので2024年のぜるさんから言わせてもらうと、空想上のカメオ出演を除けば、これ以降ヒューゴに出番が与えられないどころか、この時点でヒューゴにはまだ多くの可能性と成長の余地(ネガティブ思考、広げきっていない友情の輪など)を残しているのにもかかわらず、出番を終えるのは非常に不快でした。これほどユニークな存在でありながら、なぜ彼の、あるいは関連した物語をまともに書くことができなかったのでしょうか。彼にはもっと強く自信を持たせるようにもできたはずだと考えると、モヤモヤします。

 

総合評価: 6/10

 

 

【第20シリーズ総合評価】

1 うたうシドニー 9/10

2 サンタクロースへのてがみ 10/10

3 トビーとフィリップ 8/10

4 ヘンリーか?ゴードンか? 10/10

5 コーヒーポットきかんしゃグリン 6/10

6 グリンとスティーブンのレース 10/10

7 ディーゼルのひみつ 9/10

8 ブラッドフォードってきびしい 9/10

9 じかんをせつやくしよう 5/10

10 ライアンとデイジー 10/10

11 やみにひかるヘンリー 9/10

12 おそろしいようかい 2/10

13 みらいのきかんしゃ -3/10

14 ヒューゴとひこうせん 6/10

 

※この記事に添付したスクリーンショット著作権は全てマテル社に帰属します。

*1:S10『トーマスとジェットき』