※この記事にはネタバレが含まれています。
また、記事の内容は個人的な意見であり、他者の代表ではありません。2017年に書いた感想のメモを書き起こしたものです。
S20 E16 『Skiff and the Mermaid』『スキフとにんぎょ』
脚本: ヘレン・フォラル
内容: 人魚を発見したと思い込んだスキフは、トップハム・ハット卿を乗せたまま海に出てしまう。
【高評価点】
・エンタメ性に富んでいる上にストーリーも良い。
・人間関係の描写。
・水の表現。
・スキフの詳細設定。
【低評価点】
無し
【このエピソードについて】
「Extraordinary Engines」いよいよ最後のエピソードとなります。ここまで最高のエピソードは個人的にはヘンリーの話だけでした。今回は『探せ!! 謎の海賊船と失われた宝物』より初登場したスキフの主役回ということで、とても楽しみにしていました。果たしてヘンリー回を超えることはできるのか…?!
答えは、イエスです。先に言っておきますが、
まだ視聴していない人は、このレビューを読む前に、いますぐ観てください。
この手のエピソードは感想を読む前に直接観た方が良し。
…始めてもいいですか?
では。
第5シリーズ『ハットきょうふじんのたんじょうび』みたいな、トップハム・ハット卿を準主役に用いたコメディ調であるにもかかわらず、原作っぽい雰囲気とノスタルジーを強く実感したのは私だけですか? そもそも、めちゃめちゃ面白かったんですけど、この素晴らしさを一体どこから伝えたらいいのでしょう? 言語化ムズくね?!
物語はとてもシンプルです。海洋博物館のオーナーとトップハム・ハット卿の会話を聞いたスキフが人魚が来ると信じ、ダックに笑われながらも、人魚を見ようと旅に出るというもの。特別な道徳やテーマ性はありません。強いていえば第17シリーズ『とまらないウィンストン』と少し似ています。
しかし、その旅路にトップハム・ハット卿が加わると、エンタメ性に富んだ展開になり、とても面白く、笑わせていただきました。通常、コメディ要素を取り入れると物語に関係のない場違いでハチャメチャな展開が続いたりするもの*1ですが、この『スキフとにんぎょ』はそうせず、ヘレン・フォラルの技量なのか、それとも絵コンテ班、あるいはディアンナ・バッソ監督によるものなのか、はたまた全て合わさった結果なのか、上手いことストーリー性に噛み合わせられているんです。
それも、孫たちを博物館に残して、トップハム・ハット卿がライフジャケットを身につけ、スキフに乗る場面さえ本当に自然な流れでした!!
ノスタルジーを強く実感した最大の理由は、このシンプルなストーリー性と、キャラクターたちのやりとりですね。アールズバーグ港の物語なので、乗り物のキャラクターは、トーマスのカメオ出演を除けば、小西部鉄道所属と、救助に来るハロルドとキャプテンだけで展開されます。
オリバーとトードは、ダックのいない場所でスキフに自信を持たせる役割で登場します。特にダックは、自分なりにスキフを思いやっているだけなのですが、そうでない時はちょっぴり見下しているように見えます。この絶妙な関係性がとにかく大好きで、不快感もなく何度でも見返せます。
それから、ダックが"グレート・ウェスタン流"を多用しなくなったのも素敵なポイントです。彼は本当にそれだけのキャラクターじゃないですから。
トップハム・ハット卿によるコメディ展開は、第17シリーズ以降増えてきていて、そろそろやりすぎな感じさえありますが、普段は陸の上で仕事をする彼が、船の操縦がわからず、海の上で途端にポンコツになる様は理にかなっていてとても面白かったです。トップハム・ハット卿が甲板で慌てている中、スキフが至って冷静なのも含めて。
キャプテンには乗れることを考えると、スキフやソリみたいに簡素でエンジンやモーターなど制御の効かない乗り物には不安を覚えるのかもしれません。
やがてオールを無くして遭難すると、服は破れ、ネクタイを頭に巻き、なぜか口髭が生えています。なぜ短時間にこうも口髭が生えるのかわかりませんが、とにかく面白いです。
そして灼熱の夏の太陽の下で、自分はいつ救われるのか、どうやって救助されるのかと、2000年のサバイバルドラマ映画『キャスト・アウェイ』みたいに顔を描いた石に話しかけて若干躁状態でパニックになったり、「きっともうすぐ夜が来る…!」と重々しくクローズアップされるという、普段では絶対に見られないようなトップハム・ハット卿を見ることができます。ボーイスカウトの経験があるとかも呟いてましたね。
一方のスキフは、燃料=食料の心配もないし、場所がどこかわかっているからか理性を保ちつつ、彼の異常な状況に困惑しています。
そしてその遭難地点がトップハム・ハット卿が考えているよりもずっと近いことが判明したのも、救助後には、英雄的な音楽を背景に、ハリウッド風のやり切った表情で孫たちの元へ再び現れる様も、本当に面白かったです。ユーモアのセンス抜群。
スキフとトップハム・ハット卿の相互作用はもちろんですが、全体を通してアールズバーグ港を取り巻く人間関係を重点に描いているのも素敵なポイントです。スティーブン・ハットとブリジット・ハットとスキフの会話も微笑ましかったし、顔が水に浸かるのが嫌というのも共感できます。スキフは慣れたようですが。もう船乗りジョンに突然足蹴りされることもなくなりましたもんね。
他にも海洋博物館のオーナーや、スキフを操る灯台守のジョー船長という新キャラクターも出てきて物語を盛り上げます。特に、錨をあげたのがトップハム・ハット卿とはいえ、自分の知らないうちにスキフが勝手に海に出ていくことに気づいた時のジョー船長の反応はまさに完璧でした(笑)
物語の結末もとても気に入っています。最後にスキフが見たものをあえて映さないのは、ミステリアスで、想像力を働かせられて素晴らしいと思います。英国といえばクリーチャー。実は本当にいたりするかも…?
今回もアニメーションが本当に素晴らしかったです。水のアニメーション表現が難しいことは有名な話ですが、アーク・プロダクションはそれを見事に表現しました。情景は美しく、波立つ水面やカメラにかかる水飛沫が素晴らしかったです。その場にいるような体験でした。4Dにしたら面白そう。
また、アールズバーグ港の情景と、設定作りもかなり良いです。この情景はコーンウォールのパー港や、ウェイマス・ハーバー路面鉄道に近い雰囲気を持っています。
スキフのレールボートツアーとしての仕事内容は、このエピソードだけで十分描写されていて満足です。少数のお客さんを乗せて、港の周りを線路で移動した後、海に出て、ジョー船長が操縦しながら回り込み、また海洋博物館へ引き返してくる。もしソドー島が実在するなら、私としては是非とも一番行ってみたい観光スポットです。実現性を残しながらも夢があって最高のロケーションです。
また、ハロルドとキャプテンが無線機を使って会話しているのは、とてもかっこよかったです。無線といえば、原作34巻『Jock the New Engine』を思い出したのは私だけでしょうか? 1話目の『We Need Another Engine』でレックスの機関士が使っています。ちなみにこのお話は1967年後半と設定されています。
この時にはもうアールズデール鉄道で無線機が使われてるとしたら、レスキューセンターで使われていたってなんの問題もないですね。原作が徐々に現代になっていったように、TVシリーズも少しずつ時代が進んでいくのは良いことだと思います。
【チェックポイント】
映画『探せ!! 謎の海賊船と失われた宝物』より登場した、レールボートのスキフ(Skiff)。海軍から追い出された船乗りジョンが宝探しのために作った小舟です。映画ではすでに彼と何回も航海していることが語られていて、ジョンに足蹴りされようが心から友達と信じていたけど、船乗りジョンの本性が露呈した時、正義感が強くて純粋なスキフは彼の野心を裏切ることを決心しました。
ライアンと同じくらい、私の大好きなキャラクターです。見た目や活用もユニークで、モデルになったフェスティニオグ鉄道のスプーナーズ・ボートやそれ以前の歴史のレールボートよりも自由度と実用性が高く、設定も素晴らしいです。
スキフの基本的な性格は、楽観的でいつも前向きです。たとえかつての相棒、船乗りジョンから乱暴を受けても心を痛めることはありませんでした。純粋な心を持っていて、今回のように普段は落ち着いていても、目的のために子どものように興奮して行動を起こす時もあれば、映画や『ヒューゴとひこうせん』の時みたいに相手の良いところを見つけるのが得意です。
そして今では新しい相棒と働いています。
また、ファンの間では「スキフが自力で動いている」と指摘する人が多かったですが、スキフの場合、機関車や自動車とちがってずっと軽いですし、帆が開いている状態で、風で押されているのだろうと解釈できます。というか、帆の動きでそれがわかります。ファンが気づかないくらい、アニメーションが実に巧妙なんですよね。
言われて気づいたんですが、作りが単純な分、機関車よりも自分の構造を理解していそうですよね。改めて見返した時、「左舷と右舷のジブシートを使って操作してください」に笑いました。
意外にも原語版の声優は、人気俳優のジェイミー・キャンベル・バウアーのままでした。私は彼の高い声はあまり好きではありませんが、キャラクターによく合っていると思います。エディ・レッドメインと違って続投は嬉しかったです。
日本語吹替版は河杉貴志。ケビンが高音を維持して、ウィフは低音で演じられている中、スキフはその中間くらいの声域で、10歳前後くらいの少年の雰囲気を保っています。河杉さんの声、本当に大好きです。地声がソプラノ~アルトな男性マジで羨ましい。
そしてスキフの新たな相棒は、新キャラクターのジョー船長(Captain Joe)。『ヒューゴとひこうせん』と『ジュディとジェロームのぼうけん』でも、すでに顔を見せてましたね。実は、もっと前の第19シリーズ『ソルティーはうみをいく』でちゃっかり初登場していたんです。メインランド行きの船の船員として。
灯台守でありながら、現在のスキフの所有者であるようです。設定が素敵ですね。利己的でわがままな船乗りジョンとは対照的に、ジョー船長はとても親切で、いつもスキフを気にかけている様子が見られます。
原語版の声優は、もはやお馴染みマット・ウィルキンソン。
日本語吹替版は神尾晋一郎。原語版の高めの声とは打って変わって、低めのイケボで演じられています。イケボなのはいいんですけど、コメディシーンでは少し場違いに感じました。また、神尾さんは2023年から2D版『みんなでゴー!』シリーズでハロルド役を担っています。
そうそう、灯台の場面も面白かったです。トップハム・ハット卿がスキフに乗って消えてしまった後、ジョー船長が「きみたちのお爺さんは、ピンチに強い人だからな」と、スティーブンとブリジットを安心させようと話しますが、孫たちは静かに首を横に振ります。
場面転換の後、トップハム・ハット卿はカモメを追い払おうとして間違って残りのオールも海に放り投げてしまい、孫たちの認識が正しいことが判明。彼はまさにピンチを引き寄せる人ですね(笑)
全体的な面白さ:VERY FUNNY
リアリズム:☆☆☆
キャラ活用:☆☆☆
BGMの良さ:☆☆☆
アニメーション:AMAZING
道徳:☆☆
【最終的な感想】
いくらでも語れそうなのですが、とりあえずこれくらいで(笑)。物語はシンプルですが、コメディが上手いこと結びついていて、調和して、9分の最高のエンターテインメントになっています。あの暗い時代からスキフが元気にやっている姿を見られてとても嬉しいですし、ドラマチックで、取り巻く人間関係や機関車キャラクターとの相互作用も見ていて楽しかったです。間違いなく、名作の一つだと思います!
総合評価: 10/10
【第20シリーズ総合評価】
1 うたうシドニー 9/10
2 サンタクロースへのてがみ 10/10
3 トビーとフィリップ 8/10
4 ヘンリーか?ゴードンか? 10/10
5 コーヒーポットきかんしゃグリン 6/10
6 グリンとスティーブンのレース 10/10
7 ディーゼルのひみつ 9/10
8 ブラッドフォードってきびしい 9/10
9 じかんをせつやくしよう 5/10
10 ライアンとデイジー 10/10
11 やみにひかるヘンリー 9/10
12 おそろしいようかい 2/10
13 みらいのきかんしゃ -3/10
14 ヒューゴとひこうせん 6/10
15 ジュディとジェロームのぼうけん 6/10
16 スキフとにんぎょ 10/10